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2015年9月18日金曜日

教育のICT化の国際比較

 9月8日のニューズウィーク日本版に「日本の学生のパソコンスキルは,先進国で最低レベル」という記事を寄稿しました。内容は,タイトルの通りです。

 あくまで自己評定の結果で,わが国の生徒の多くが謙虚な回答をしたためかもしれませんが,パソコンの所持率が低いことを考えると,そうでもなさそうです。当然ですが,パソコンに実際に触れないと,スキルは身に付きませんから。

 なぜ日本の生徒がパソコンを持たないかというと,必要ないからでしょう。今の社会ではネットは不可欠ですが,仲間と交信したり,ちょっとした情報収集をするだけならスマホで十分。机の上に鎮座しているパソコンと向き合う必要はないわけです。

 しかし,教育のICT化が進んだ国ではそうはいきません。授業でコンピュータを使う頻度が高く,提出物もネットでやり取りするような国では,否が応にも自分専用のパソコンが必要になるでしょう。米国では,小学生でもパワポでもプレゼンがザラ。この国からの帰国子女が驚くのは,日本では作文を手書きで書かされることなのだそうです。

 今回は,教育のICT化のレベルを国ごとに比べてみようと思います。教育のICT化とは,学校での教授活動において,コンピュータ等のICT機器が重要な役割を果たすようになることをいいます。高度情報社会では,当然の成り行きです。社会が情報化している以上,教育も情報化しないといけません。

 はて,それぞれの国では,学校での教授活動において,コンピュータがどれほど使われているのか。OECDの「PISA 2012」のICT調査では,15歳の生徒に対し,学校内外での学習に際して,コンピュータをどれくらいの頻度で使うかを尋ねています。


 学校外は7項目,学校内は9項目について,使用頻度を5段階で問うています。これらへの回答を合成して,学校外,学校内の学習におけるコンピュータ利用頻度を測る尺度(measure)を作ってみます。

 やり方は簡単で,選択された数値を合計するだけです。上段の学校外でいうと,全部「5」に丸をつけるスーパーICT少年は35点(5×7=35)となり,全部「1」を選ぶ生徒は7点となります。つまり,学校外の学習でのコンピュータ利用頻度は7~35点までのスコアで測られるわけです。学校内の利用頻度スコアは,9~45点の分布をとることになります。

 私は,上記調査のローデータを分析して,各国の15歳生徒のスコア分布を出してみました。手始めに,学校外の利用度スコア分布を例をお見せしましょう。下図は日本の生徒5974人と,北欧のノルウェーの生徒4301人の点数分布です。分析対象は,上表の全項目に有効回答を寄せた生徒です。


 日本は,最低の7点が最も多くなっています。7項目すべてに「滅多にしない」と答えた生徒が24.3%,4人に1人もいます。ノルウェーは16点がピークとなっています。おおむね,どの項目も「月に1~2回」はやるレベルです。

 この分布から平均点を出すと,日本は9.82点,ノルウェーは15.95点となります。この値は,学校外でのコンピュータ利用頻度の指標として使えます。これでみると,北欧と比した日本の低さが一目瞭然です。

 上記調査の対象となった43か国について,この値を軒並み計算してみました。下に掲げるのは,そのランキング表です。左側は学校外,右側は学校内の利用頻度スコア平均です。米英仏は本調査に回答しておらず,データがないので入れていません。


 日本は,学校外・学校内とも最下位です。教育のICT化の最後進国。想像はしていましたが,こうやって数値で可視化されると,ぐうの音も出ません。

 上位は東欧の社会が多いですね。デンマークは,教育のICT化の先進国です。2010年の「情報通信白書」では,この国のICT教育のスゴさについて触れられています。曰く,「デンマークの学校教育においては,ICTは決して特別なものではなく,子どもたちの日々の学校生活に溶け込んでいる」のだそうです。

 こうみると,先日のニューズウィーク記事でみた,日本の生徒のパソコンスキル最低というデータは,あながち謙虚な回答のためばかりとはいえないようです。なずべきことは,教育のICT化をより押し進め,生徒たちをして,パソコンに触れる必要にさらすことでしょう。上記のランキング表から,その余地は多分にあるとみられます。

 考えてみれば,日本は世界でも有数の高度情報社会ですが,学校だけがその時勢から取り残されています。こういうところにも,学校と社会の間にある敷居の高さがうかがわれます。デューイ流にいうと,学校が社会から断絶した「陸の孤島」状態にある,ということです。

 このような状況を変革し,生徒をして,情報化社会の現実に触れさせる必要があります。

 もちろん,学校にパソコンをばらまくというようなハード面の整備だけでは足りず,それを使いこなす教員のICTリテラシー向上を図る研修も不可欠であることは,言うまでもありません。確か,「TALIS 2013」で教員のICTスキルを聞いていたように思いますが,こちらの国際比較もしてみようと思っています。