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2015年3月8日日曜日

兄弟地位による人格比較

 人間は社会の中で何らかの地位を占め,それに応じた役割を遂行するのですが,そのことが継続することで,当該個人に固有の行動性向,いわゆる人格が形成されるようになります。

 これは家族という小社会についてもいえることでして,父親,母親,そして子どもにあっては兄姉・弟妹といった地位があり,それぞれに対し明示的・非明示的な役割期待が向けられ,各人はそれに沿った行為を遂行します。この違いは,子どもの人格形成に際して少なからぬ影響を及ぼすでしょう。

 長子は下の面倒をみ指導もしなければならないことから,独立的・攻撃的な人格ができやすいといわれます。逆に末子は上に従属・依存する位置にあることから,依存的・甘えん坊的な人格になりやすい。上も下もいる中子は双方の「いいとこ取り」をできる位置にあるので,こすっからい,振舞い上手の向きに傾くと。

 書店で立ち読みした育児書にこんなことが書かれていましたが,データでみるとどうなのでしょう。厚労省「21世紀出生児縦断調査(2001年出生児)」では,3歳児(第4回調査,2004年)と9歳児(第9回調査,2010年)の父母に,当該の子の人格について尋ねています。それを,兄弟構成とクロスさせた集計表も公表されています。下記サイトの表101です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001085569

 私は,兄弟内の地位を自覚し,ある程度人格も固まりつつある9歳児のデータを使うこととしました。上記の調査は,2001年に生まれた子どもの追跡調査ですが,2010年,すなわち9歳の対象児童数は以下のようです。兄弟構成別の数を示します。

 一人っ子(兄弟なし) ・・・ 4705人
 長子(弟妹のみあり) ・・・ 12621人
 中子(兄姉弟妹あり) ・・・ 4006人
 末子(兄姉のみあり) ・・・ 13932人

 これらの9歳児の人格を父母が主観評定しているわけですが,「おとなしい」と評された子どもの割合は,一人っ子では15.4%,長子では16.9%,中子では12.0%,末子では10.7%となっています。ほう,兄弟ありの子どもでみると,上にいくほど高いですね。「お兄ちゃんなんだから我慢しなさい」と抑えつけられることが多いためでしょうか。

 では,他の人格項目の該当率もみてみましょう。下の表は,21の項目の該当率を群ごとに整理したものです。赤字は,4群の中の最高値です。右端の「傾向」の欄は,兄弟ありの3群の傾向を示すもので,上に行くほど高い場合は「>」,その逆の場合は「<」の不等号を記しています。


 私が「ははあ」と思った数字には黄色マークをしましたが,やっぱ甘えん坊は末っ子に多いですね。「長<中<末」というきれいな傾向です。他の兄弟との関わりあいをしないで済む一人っ子で「マイペース」が多いのも納得。好奇心旺盛,飽きっぽい,落ち着きがないのマックスが一人っ子というのも注目かな。ふるまいの自由度が高いので・・・。

 育児経験のない私に,上表のデータを解釈する経験知はありませんが,人によっては思うところもおありでしょう。どうぞ,上記の素材をさまざまな角度から眺めてみてください。

 これで終わりでは芸がありませんので,長子と末子の該当率を視覚的なグラフにしてみましょう。上と下の違いの可視化です。横軸に長子,縦軸に末子の該当率をとった座標上に,21の人格項目を位置付けてみました。


 斜線は均等線であり,この線よりも下にあるのは長子的パーソナリティー,上にあるのは末子的パーソナリティーと読んでよいかと思います。

 ざっくりと対照させるなら,末子は活発,好奇心旺盛,お調子者,勝ち気,我が強いという「外向的」人格,長子は恥ずかしがり屋,慎重,おとなしい,気が弱いといった「内向的」人格でしょうか。個人の私的な体験が影響しているでしょうが,兄弟内の地位の違い,それに応じた役割期待の差という条件も効いていることは間違いありますまい。

 ここでお見せしたのは,あくまで父母による主観評定のデータです。厳密にいうなら,それぞれの人格特性をしっかり定義して,各々を測る複数のメジャーを設け,それを合成するというような手はずが求められます。まあしかし,せっかくこういう公的なデータがありますので,世間の関心が高い「兄弟内地位による人格比較」という資料に仕上げてみた次第です。

 ママさん・パパさんのティータイムの話ネタにでも使っていただけますと幸いです。さて,そろそろ休日の3時ですね。私も,おやつタイムといきましょう。