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2014年6月10日火曜日

希望の階層差

 前回みたように,日本では青年期にかけて希望がない者が増大する傾向にあり,学校から社会への移行期である20代前半でピークを迎えます。こうした希望剥奪現象は,他の社会では観察されない,わが国固有のものであることも知りました。

 今回は,青年期にかけて希望を剥奪されるのは「誰か」という問題を考えてみましょう。教育社会学の視点からすると,社会階層による差はどうか?という点に興味が持たれます。

 内閣府の『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』(2013年度)では,調査対象の青年に対し,父母の学歴を尋ねています。私は,父母とも大卒(院卒含む)の者を「上層」,父母とも非大卒の者を「下層」と括りました。学歴は一般に,職業や所得とも連動しますから,出身階層を測るメジャーとして使っても問題ないでしょう。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/pdf_index.html

 本調査の日本のサンプルは,13~29歳の青年層1175人ですが,上記のやり方で分類すると,上層が193人,下層が627人,その他が355人という構成になります。下層が多いですが,青年層の親の世代では,大学進学率がそれほど高くなかったためでしょう。

 上層193人,下層627人の青年について,「将来に対し明るい希望を持っているか」という設問への回答分布を示すと下図のようです。


 青年を出身階層で分割して比較してみると,上層の青年のほうが希望を抱いているようです。太枠で囲った,広義の希望あり率をみると,上層は71.0%,下層は54.7%であり,15ポイント以上の開きがあります。

 これは,13~29歳という幅広い年齢層をひっくるめた結果ですが,ここでの主眼は,年齢段階による変化が出身階層によってどう違うかを観察することです。前回と同様,4つのステージに区分して,「希望がない」(上図の紫色)と答えた者の比率を出し,折れ線でつないでみました。


 出身階層ごとに傾向を分けてみると,曲線の型の違いが一目瞭然です。前回みた希望剥奪現象は下層の青年にだけみられ,上層の青年にはみられません。

 学校から社会への移行期にかけての希望剥奪は,もっぱら下層の青年が経験するものであり,その状態が後の段階まで継続することが注目されます。上層の青年にあっては,20代前半時の急増はなく,20代後半のステージになると,「希望なし」率がガクンと下がるのです。

 有力大学進学チャンス,それに由来する有名企業就職チャンスの階層差があることも思うと,さもありなんという結果です。ちなみに,他の社会についても同じデータをつくってみましたが,上図のような明瞭な階層差が見受けられるのは日本だけです。

 シューカツやブラック企業のように,現代のわが国には青年層の将来展望を暗くする要素が多々あり,青年の危機状況がいわれますが,それには社会階層間のグラデーションがあるようです。

 これぞ,希望格差。役所の方々には決して歓迎されないでしょうが,青年問題を議論するに際しては,「社会階層」という変数を挿入する必要があるのではないかと,改めて感じます。