教員にはいろいろな職階がありますが,そのトップは校長です。
校長は「校務をつかさどり,所属職員を監督する」ほか,職員会議を主宰するなど,それなりの権限を持っています。政策文書でも,「校長のリーダーシップ」という文言をよく見かけますが,学校運営の成否は,リーダーの校長の手腕にかかっているといっても過言ではありません。
その校長ですが,どういう属性の人がなっているのでしょう。私の小・中・高をふりかえると,朝礼でありがたい講話をしてくださったのは,一貫して,白髪のおじいさんばかりでした。全国的にても,校長先生は,たいがい高齢の男性でしょう。
国際教員調査(TALIS 2013)のデータにて,日本の中学校校長の属性をみると,女性比や若年比はとても低くなっています。女性比は6.1%,若年(50歳未満)比は1.5%です。
しかし国際標準からしたらこれは特異で,世界を見渡すと,どっちの指標も4割くらいの国が多くなっています。南米のブラジルにいたっては,女性比は72.1%,若年比は67.1%です。両指標のマトリクスに各国を配置したグラフは,昨日ツイッターで発信しました。「日本の校長は,オヤジばっか」です。
https://twitter.com/tmaita77/status/764105003715792897
しかるに,各国の校長の属性は,教員全体のそれを反映しています。ブラジルの校長の女性比や若年比が高いのは,中学校教員全体のそれが高いからです。そこで,ベースの構成を考慮して,女性や若手からの校長輩出チャンスを数値化してみましょう。
私は,中学校教員(校長除く)と中学校校長の女性比,若年比を国ごとに計算しました。そして,以下の操作をすることで,女性や若年層(50歳未満)から校長が出る確率を出してみました。
http://nces.ed.gov/surveys/international/ide/
中学校校長の女性比(若年比)/中学校教員の女性比(若年比)
簡単にいうと,校長での女性比(若年比)を,教員全体のそれと照合し,割り算をしたわけです。くだくだ口で説明するより,計算表をみていただいたほうが早いでしょう。
日本では,中学校教員(校長除く)の女性比は39.0%ですが,校長では女性は6.1%しかいません。よって,女性からの校長輩出率は,6.1/39.0=0.156 という数値で測られます。若手(50歳未満)からの輩出率はもっと低く,たったの0.022です。
お隣の儒教社会・韓国では,50歳未満の校長はゼロですので,輩出率もゼロとなっています。
アジアの2国はこうですが,世界を見渡すと,高い値がちらほら見られます。ブラジルの女性校長輩出率は1.0を超えています。教員全体の女性比より,校長でのそれが高い。つまり,男性よりも女性のほうが校長になりやすい,ということです。アラブ首長国連邦もそう。これらの国では,「教員は女性の仕事」という考えがあるのかもしれませんが,このような社会もあるのですね。
若手からの校長輩出率のマックスは,アメリカの0.868です。さすが「チャンス」の国。年齢に関係なく,有能な教員はトップに昇格できるようです。「校長試験の受験はまだ早い」などと,年齢を理由に引き止める日本とは大違いですな。
女性・若年からの校長輩出率をグラフにしましょう。横軸に女性,縦軸に若年(50歳未満)からの校長輩出率をとった座標上に,35国を配置すると,下図のようになります。
日本と韓国の外れっぷりがスゴイこと。女性や若手が,トップになりにくい社会の典型です。男性優位,年功序列の風潮がはっきりと表れています。
どの集団であれ,成員の属性があまりに偏るのは,好ましくないといいます。どの自治体にも「**校長会」という組織があり,教育施策の決定に際して大きな影響力を持っていますが,そのメンバーが高齢男性だらけというのは考えものでしょう。
トップの属性は多様化したほうがいい。まあ,昔に比したら事態は幾分かマシになっているのでしょうが,国内の時系列や地域別の差なんて「どんぐりの背比べ」で,国際的にみたら,上記のような惨憺たる様です。
今回のデータをエビデンスにして,学校のトップの登用の在り方について,一考をめぐらすのもよいかと思います。