秋も深くなってきました。10月も今日でおしまいです。秋晴れの月ということで,10月は背景を貼れ模様にしているのですが,今年は曇天が多くて残念でした。
さて,今月私がネットでキャッチした教員不祥事報道は39件です。相変わらず,わいせつが多くを占めますが,私は赤字の事案をみて,中学時代の光景を思い出しました。山梨の高校教員が,バリカンで男子生徒の頭を丸刈りにした体罰です。
私が中学生だった頃(90年代初頭)の鹿児島では,男子は丸刈りでした。チェックも厳しく,髪が伸びすぎと判断された生徒は,生徒指導室で「ウィーン,ウィーン」と頭を刈られていたものです。当然,体罰という認識はさらさらなく,「床屋代が浮いていいなあ」と思ったのを覚えています。感覚がマヒするって怖いですね・・・。
朝夕は,寒くなってきました。朝夕の散歩は綿入り半纏を着ています。「古風なの着ているねえ」と,近所のおばさん方の注目の的です。でもこれが軽くて,暖かいのですな。
明日から11月です。背景を紅葉に変えます。
<2016年10月の教員不祥事報道>
・小学校教諭、窃盗容疑で逮捕=パチンコ店で財布盗む―
(10/2,時事通信,埼玉,小,男,31)
・福岡市教委:教科書会社から歳暮 2校長らを処分(10/2,毎日,福岡,小)
・懲戒処分:わいせつ容疑逮捕の中学教諭停職(10/2,毎日,富山,中,男,26)
・女子児童盗撮の名古屋の元教諭に有罪判決(10/2,CBCテレビ,愛知,小,男,33)
・女子高生を買春容疑、中学校長を逮捕 SNSで知り合う(10/5,朝日,宮城,中,男,56)
・中学教諭が生徒を平手打ち、10日間のけが(10/5,朝日,愛知,中,男,40代)
・小学校教諭、違法薬物「フラッシュ」密輸か(10/5,神奈川新聞,神奈川,小,男,58)
・窃盗容疑などで高校教諭を再逮捕 真庭署、県南の民家にも侵入
(10/8,山陽新聞,岡山,高,男,29)
・下半身露出し店員に見せた疑いで教諭逮捕(10/11,サンスポ,北海道,小,男,46)
・生徒に焼酎飲ませた男性教諭を懲戒処分(10/11,サンスポ。鹿児島,高,男,53)
・酒気帯び運転:帰宅中に事故も 福岡の市立中教諭を逮捕(10/12,毎日,福岡,中,女,45)
・懲戒免職:県教委、高校講師を処分 わいせつ罪で起訴(10/12,毎日,岩手,高,男,49)
・<窃盗容疑>DVD万引き、59歳高校教諭を逮捕(10/13,毎日,福岡,高,男,59)
・女子更衣室に侵入、段ボールに穴開けビデオカメラ(10/14,産経,大阪,中,男,32)
・特別支援学級の児童に重傷負わせた小学校教諭を逮捕(10/16,テレ玉,埼玉,小,男,54)
・清水寺で盗撮疑い 大阪府立高の男性教師逮捕(10/17,関西テレビ,大阪,高,男,55)
・女子生徒9人の胸を触った教諭、懲戒免職に(10/18,朝日,北海道,中,男,27)
・中学校に「喫煙室」、教頭ら利用 奈良・大和高田(10/19,朝日,奈良,中,男56ほか)
・女子生徒にキス 中学校教諭を懲戒免職 千葉県教委(10/19,NHK,千葉,中,男,27)
・<懲戒免職>中学教諭、女子バレー部生徒に体罰や暴言
(10/20,毎日,神奈川,中,男,49)
・女子生徒にわいせつ行為した疑い、茨城の高校教諭を逮捕(10/21,TBS,茨城,高,男,48)
・<強制わいせつ>修学旅行先で男子児童に 高知の男性教諭
(10/21,毎日,高知,小,男,29)
・ひき逃げの疑いで村松高校講師逮捕(10/21,BSN新潟,新潟,高,女,25)
・大阪市の校長公募、経歴詐称した疑い 元校長を書類送検
(10/22,朝日,大阪,小,男,53)
・福岡大付属若葉高:40代の吹奏楽部顧問がセクハラの疑い
(10/22,毎日,福岡,高,男,40代)
・飲酒運転などで教員2人を懲戒 宮崎県教委
(10/22,西日本新聞,宮崎,飲酒運転:小男57,セクハラ:小男40代)
・ガンダムのフィギュア盗んだ小学校教諭を懲戒免職
(10/25,日刊スポーツ,福岡,小,男,429
・ひき逃げで罰金命令、中学教諭を懲戒処分(10/25,朝日,愛知,中,男,24)
