川崎の事件の影響で,非行問題への関心が高まっています。久しぶりに非行に関する記事を書きたいなと思い,内閣府「非行原因に関する総合的調査」(2010年3月)の結果表を眺めていたところ,「おや」と思うデータがありましたので,それをご報告しようと思います。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/hikou4/html/html/mokuji.html
タイトルにあるように,学業成績と非行の関連についてです。この2つは,カレーライスと福神漬のごとく切っても切れない関係にあり,互いに強く関連しています。「成績不振→非行」という因果経路は,誰もがピンとくるでしょう。学歴社会のわが国では,なおさらのこと。学校での成績が振るわないことは,将来展望閉塞をもたらし,当人を非行へと傾斜せしめるのに十分な要因となり得ます。
それはいつの時代でもそうだろうといわれるかもしれませんが,最近になって,両者の関連が強まっているのではないか。上記の調査から,こういう疑いを持たせるデータが出ています。一般少年と非行少年の,学業成績分布の変化です。
非行が最も多い中学生男子のデータです。非行少年とは,刑法犯・特別法犯で警察に検挙・補導された,12歳以上の犯罪少年・触法少年をさします。上表は,一般少年と非行少年の群に,クラス内での成績を3段階で自己評定させた結果です。*無回答が若干いますので,3つの合計は100%にはなりません。
これをみると,一般少年はこの30年間でさほど変わっていませんが,非行少年のほうは成績不良者が明らかに増えてきています。不良の割合は1977年では47.9%でしたが,2009年では79.0%,8割近くにも達しています。グラフにすると,事態の変化がより分かりやすいでしょう(下図)。
このように,両群で成績分布の乖離が大きくなっていることは,学業成績が振るわない者から非行者が出やすくなっていることを示唆します。
一般少年と非行少年の数値を照らし合わせることで,この点を可視化してみましょう。最初の表によると,2009年の一般少年の成績不良率は35.6%,非行少年のそれは79.0%です。よって,成績不良者からの非行者の出現確率は,79.0/35.6 ≒ 2.219,という数値で測られます。
表の最下段の数値は,この値を百分比で表したものです。非行少年の中での割合を,一般少年のそれで除した値です。それぞれの成績群から,非行少年が出る確率のメジャーとして使えるでしょう。ここでは,非行少年の輩出率と呼ぶことにします。
各群からの非行少年輩出率がどう変わってきたかを,折れ線グラフにしてみました。ジェンダーの差もみるため,女子のデータもつくりました。
成績良好群と普通群からの輩出率は減っていますが,不良群からの輩出率は一貫して上昇してきています。この傾向は,男子よりも女子で顕著です。
ポストモダンとか価値観の多様化とか盛んにいわれるようになり,学業成績に重きを置かない子どもが増えている,という指摘を何かの記事で読んだことがあります。しかし現実は上のとおりで,学業成績は未だに子どもの自我の強いよりどころであり,その善し悪しが非行に影響する経路があるようです。むしろ最近では,それが強まっているとすらいえます。
調査の始点の1977年では,大学進学率は26.4%でしたが,終点の2009年では50.2%にまで高まっています。トロウ流にいうと,高等教育のユニバーサル段階への突入です。大量進学体制はますます強まり,上級学校への非進学という選択肢は取りにくくなっています。こうした状況のなか,成績如何が自尊心はく奪や将来展望不良を媒介にして,非行につながるという因果経路が太くなっているのではないでしょうか。
1月8日の記事でみたように,勉強の得意度と自尊心は強く関連しており,学年を上がるほどそれは明瞭になってきます。しかるに,自尊心や将来展望の基盤は,年齢を上がるにつれて多様化すべきものであり,その逆であってはなりません。青年期にもなれば,興味や関心が分化してくるのは当然であり,子どもがどの道を志向しようとも,頭ごなしに否定されるべきではありますまい。
今回は,学業成績と非行の関連の一端をみましたが,よくいわれるように非行は家庭環境とも強く相関しています。とくに家族形態との関連が重要で,両親ありの世帯と一人親世帯では発生率がどう違うか,という問題がよく取り上げられます。4月6日の日本教育新聞コラムにて,この点のデータを載せる予定です。どうぞ,ご覧ください。