当然,労働者が得る年収も大きく違っていることでしょう。年収の性差,年齢差,学歴差についてはよく言及されますが,企業規模差というのも要注意です。組織社会といわれる日本にあっては,なおさらのこと。
いま,私と同じ30代後半男性を取り出し,学歴と企業規模のどちらが年収に強く影響しているかを検討してみましょう。年齢と性別を統制した上での比較です。
資料は,2015年の厚労省『賃金構造基本統計』です。学歴と企業規模を組み合わせた9つの群の推定年収がどう異なるか。
短時間労働者を除く一般労働者でみると,量的に最も多いのは,大卒の大企業(従業員1000人以上)勤務者です。この群の平均月収(諸手当込)は46.69万円,年間賞与額は172.06万円となっています。よって推定年収は,月収の12倍に年間賞与額を足して732.3万円となります。
下表は,同じやり方で出した9つの群の推定年収です。上段に各群の労働者数,中段に全体に占める割合(%)も掲げています。話を分かりやすくするため,量的に少ない短大・高専卒は,ここでの分析から外していることを申し添えます。
私の世代のデータですが,高学歴化が進んでいますので,中卒はマイノリティです。9つの群の中で人数的に最も多いのは,先ほど述べたように,大卒の大企業勤務者です(全体の22.0%)。その次が同じく大卒の中企業勤務者,その次が高卒の小企業勤務者となっています。
年収ですが,同じ大卒でも企業規模によって違いますねえ。大卒の小企業では487.8万円ですが,大企業では732.3万円です。その差は244.5万円。大企業内の中卒と大卒の格差より大きくなっています。
表の下段の年収をみると,ヨコの学歴差よりも,タテの企業規模差のほうが大きいことが知られます。年収って,学歴差よりも企業規模差のほうが大きいのですね。
上表のデータをグラフにしましょう。9つの群の量を四角形の面積で表し,各群の年収に応じて色分けしてみました。
ヨコよりも,タテの色の違いが際立っています。高卒大卒では,企業規模が上がるにつれて色が一段ずつ濃くなっていきます。繰り返しますが,年収の学歴差よりも企業規模差が大きいことの表れです。
あと一つ,面白いグラフをお見せしましょう。日本では年功賃金が強いのですが,年収は年齢とも強く関連しています。「年齢×企業規模」の群で,平均年収がどう違うか。2012年の『就業構造基本調査』のデータをもとに,男性正社員のグラフを作ってみました。
各群の平均年収の水準を,等高線の色分けで示したものです。
年齢が高く,企業規模が大きい右下の群ほど,平均年収が高くなっています。緑色は,平均年収700万以上のゾーンです。40~50代では,ヨコの企業規模差が大きいですね。
組織社会の日本では,個人の属性や能力よりも,勤めている会社の規模によって収入が強く規定される傾向にあると。予想ですが,個々の労働者が自分のスキルを売りにして複数の組織を渡り歩く欧米では,そうではないと思われます。
大企業が下請け企業の仕事を買いたたく「下請けいじめ」の件数が増えているそうですが,公正の観点から注意すべきなのは,組織間の格差かもしれません。性差,年齢差,学歴差などは「同一労働同一賃金」の掛け声のもと,糾弾されるようになっていますが,企業規模間の差への関心は,これに比したら薄いのではないかと。
2番目の面積グラフを業界ごとにつくり,各業界の自浄作用を促すことも求められるでしょう。『賃金構造基本統計』では産業別の統計もあるようですので,やってみようかと思っております。小池徹平さん主演の映画『ブラック会社に勤めてるんだが,もう俺は限界かもしれない』(2009年)では,IT業界における搾取が描かれていますが,この業界なんかは酷そうですね。ヤバい業界はどこか? 願わくは,マンパワーのある厚労省の統計部に作っていただきたいのですが・・・。