ページ

2015年2月11日水曜日

パラサイト・シングルの不幸感

 お気楽といわれているパラサイト・シングル。親に寄生(パラサイト)し続けている独身者(シングル)ですが,最近,彼らの苦労や困難を指摘するネット記事が目につきます。

 最近の記事では,藤田孝典氏の「家を借りることがリスクな時代-檻のない『牢獄』と化した実家-」というのがあります。リッチと思われているパラサイト・シングルですが,フタを開けてみると所得が低く,家を出ようにも出れない人が多いのだそうです。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/fujitatakanori/20150204-00042801/

 1999年に出た山田教授の『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書)では,リッチで生活満足度も高いというふうに描かれていましたが,最近では様相が変わっているみたいです。

 実家を出て一人暮らしするにもお金がかかります。雇用の非正規化も進んでいるなか,その費用を捻出できない者もいることでしょう。そこで仕方なく,親に小言を言われるのを我慢しながら実家に居続ける。出るのを遮る檻があるわけではないが,出たくても出れない。なるほど,藤田さんの「檻のない『牢獄』」という比喩は上手いですね。

 こういう状況ですので,パラサイト・シングルの意識も変わってきていることでしょう。『世界価値観調査』(2010-14)のデータを使って,最近の状況を観察してみましょう。この調査では,配偶関係や親との同居状況を尋ねていますので,パラサイト・シングル(未婚の親同居者)を取り出すことが可能です。
http://www.worldvaluessurvey.org/wvs.jsp

 私は,日本の20~40代のサンプルを使って,パラサイト・シングルとその他の群で,不幸を感じる者の比率を比較してみました。「あなたはどれほど幸福か」という問いに対し,「あまり幸福でない」もしくは「まったく幸福でない」と答えた者の割合です。

 20代のサンプルは260人で,このうちパラサイト・シングルは183人です。よって,残りの77人がその他の群となります。はて,この183人と77人では,不幸を感じる者の割合がどう違うか。30代,40代ではどうか。こういうことを明らかにしてみました。以下に,計算の原表を掲げます。


 どの年齢層でも,不幸感はパラサイト・シングルのほうが大きくなっています。パラサイト・シングルの場合,30代になると率がぐんと大きくなり,40代では3割近くになります。加齢に伴い不幸感が増すのはその他の群も同じですが,伸び幅が違いますね。

 さすがに30代や40代になるまでパラサイト生活を続けていると,将来への不安がもたげてくることでしょう。今は世話をしてくれている親も,やがては逆に世話が必要な存在になります。いつ要介護状態になるか,はては亡くなってしまうか・・・。山田教授の喩えを借りると,これまで浸かっていた心地よいぬるま湯がだんだん冷たくなってくることに対する,焦りの表れともとれます。

 また,同年代の中でどんどんマイノリティー化してくるという文脈変化の影響もあると思われます。20代ではパラサイト・シングルのほうが多数派ですが(260人中183人),40代になると413人中42人というように1割ほどになってしまいます。こういう位置変化も,先ほど述べたような焦燥感を駆り立てるのではないでしょうか。

 このようなことも勘案しつつ,加齢に伴う事態の変化をビジュアル化してみましょう。上表の6群(2群×3年齢層)の量的比重を四角形の面積で表現し,それそれを不幸感の比率の水準で塗り分けた図をつくってみました。


 パラサイト・シングルは年齢を上がるにつれ少なくなってきますが,その分,不幸が凝縮されてくる様が見受けられます。先述のように,40代の高年パラサイト・シングルでは,不幸を感じている者が3割近くになります。

 基礎的生活条件を親に依存しつつ,リッチな生活を送っているパラサイト・シングル・・・。こういうイメージがありますが,最近の状況はそれとは逆であることが知られます。

 少し前では,親同居税などにより実家から引きずり出すことが議論されていましたが,近年では,「檻のない『牢獄』と化した実家」が焦点であるといえましょう。要するに,支援の対象となり得るわけです。

 未婚の親同居者の性格変化がみて取れます。パラサイト・シングルというと親の脛をかじり続ける独身者ですが,「閉じ込められた独身者」の意味の英訳を充てたらどうかという気がします。