ブルデューが名著『ディスタンクシオン』で明らかにしていますが,趣味や嗜好は職業によって大きく違います。昨年の9月7日の記事では,1年間の美術鑑賞実施率とパチンコ実施率のマトリクス上に31の職業を散りばめたのですが,専門職やホワイトカラー職は「美術高・パチンコ低」のゾーンに多く分布しており,ブルーカラー職はその対極のゾーンに多く位置していました。
今回は,30あまりの趣味・娯楽の実施率を多変量解析にかけて,各職業の趣味・娯楽の総合タイプを引き出してみようと思います。
総務省『社会生活基本調査』(2011年)には,過去1年間の生活行動の実施率が掲載されています。趣味・娯楽のカテゴリーの表をみると,33項目の実施率が職業別に明らかにされています。スポーツ鑑賞,美術鑑賞,音楽鑑賞,おどり,書道,カラオケ,パチンコ・・・などです。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm
私は,31職業の30行動(線形結合している3つを除外)の年間実施率を主成分分析にかけ,これらの情報を集約する2つの主成分軸を取り出してみました。第1軸の固有値は17.50,第2軸のそれは4.95です。合算すると22.45であり,全情報(30行動)の75%ほどの情報価値が,この2つの軸に集約されていることになります。まずまずの精度とみてよいでしょう。
それでは,検出された2つの軸の性格づけを行いましょう。主成分得点に基づいて,30の趣味・娯楽行動がこれらの軸の上に位置づいているのですが,軸の両端にどういう行動が位置しているのかをみてみます。
第1軸をみると,プラス方向には芸術的な趣味が多くあり,マイナス方向には大衆的な行動品目が並んでいます。これにちなんで,第1軸は「芸術的-大衆的」の性格を分かつ軸とみなしましょう。
続いて第2軸ですが,プラス方向には室内でのゲームや鑑賞行動が目立ち,マイナス方向では園芸,おどり,ダンス,創作活動などが目につきます。そうですねえ・・・。ひとまず,「受動-能動」の軸とでもいたしましょうか。
この2軸を交差させることで,4つの趣味・娯楽タイプが設定されます。このマトリクス上に,31の職業を位置づけたらどうなるでしょう。各行動の主成分得点を実施率に乗じて合算することで,それぞれの職業の主成分総得点が出てきます。たとえば教員でいうと,第1成分軸の総得点は9.352,第2成分軸のそれは1.200です。
この値に依拠して,2つの軸の座標上に31の職業を散りばめると,下図のようになります。
第1象限(芸術×受動)に位置するのは,鑑賞型と命名しましょう。第2象限(大衆×受動)はオタク型,第3象限(大衆×能動)はアクティヴ型,最後の第4象限(芸術×能動)は創造型なんていうネーミングでいかがでしょうか。
各タイプに含まれる職業をみると,結構特徴が出ています。鑑賞型には専門職やホワイトカラー職が多くなっています。お隣のオタク型は,生産工程職がほとんどです。男性が多いという,性別の影響もあるでしょうが。
左下のアクティヴ型では労務職,右下の創造型ではサービス職が幅を利かせています。高齢者と接する機会の多い介護職従事者にあっては,詩や和歌などを作る創作趣味が自ずと身に付くのでしょうか。
上記の図には,目ぼしい位置の職業名しか入れていませんが,他の職業はどうかという関心もあるでしょう。そこで,31職業すべてのタイプ一覧表を掲げておきます。ご自身で先ほどの布置図に位置づけられるよう,各成分軸の総合得点も掲げておきます。
専門職は鑑賞型,サービス職は創造型,ブルーカラー職はオタク型,労務職はアクティヴ型というように,きれいに性格づけることができるように思えます。
これぞ,「ジャパニーズ・ディスタンクシオン」。日本でも,趣味や嗜好の階層差ははっきりと存在するようです。教育社会学の授業でブルデューの学説を話しても,いまいちピンとこない学生さんが多いのですが,このデータを教材にして話そうかなと思っております。