表記のテーマは,子育て施策関係者の大きな関心事でしょう。この点については,都道府県単位のデータによる分析はありますが,県という単位は大きすぎます。それに,都市と農村という基底的な条件の違いがあり,三世代世帯率のような,他の要因の影響が入ってくる恐れがあります。
そこで私は,大都市という基底的特性を同じくする東京都内23区のデータを使って,この問題を検討してみることにします。
まずは,出生率が区ごとにどれほど違うかを明らかにしましょう。出生率とは,2013年中に25~34歳の母親から生まれた新生児数を,同年1月1日時点の25~34歳の女性人口で割った値とします(分子・分母とも日本人)。出産期の女性千人あたり,何人の子が生まれたかです。
たとえば足立区でいうと,分子は3274人,分母は38863人ですから,出生率は84.2‰となります。分子の出所は「東京都人口動態統計」,分母の出所は「東京都住民基本台帳」です。
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kiban/chosa_tokei/eisei/jinkou.html
http://www.toukei.metro.tokyo.jp/juukiy/2013/jy13000001.htm
このやり方で,2013年の23区の出生率を計算し,マップにしてみました。
ほう,色が濃いゾーンは固まっていますね。東で高く,西で低いという,「東高西低」の模様です。最高値は江戸川区の89.0‰,最低値は渋谷区の51.7‰となっています。前者は後者の1.7倍です。大都会の内部でも,出産期の女性から何人の子が生まれるかは,区によってかなりの差があるようです。
ここでの関心は,今明らかにした各区の出生率が,保育所の供給量とどう相関しているかです。共働きの風潮が高まっていますので,幼子を長時間預かってくれる保育所の供給量が多く区ほど,出生率は高いのではないか。これが仮説です。
保育所供給率をどう計算するかですが,基本的な考え方は,保育所を求める需要層あたりでみて,保育所入所のイスがどれほど用意されているかです。分子となる後者は,2013年4月1日の認可保育所定員を使うこととします。資料は,「東京都福祉・衛生統計年報」です。
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kiban/chosa_tokei/nenpou/2013.html
このイスを求める(奪い合う)需要層としては,先ほどの出生率算出の分母として用いた,25~34歳の女性人口を充ててよいでしょう。0~5歳の乳幼児人口を使う案もありますが,この数は,「産む」という選択を経た後の数です。それよりも,子を産むかどうかを決定する主体である,出産期の女性人口をベースにするのがよいと思います。その意思決定に際しては,自地域の保育所整備状況も勘案されることでしょう。
以下に,区別の出生率と保育所供給率の一覧を掲げます。計算に使った,分子・分母の数値も入れます。率の最高値には黄色,最低値には青色のマークをしました。赤色は,上位3位です。
出生率の地域差は先ほど見たとおりですが,保育所供給率も区によって違いますね。最低の杉並区と最高の葛飾区では,3倍の開きがあります。前者の杉並区では,保育所定員の拡充を求めるママさんらの運動が起きたのでした。
表の数値をみると,保育所供給率も「東高西低」のような感じです。率が高いのは,墨田区,江東区,足立区,葛飾区,江戸川区など,東部の区がほとんどです。
それでは,両者の相関図を描いてみましょう。横軸に保育所供給率,縦軸に出生率をとった座標上に,23の区を位置付けてみました。
保育所供給率が高い区ほど,出生率が高い傾向がみられます。相関係数は+0.782であり,1%水準で有意です。保育所の整備は,出生率の向上に寄与する,ということでしょうか。
昨晩,ツイッターでこの図を発信したところ,「頷ける結果だ」という反応が結構ありました。実際の経験から,「保育所供給率と出生率がキレイに正相関しているのは納得」とのことです。
https://twitter.com/hoshina_shinoda/status/609322559809548288
「母親を家庭に押し込める」ではなく,「母親の就業チャンスを促す」というのが,出生率向上の施策の基本スタンスとなるべきなのでしょうね。
前に,同じく都内23区のデータを使って,保育所供給率と母親の就業率の相関を検討したところ,こちらも強い正の相関でした。この記事をみた,某市の議員さんが,「出生率と保育所数の相関のデータはないか」と言ってこられたことがあります。あれば,議会質問に使いたいとのことです。それに使えるデータかは知りませんが,こういう傾向が出ましたので,ここに提示しておきたいと思います。