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2015年12月2日水曜日

収入の地域格差の拡大

 90年代以降の「失われた20年」にかけて,人々の収入は減ってきています。東京という大都市に限ってもそうです。

 総務省『住宅土地統計調査』のデータを使って,東京都内特別区部(23区)の世帯年収分布がどう変わったかをグラフにすると,下図のようになります。年収が判明する普通世帯の年収分布図です。
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/kekka.htm


 1993年では年収が高い世帯が多い右上がりの曲線だったのが,20年を経た2013年では,低収入層が増えています。2コブの折れ線です。

 階級値に依拠して,この分布から世帯年収の平均値を出すと,1993年が625.1万円,2013年が535.2万円となります(計算の方法は,3月1日の記事を参照)。この20年間で平均世帯年収が90万円も「失われた」わけです。

 これは世帯の年収であり,単身世帯や高齢世帯が増えたことによるでしょう。しかし個々の労働者の収入も減っていることは,よく知られていること。先日のニューズウィーク記事で紹介したデータをひくと,25~34歳の男性就業者の平均年収は,402万円から350万円へと減じています。結婚気の若年男性のデータですが,これでは未婚化が進むだろうなと感じます。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/10/post-4005.php

 さて,上のグラフは23区全体の変化ですが,この20年間の変化は,それぞれの区によって違っています。平均世帯年収を観察すると,減っている区がほとんどですが,減少の幅には地域差があります。23区のうち1つの区だけは,この「失われた20年」にかけて年収が増えています。そこはどこか?

 私は同じやり方で,平均世帯年収を区ごとに計算してみました。下の表は,1993年と2013年を比べたものです。右端の数値は,この20年間で何%減ったかを示す減少率です。


 23区全体の減少率は14.4%ですが,値は区によって多様です。台東区,墨田区,板橋区,練馬区,足立区,江戸川区は減少幅が大きく,20%以上の減です。

 対して世田谷区や豊島区などはほとんど減っておらず,港区のように逆に増えている地域もあります(774万円→779万円)。ヒルズ族の貢献ってやつでしょうか。

 このように減少率が疎らなことから,23区の平均世帯年収の地域格差も拡大しています。最高値から最低値を引いたレインヂは1993年では295万円でしたが,2013年では361万円にまで開きました。これは両端ですが,標準偏差も72万円から99万円に拡大しています。

 繰り返しますが,これは世帯の平均年収であり,単身化や高齢化のレベルが区によって違うためとも考えられます。しかし同じ大都市の都内23区では,そういう基底的な条件に大きな差はないとみてよいでしょう。上表のデータは,そういう条件の変化ではなく,まぎれもなく貧困化のレベルの地域差を示していると思います。

 この20年間で平均世帯年収の減少率が大きい区が,地理的に固まっていることにも注目。土地勘のある方はお分かりでしょうが,北部・東北部の区です。マップにするとよく分かります。


 「失われた20年」のダメージは,区によって違っています。富の減少率が大きいのは,もともと貧しかった地域。港区と足立区という対照的な2つの区を拾うと,「富めるはますます富み,貧じるはますます貧に」という感じになります。
 
 この20年間における収入減少はよく言われますが,それには格差の拡大が伴っていることを添える必要があるでしょう。まあ,個々人や世帯単位の収入のジニ係数がアップしていることは随所でいわれていますが,地域単位の格差拡大も付け加えておかねばなりません。

 子どもの学力格差を考える際も,家庭環境の要因と居住地域の要因は分けて考える必要があります。子どもは,済んでいる地域のクライメイトの影響を被るもの。場合によっては,後者が前者を凌駕することもあります。

 私は都内23区を例に,こういうデータをよく出していますが,「大阪市内の区別データも出してほしい」というリクエストをたまにうけます。東京の山の手・下町(東西)格差も大きいだろうが,大阪市内の南北格差はもっとスゴイと。しかし私は,大阪の土地勘はありませんで,ためらっています。『住宅土地統計』のデータは誰でも使えますので,どなたかやっていただけないでしょうか。

 こういうコラボにより,日本の主要大都市内部の格差を明らかにするのも,意義ある作業といえるでしょう。