・牛乳飲む練習と偽り発注、持ち帰り 女性教諭処分(10/25,神戸新聞,兵庫,特,女,42)
・女子児童の下半身触った疑い、小学校教諭を逮捕(10/26,朝日,熊本,小,男,44)
・少女にみだらな行為=容疑で私立高教諭逮(10/26,時事ドットコム,埼玉,高,男,49)
・男子生徒をバリカンで丸刈り 高校教諭が体罰(10/26,朝日,山梨,高,男,50代)
・野球部員に体罰 監督の講師減給 県教委処分(10/26,茨城新聞,高,男,61,31)
・県立高教諭が暴言、乱暴行為 沿岸南部・生徒不登校に
(10/27,岩手日報,岩手,高,男,30代)
・自身の局部画像をツイッターに投稿…北海道の高校教諭を処分
(10/27,サンスポ,北海道,高,男,53)
・垂井町立小学校の講師ら逮捕 大阪府警、男児の裸画像送信疑い
(10/27,中日新聞,大阪・小男,35,岐阜・小男33)
・小学校教頭が万引きの疑い逮捕(10/27,NHK,石川,小,男,57)
・中学校講師チューハイなど万引きで逮捕(10/27,読売テレビ,大阪,中,男,49)
・児童ポルノ容疑で高校教諭逮捕 女子高生に裸画像送信させる
(10/28,福島民友,福島,高,男,43)
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2016年10月31日月曜日
2016年10月30日日曜日
公務員はモテますか?
実務教育出版より,『受験ジャーナル・平成29年度・Vol1』が届きました。公務員試験業界の老舗ジャーナルですが,この号は私も制作に関わりましたので,送ってもらえました。表紙のデザインも,今風でカッコいいですねえ。
http://jitsumu.hondana.jp/book/b251011.html
7~9ページに,読者の質問にプロ講師が答える記事が載っていますが,ズバリ「公務員はモテますか?」という問いが寄せられています(Q8)。答えは,「あなた次第。ただ一般的には,公務員は若いうちに結婚する人が多い」というものです。
なるほど,肌感覚ではそうですよね。では,データでみるとどうでしょう。
モテるかどうかを統計で可視化するのは難しいですが,結婚している(できている)者の率が指標になるでしょう。ここでは,その裏返しの未婚率に注目することとします。結婚しないで(できずに)未婚にとどまっている者が何%か。モテていても,敢えて結婚しない人もいますが,この点はオミットすることとします。
2012年の総務省『就業構造基本調査』では,「性別×年齢×従業地位×産業×配偶関係」のクロス集計がされています。下記サイトの表23です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001048178&cycleCode=0&requestSender=search
このデータを使って,公務員の未婚率の年齢曲線を描いてみました。はて,公務員の曲線は全体とどう違うか。従業地位(正規・非正規・・・)の影響を除くため, 正規職員の未婚率曲線を比べてみましょう。
ここでいう公務員とは,産業大分類でいう「公務」に該当する者です。他の産業分類に含まれる,教員や警察官などは含みません。大半が,役所の職員さんと思われます。
加齢とともに結婚する人が増えますので,未婚率曲線は右下がりになります。20代ではほぼ重なっていますが,30代以降で官民の差が開いてきますね。30代後半の男性でみると,全体の未婚率は28.3%,公務員は17.8%,10ポイント以上の開きがあります。
正規職員同士の比較ですが,確かに公務員は,平均的な傾向と比して結婚しやすいようです。上記の読者の質問に即していうと,「モテる」ということになるでしょうか。女性よりも男性で,それは顕著です。曲線の開きは,男性で比較的大きくなっています。
男性の場合,結婚には経済力が求められる面があるのは否めませんが,民間に比した公務員の高給と安定性が強みになるのでしょうか。給与の官民比較のデータは,最後にお見せします。
