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2016年7月30日土曜日

子ども・青年の読書の減少

 夏休みに入りましたが,たっぷりと時間ができるので,お子さんにいろいろな体験をさせようという親御さんも多いと思います。

 それも結構ですが,じっくりと落ち着いても読ませたいものです。「読ませる」といったら押し付けがましいですが,読書は子どもの人間形成にも資する営み。夏休みは,それをする格好の機会です。子どもが自発的に本を手に取ってくれるならいいのですが,そうでないなら,大人による「仕向け」も必要になります。

 子どもの読書の量については,幾多のデータがりますが,過去と比した時系列データは意外に少ない。先日,某小学校の司書教諭の先生から,「子どもの読書が減っているのは想像がつく。それを数値で示したデータはないか」というメールがきました。

 私も興味があったのでサーチしてみましたが,『社会生活基本調査』から,目的のデータを作ることができます。調査時点から遡って1年の間に,趣味としての読書を実施した者は何%か。「趣味として」とありますから,学校で強制される「朝の10分間読書」の類は含まれないと思われます。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm

 このデータは,長期推移をみることが可能です。私は,この20年間にかけて,趣味としての読書実施率がどう変わったかをグラフにしてみました。年齢層ごとのドットを線でつないだ,年齢曲線を描いてみました。


 40歳以上ではほとんど変化なしですが,それより下の子ども・若者では,自発的な読書の実施率が減じています。10代後半では,52.6%から45.0%に下がっています。

 巷では「ポケモンGO」とやらが流行っていますが,この手のゲームにのめり込んでいるためでしょうか。スマホが普及し,友人との交際も時間的(空間的)に無際限のものとなっています。こういう変化が,青少年の読書の減少をもたらしていることは,想像に難くありません。

 それと,5月4日の記事でみたように,街のリアルの書店が減っていることも大きいでしょう。ぶらりと入って,思わぬ本に遭遇できる機会を与えてれる,リアル書店の減少。この20年間における,読書環境の変化は凄まじいものがあります。

 上記のリンク先の記事では,人口当たりの書店数の都道府県地図が,この20年でどう変わったかを紹介していますが,文化の「生き血」が抜かれているかのような変化がみられます。

 それに呼応してか,子ども・青年の読書実施率のマップも,色が薄くなってきています。その様をご覧に入れましょう。下図は,15~24歳の「趣味としての読書実施率」の都道府県地図です。上が1991年,下が2011年のものです。


 20年前では,大半の県で50%を超えていましたが,最近では,そういう県はごくわずか。子どもの読書の減少は,地域を問わず,全国的に進行しているようです。地域格差が若干拡大している点も要注意。

 今,「格差」という言葉が出ましたが,本を買うにもカネがかかります。90年代以降の時代変化は「失われた20年」と形容されますが,子どもの読書の減少(格差拡大)は,こういう時代変化の引き写しともとれます。

 今朝の朝日新聞に掲載されている,児童文学作家の対談記事にて「給食費を払えない親が千円する本なんて買わないと思う。本が売れないと言われているが,学校の図書をもっと充実させてほしい」という声が紹介されています。まったくもって,その通りです。

 子どもの読書は減っていますが,それが顕著なのは,どの階層か? こういう問題も立てないといけないでしょう。あいにく,この問いに答えてくれるデータはないようですが,家庭の経済力と子どもの読書頻度は,強く相関していると思われます。読書格差も,分析のメスが入れられるべき現象です。

 しかるに,本は必ずしも,カネをかけて買うものではありません。最近は公共図書館のサービスも充実しており,所蔵されていない本でも,リクエストすれば取り寄せてくれます。新刊本でも,運が良ければ10日ほどで回ってきます。私も最近は,図書館をガンガン使わせてもらっています。図書館の有効活用の術を,子どもや親御さんに教えてあげたいものです。

 こういう啓発も,子どもの読書活動推進に関する法律が定めている「読書環境の醸成」に含まれるでしょう。