しかし,用途はそれだけではありません。いろいろな国際比較のデータが満載ですので,とても重宝します。『日本国勢図会』と並んで,データウォッチャーにとって,手元に置いておくべき資料といえましょう。毎年,このような貴重なデータ集を刊行してくださる,財団法人・矢野恒太郎記念会に敬意を表します。
パラパラと眺めたところ,23ページに「おお」というデータが載っています。人口と所得の分布です。世界銀行の分類により,各国を低所得国,中所得国(下位),中所得国(上位),高所得国に分け,この4群の人口と国民総所得の配分比をとったデータです。
2014年の統計ですが,人口では全体の2割ほどでしかない高所得国が,世界全体の所得(富)の7割近くをも占有しています。スゴイ偏りです。
南北問題に象徴されるように,産出される富の量に著しい国際差があるのはよく知られていますが,上図はその可視化です。
これだけでも富の配分の偏り(不平等)は明白ですが,その程度を数値で表してみましょう。不平等の度合いを測るには,ジニ係数が一番です。下準備として,以下の表を作ります。
相対度数は,最初のグラフの構成比そのままです。ここでは,全体が1.0になるように換算します。右側の累積相対度数は,下から積み上げたものです。
これによると,人口では8割を占める,高所得国以外の国には,世界全体の富の3割ちょっとしか届いていません。逆にいうと,残りの7割の富は高所得国に持っていかれているわけです。
ジニ係数を出すには,ローレンツ曲線を描くのでしたよね。右欄の累積相対度数をグラフにしたものです。横軸に人口,縦軸に所得(富)の累積相対度数をとった座標上に,4つの群のドットを置き,線でつなぎます。
この曲線の底が深いほど,人口と富の分布のズレが大きいこと,すなわち富の配分の偏りが大きいことを示唆します。
ここで求めようとしているジニ係数は,図中の色付きの面積を2倍した値です。富の偏りが全くない,人口分布と富量分布が等しい場合,ローレンツ曲線は対角線と重なりますので,ジニ係数は0.0となります。逆に,極限の不平等状態の場合,色付きの面積は四角形の半分(0.5)になりますから,ジニ係数はこれを2倍して1.0となる次第です。
よってジニ係数は0.0~1.0の値をとることになります。1.0に近いほど,不平等の度合いが大きい,ということです。
さて,上図の色付きの面積は0.2915となります(面積の求め方は,下記リンク先記事を参照)。よってジニ係数は,これを2倍して0.5830となります。
現在の世界における富の国際的偏りは,ジニ係数0.5830という数値で可視化されました。先進国から途上国への援助は増えていますし,昔に比したら,この値は下がっていることでしょう。80年代頃までは,0.8くらいあったかもしれません。
しかし0.5830という数値も,絶対水準では高いと判断されます。持てる国と持たざる国の格差は大きい。われわれは日本人であると同時に,世界市民です。世界規模の貧困・格差の問題を「対岸の火事」とみるのではなく,自らの問題としてとらえる構えが求められるでしょう。持続可能な社会のための教育(ESD)は,そういう人間を育成する実践の総体に他なりません。
崇高なことを書きましたが,今回のデータは,ジニ係数を教えるにあたっての分かりやすい教材になるかなと思い,実際に係数を出してみました。
「ジニ係数の計算方法を教えてください」という質問をよく受けますが,時間がないときは,「このブログの記事をみてちょうだい」と言えるので,こういう形にしておくと便利です。