次に,産業中分類のデータを使って産業別の未婚率を出し,その布置構造の中で公務員がどこに位置するかを明らかにしてみましょう。私は108の産業について,アラフォー男女の未婚率を計算し,二次元のマトリクスの上に散りばめたグラフを作ってみました。
公務員は,産業中分類では,国家公務,地方公務,外国公務の3カテゴリーに分かれますが,それぞれがどこに位置するか。
公務員は3カテゴリーとも,左下に位置しています。男女とも,アラフォー正規職員の未婚率が平均水準よりも低い,ということです。全産業でみても未婚率は相対的に低い,「モテる」業種といえましょう。航空業界は強いですね。
対極の右上をみると,印刷業や映像・文字情報制作業などは,男女とも未婚率が高くなっています。キツイといいますからね。後者は,テレビ制作会社などでしょうが,凄まじいまでの激務(ブラック労働)とよくいわれます。私は,この業界の輩に煮え湯を飲まされた経験があり,いい印象は持っていません。二度と相手にしないと,心に誓いました。似たような経験をした人もいるようですな。
http://www.blackroad.net/blf/2016/03/post-70.html
http://www.blackroad.net/blf/2014/12/post-49.html
左上は「男性<女性」の度合いが激しい産業です。金融取引・先物取引業は,女性正社員の未婚率が男性よりも圧倒的に高い。女性48.1%,男性4.5%と,10倍以上のジェンダー差です。仕事と家庭の両立ができないまでの,バリバリの実力の世界だからでしょうか。
公務員の未婚率の年齢カーブと,全産業の未婚率構造の中における公務員の位置を見ていただきました。「公務員はモテますか?」という問いですが,データでみても,まあ「イエス」という答えができるでしょうね。
とくに男性はそうですが,先に記した通り,民間に比した待遇の良さが武器になっているとみられます。最後に,年収の官民差のグラフをご覧いただきましょう。性別と従業地位の影響を除外するため,男性の正規職員の比較をします。以下のグラフは,プレジデント・オンラインの記事でも紹介したものです。
http://president.jp/articles/-/20248
年齢を重ねるとともに年収分布がどう変わるかを表現したグラフですが,いかがでしょう。公務員は,加齢とともに自動的に高年収のゾーンが垂れてきます。年功賃金の典型です。未婚率の低さ(男性)が,こういう条件とつながっていることは否定できますまい。
冒頭の『受験ジャーナル』において,講師さんも指摘されていますが,公務員は信頼度100%で「ローンもすぐに組める」でしょう。融資も一発! しかしそれが災いすることもあるようで,ついつい借り過ぎてしまい,首が回らないまでの借金地獄に陥ることも・・・。
私は教員の不祥事報道を集めていますが,教員の財産犯(借金返済のための公金横領など)も少なくない,という印象です。スーパーでの食料品万引きなどもチラホラ。「何で学校の先生が・・・」と思われますが,動機は「生活苦」とのこと。
ともあれ,だまっていれば給料が上がる。退職後の保障もバッチリ。こういう見通しが約束されているためか,公務員には保守志向が強く,冒険志向が弱い,という面もあります。この点は,10月21日の記事でもみた通りです。
この記事で書いたことを繰り返しますが,社会を動かす公務員には,冒険志向をもっと持ってほしいと思います。今の日本の諸問題は小手先の改革では通用せず,これまでの慣例を覆すような抜本改革が求められますが,冒険志向なしに,それはなし得ません。
話が逸れましたが,「公務員はモテますか?」という問いに,未婚率のデータで回答してみました。お休みの日の読み物として,ご笑覧いただければ幸いです。曇天ですが,日曜の午後をお健やかにお過ごしください。
http://jitsumu.hondana.jp/book/b251011.html
7~9ページに,読者の質問にプロ講師が答える記事が載っていますが,ズバリ「公務員はモテますか?」という問いが寄せられています(Q8)。答えは,「あなた次第。ただ一般的には,公務員は若いうちに結婚する人が多い」というものです。
