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2015年12月27日日曜日

高卒者の正社員就職率

 昨日,面白いツイートをみつけました。柔軟な発想をなさる方なので,ちょくちょくツイッターをのぞかせていただいているのですが,以下のようなものです。
https://twitter.com/sateco/status/679497811172306944


 なるほど。数の上では,今となっては高卒者より大卒者が多く,希少性では前者のほうが上です。早く働き始めれば,スキルは身につくし,学費も浮くと。

 「高卒で就ける仕事なんてねーだろ」といわれるかもしれませんが,大卒の知識や技術が必要な仕事って,どれほどあるでしょう。企業が大卒者を好んで雇うのは,彼らのタレントに期待してのことではありません。「大卒者なら仕事の覚えも早かろう,間違いなかろう」と踏んでのことです。数多い応募者の中から,間違いのない人材を選ぶためのシグナルとして,学歴を使っているだけのこと。これを,シグナりリング理論といいます。

 腹の底では,上記の小林さんのような考えを持っている人が多いのでは,と思います。たしか,2013年の国際成人力調査(PIAAC)でも,日本では,「今の自分の仕事は,自分よりも低い学歴の人でもこなせる」と考える人が多かったのですよね。

 さて,今の日本は大学進学率が50%を超えているのですが,(賢明にも)高卒で就職する生徒もいます。統計でみて,高卒の就職率はどれくらいかと思い,2015年度の『学校基本調査』をみてみたら,なんと今年度から正規就職者と非正規就職者に分けて集計されているではありませんか。これを使えば,高卒者の正社員就職率を出せます。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528

 私は,今年春の高卒者の進路構造図を描き,正規就職者がどれほどいるかを可視化してみました。高卒者の特徴を出すため,短大卒,高専卒,大卒者の図もつくってみました。下図がそれです。


 左上が高卒者の進路構造図ですが,上級学校進学者が4分の3を占めます。正社員就職者は色つきの四角形ですが,卒業生全体に占める比率は17.6%です。就職の意思のない進学者を除いた,非進学者ベースでみると,正社員就職率は76.2%となります。こちらを使うのがいいでしょうね。

 非進学者ベースの正社員就職率(以下,正社員就職率)は,短大は77.9%,高専は96.7%,大学は80.3%となっています。さすが,高専はスゴイですね。高度経済成長を担う中堅技術者の養成のため,1961年にできた学校ですが,現在でも産業界から高く評価されているそうな。

 でも,高卒の正社員就職率は,短大や大学と大きくは違いませんね。高卒の「その他・不詳」には宅浪も含まれるでしょうが,この部分のベースから除くと,正社員就職率は大学より高くなるかもしれません。

 当然ですが,高卒者の正社員就職率は,地域によって違っています。上図にみるように全国値は76.2%ですが,都道府県別に値を出すと,かなりの開きが観察されます。下表は,高い順に並べたランキング表です。


 ほう,12の県で9割を超えているではないですか。私の郷里の鹿児島もそう。東京などの都市部の率が低いのは,宅浪が多いためでしょう。*予備校入学者は各種学校入学者にカウントされるので,ここでの率のベースには含まれません。

 まあ,上位の県では専門学科の比重が高いからでしょうね。ご存じのとおり,高校は普通科だけではなく,専門技術を教授する専門学科(工業科,商業科・・・)があり,総合学科という「第3の学科」もありますが,学科別の正社員就職率はどうでしょう。下表は,その計算表です。卒業生の数が少ない学科もありますので,分母・分子の値も示します。


 卒業生全体では76.2%ですが,農業,工業,商業,水産,そして福祉学科では9割を超えています。工業科は96%! これは,大学の理系学部の正社員就職率と比しても遜色ありません。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=3276

 建築や介護とかは,今は需要ありますから・・・。ただ,ここでみた正社員就職率は非進学者ベースであり,ホントは就職希望だけど無理そうなので,仕方なく専修学校に進学したというような生徒は,分母から除かれています。

 以上が,高校から社会への移行(Transition from School to Work)の現状ですが,この経路がもっと太くなってほしいと思います。高卒就職「トーゼン」の社会。現段階では絵空事で,時計の針を戻すような難事業ですが,これが実現したら,少子化のような問題はイッキに解決するのでは。

 大学に行くのは後からでもいいわけです。しかし,日本ではこれがなかなか難しい。「児童期(C)→教育期(E)→仕事期(W)→引退期(R)」を直線的に進む,直線モデルのライフコースが支配的。求められるのは,EとW(R)の間を自由に往来できる「リカレントモデル」の構築です。北欧では,これがある程度具現されています。それは,成人の通学人口率の国際データから分かること。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/08/post-3823.php

 今後,わが国では少子高齢化が進む,近未来には「子ども1:大人9」という社会になります。こういう社会においては,直線モデルは通用せず,リカレントモデルがふさわしい。社会変化がますます加速化し,人々は生涯にわたって「学びなおし」をする必要にも迫られます。人生の初期(子ども期)に教育の機会を集中させ,あとは一切ナシという現在のシステムは,時代にそぐわなくなります。

 選挙権が20歳から18歳に引き下げられましたが,18歳で社会に出るのがもっと「トーゼン」になっていい(大学を出てないとこなせない仕事なんて,数えるほどしかないのですし)。そうなった時,教育行政が為すべきは,成人の「学びなおし」の機会の拡充です。

 教育の機会が人生のあらゆる段階に分散し,18歳時において,大学への進学を社会的に強制されない社会になったら,どんなにいいか。私は教育社会学の「生涯学習」の講義で,このことを毎年話しています。