昨日,表記タイトルのデータをツイッターでアップしたところ,見てくださる方が多いようなので,ブログにも載せておきます。博士課程修了者数と新規学卒の大学本務教員採用者数を,照合して算出したものです。ここでいう大学には,短大は含みません。
新規学校卒の大学教員採用者は,多くが博士課程修了者とみてよいでしょう。よって,上記の後者を前者で除せば,博士課程修了者の大学教員採用率の近似値が出せます。分子は文科省『学校教員統計』,分母は同省『学校基本調査』で拾うことができます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kyouin/1268573.htm
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm
私は,大学院重点化政策がしかれる前の1989年度と,2013年度の統計を比べてみました。専攻によって様相は異なると考えられるので,専攻別の数値も出しました。下の表は,結果の一覧です。
1989年度の博士課程修了者は5576人,新卒の大学本務教員採用者は1626人。よって,この年の大学教員採用率は29.2%となります。およそ3割。
しかし四半世紀を経た2013年度では,この値は6.1%まで下がっています。それもそのはず。分母(a)が増えているのに対し,分子(b)は減っているのですから。前者は90年代以降の大学院重点化政策,後者は少子化により採用ポストが減っているため。新卒時の断面ですが,近年の大学教員市場の閉塞化が,はっきりと可視化されています。
これは全体の傾向ですが,専攻別にみても同じです。家政系の率が高いのは,学部卒や修士卒の採用も多いためでしょう。人文・社会系は減少幅が大きく,人文科学は28.4%から4.9%,社会科学系は41.4%から7.3%への下落です。大学院重点化政策前は,社会系ドクターの4割は,修了と同時に専任ポストをゲットできていたのですね。最近では,14人に1人。変わったものです。
社会科学専攻の変化の様相を,視覚化しておきます。分子・分母の量を,正方形の面積で表した図です。
先ほども書きましたが,上記の表は,修了時点の断面を観察したものです。近頃は,非常勤講師やポスドクなど非正規からキャリアをスタートし,数年後に専任職を得るパターンが一般化していますので,その影響もあるかと思います。
また,大学教員以外の職に就く者が増えていることも考えられます。そもそも,90年代以降の大学院重点化政策は,それを想定してなされたものでした。産業界から,高度な人材に対する需要が高まるであろうと。
それは,『学校基本調査』の進路統計からも分かります。博士課程修了の就職者のうち,科学研究者,大学・短大教員以外の職に就いた者の割合を計算してみました。『学校基本調査』の進路統計の就職者には,非正規就職者も含まれます。
全体や理系ではさほど変わってませんが,人文社会系や教育系では増えているではありませんか。社会科学では,17.5%から41.8%へと,倍以上にアップしています。『学校基本調査』の原統計をみると,「その他専門・技術職」というカテゴリーの比重が増えているのですが,具体的にどういう職かは分かりません。大学教員を諦めて予備校講師になる,という院生も増えているのかも。
大学院は研究者養成を主たる機能としていますが,これから先は,そればかりを強調していては,己の存在意義を分かってもらえそうにありません。機能の拡張・多角化が求められます。研究職以外の高度専門職養成機能,リカレント学生の受け入れなど,生涯学習社会のセンターとしての機能・・・。いろいろ想起されますよね。
この点については,雑誌『教育』2014年12月号に書きました。拙稿「データでみる大学院のいま」。興味ある方は,ご覧いただけますと幸いです。
http://ci.nii.ac.jp/naid/40020481256