なるほど,肌感覚ではそうですよね。では,データでみるとどうでしょう。
モテるかどうかを統計で可視化するのは難しいですが,結婚している(できている)者の率が指標になるでしょう。ここでは,その裏返しの未婚率に注目することとします。結婚しないで(できずに)未婚にとどまっている者が何%か。モテていても,敢えて結婚しない人もいますが,この点はオミットすることとします。
2012年の総務省『就業構造基本調査』では,「性別×年齢×従業地位×産業×配偶関係」のクロス集計がされています。下記サイトの表23です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001048178&cycleCode=0&requestSender=search
このデータを使って,公務員の未婚率の年齢曲線を描いてみました。はて,公務員の曲線は全体とどう違うか。従業地位(正規・非正規・・・)の影響を除くため, 正規職員の未婚率曲線を比べてみましょう。
ここでいう公務員とは,産業大分類でいう「公務」に該当する者です。他の産業分類に含まれる,教員や警察官などは含みません。大半が,役所の職員さんと思われます。
加齢とともに結婚する人が増えますので,未婚率曲線は右下がりになります。20代ではほぼ重なっていますが,30代以降で官民の差が開いてきますね。30代後半の男性でみると,全体の未婚率は28.3%,公務員は17.8%,10ポイント以上の開きがあります。
正規職員同士の比較ですが,確かに公務員は,平均的な傾向と比して結婚しやすいようです。上記の読者の質問に即していうと,「モテる」ということになるでしょうか。女性よりも男性で,それは顕著です。曲線の開きは,男性で比較的大きくなっています。
男性の場合,結婚には経済力が求められる面があるのは否めませんが,民間に比した公務員の高給と安定性が強みになるのでしょうか。給与の官民比較のデータは,最後にお見せします。
次に,産業中分類のデータを使って産業別の未婚率を出し,その布置構造の中で公務員がどこに位置するかを明らかにしてみましょう。私は108の産業について,アラフォー男女の未婚率を計算し,二次元のマトリクスの上に散りばめたグラフを作ってみました。
公務員は,産業中分類では,国家公務,地方公務,外国公務の3カテゴリーに分かれますが,それぞれがどこに位置するか。
公務員は3カテゴリーとも,左下に位置しています。男女とも,アラフォー正規職員の未婚率が平均水準よりも低い,ということです。全産業でみても未婚率は相対的に低い,「モテる」業種といえましょう。航空業界は強いですね。
対極の右上をみると,印刷業や映像・文字情報制作業などは,男女とも未婚率が高くなっています。キツイといいますからね。後者は,テレビ制作会社などでしょうが,凄まじいまでの激務(ブラック労働)とよくいわれます。私は,この業界の輩に煮え湯を飲まされた経験があり,いい印象は持っていません。二度と相手にしないと,心に誓いました。似たような経験をした人もいるようですな。
http://www.blackroad.net/blf/2016/03/post-70.html
http://www.blackroad.net/blf/2014/12/post-49.html
左上は「男性<女性」の度合いが激しい産業です。金融取引・先物取引業は,女性正社員の未婚率が男性よりも圧倒的に高い。女性48.1%,男性4.5%と,10倍以上のジェンダー差です。仕事と家庭の両立ができないまでの,バリバリの実力の世界だからでしょうか。
公務員の未婚率の年齢カーブと,全産業の未婚率構造の中における公務員の位置を見ていただきました。「公務員はモテますか?」という問いですが,データでみても,まあ「イエス」という答えができるでしょうね。
とくに男性はそうですが,先に記した通り,民間に比した待遇の良さが武器になっているとみられます。最後に,年収の官民差のグラフをご覧いただきましょう。性別と従業地位の影響を除外するため,男性の正規職員の比較をします。以下のグラフは,プレジデント・オンラインの記事でも紹介したものです。
http://president.jp/articles/-/20248
年齢を重ねるとともに年収分布がどう変わるかを表現したグラフですが,いかがでしょう。公務員は,加齢とともに自動的に高年収のゾーンが垂れてきます。年功賃金の典型です。未婚率の低さ(男性)が,こういう条件とつながっていることは否定できますまい。
冒頭の『受験ジャーナル』において,講師さんも指摘されていますが,公務員は信頼度100%で「ローンもすぐに組める」でしょう。融資も一発! しかしそれが災いすることもあるようで,ついつい借り過ぎてしまい,首が回らないまでの借金地獄に陥ることも・・・。
私は教員の不祥事報道を集めていますが,教員の財産犯(借金返済のための公金横領など)も少なくない,という印象です。スーパーでの食料品万引きなどもチラホラ。「何で学校の先生が・・・」と思われますが,動機は「生活苦」とのこと。
ともあれ,だまっていれば給料が上がる。退職後の保障もバッチリ。こういう見通しが約束されているためか,公務員には保守志向が強く,冒険志向が弱い,という面もあります。この点は,10月21日の記事でもみた通りです。
この記事で書いたことを繰り返しますが,社会を動かす公務員には,冒険志向をもっと持ってほしいと思います。今の日本の諸問題は小手先の改革では通用せず,これまでの慣例を覆すような抜本改革が求められますが,冒険志向なしに,それはなし得ません。
話が逸れましたが,「公務員はモテますか?」という問いに,未婚率のデータで回答してみました。お休みの日の読み物として,ご笑覧いただければ幸いです。曇天ですが,日曜の午後をお健やかにお過ごしください。
2016年10月29日土曜日
東京の子ども人口の増加率
日本全国では少子化が進んでいます。先日,2015年の『国勢調査』の人口確報集計が出ましたが,それによると,15歳未満の年少人口は1588万6810人です。5年前の1680万3444人よりも減少しています。
しかるに,そんな趨勢は「どこ吹く風」というエリアもあります。たとえば,東京の都心部です。東京都の住民基本台帳によると,中央区の年少人口は,2011年の1万2963人から2016年の1万7635人へと増えています。倍率にすると,1.36倍の増です。
http://www.toukei.metro.tokyo.jp/juukiy/jy-index.htm
同じ値を都内49市区別に出し,マップにすると,下図のようになります。東京の子ども人口の増加倍率マップ(2011~16年)です。
色がついているのは倍率1.0以上,つまり子どもが増えている地域です。特別区では,江戸川区を除いてどの区でも子どもが増えています。
しかし,西の多摩地域では減っている市が多くなっています。私が住んでいる多摩市は,かろうじて微増というところ。
濃い色は,倍率が1.2倍以上の区で,中央区(1.36倍),千代田区(1.32倍),港区(1.32倍),渋谷区(1.22倍)が該当します。子どもが増えているエリアが,こうも固まっているとは・・・。
なぜ,こういう構造になっているか。中央区在住の方がツイッターで教えていただいたところによると,①タワマンができたことで人口流入が起きていること,②区内の小学校が,英語教育等に力を入れ特色を出し,教育環境を改善していること,があるそうです。
https://twitter.com/murakami_keyaki/status/792169924462424064
なるほど,湾岸部ではタワマンが雨後の筍のように建っていると聞きます。中央区では,区内の共同住宅(71400戸)のうち,11階以上の高層にある住宅が53440戸と74.8%をも占めています(『住宅土地統計』2013年)。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001063455
都心は通勤にも便利なので,人を呼び寄せる。しかし,土地は狭いので,必然的に高層住宅に住む人が多くなる。これは道理です。
このことは,高層住宅に住む子どもが増えていることを示唆します。先ほど出した,都内49市区の5年間の子ども人口の増加倍率と,高層住宅率の相関をとると,下図のようになります。
高層住宅が多い地域ほど,子どもが増えていると。高層住宅が子どもを呼び寄せるという因果関係はないでしょうが,そういう住宅で暮らす子どもが増えていることは間違いないでしょう。
幼少期より高層マンションで暮らすことで,高いところを何とも思わない,高所平気症の子どもが多くなっていると聞きます。転落事故も少なくありません。幼児期にこういう性向が備わると厄介ですので,子をむやみにベランダに出さないなど,親御さんは気を付けないといけません。
またタワマンは共同住宅ですが,そこで暮らす人間の集団には,独特のクライメイトが生じることもあるそうです。高層ほどセレブが多くなり,下層の住民との落差が大きくなる。フロアによる階層の断絶。これは,某小学校の副校長先生より聞いた話です。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/08/blog-post_22.html
子どもたちは同じ小学校に通いますが,こういう生活基盤の断絶が,学校における集団形成や教育活動にどう影響しているか。当の子どもの人格形成に,どう関与しているか。タワマンの社会学なんていう領域も,開拓されていいのではないでしょうか。
東京は,地域間による階層の「棲み分け」も比較的顕著ですが,同じ区内の建物内でのそれも出現しつつある。不遜な言い方ですが,中央区のタワーマンションは,社会学者が足を踏み入れるべきフィールドとなるかもしれません。
しかるに,そんな趨勢は「どこ吹く風」というエリアもあります。たとえば,東京の都心部です。東京都の住民基本台帳によると,中央区の年少人口は,2011年の1万2963人から2016年の1万7635人へと増えています。倍率にすると,1.36倍の増です。
http://www.toukei.metro.tokyo.jp/juukiy/jy-index.htm
同じ値を都内49市区別に出し,マップにすると,下図のようになります。東京の子ども人口の増加倍率マップ(2011~16年)です。
色がついているのは倍率1.0以上,つまり子どもが増えている地域です。特別区では,江戸川区を除いてどの区でも子どもが増えています。
しかし,西の多摩地域では減っている市が多くなっています。私が住んでいる多摩市は,かろうじて微増というところ。
濃い色は,倍率が1.2倍以上の区で,中央区(1.36倍),千代田区(1.32倍),港区(1.32倍),渋谷区(1.22倍)が該当します。子どもが増えているエリアが,こうも固まっているとは・・・。
なぜ,こういう構造になっているか。中央区在住の方がツイッターで教えていただいたところによると,①タワマンができたことで人口流入が起きていること,②区内の小学校が,英語教育等に力を入れ特色を出し,教育環境を改善していること,があるそうです。
https://twitter.com/murakami_keyaki/status/792169924462424064
なるほど,湾岸部ではタワマンが雨後の筍のように建っていると聞きます。中央区では,区内の共同住宅(71400戸)のうち,11階以上の高層にある住宅が53440戸と74.8%をも占めています(『住宅土地統計』2013年)。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001063455
都心は通勤にも便利なので,人を呼び寄せる。しかし,土地は狭いので,必然的に高層住宅に住む人が多くなる。これは道理です。
このことは,高層住宅に住む子どもが増えていることを示唆します。先ほど出した,都内49市区の5年間の子ども人口の増加倍率と,高層住宅率の相関をとると,下図のようになります。
高層住宅が多い地域ほど,子どもが増えていると。高層住宅が子どもを呼び寄せるという因果関係はないでしょうが,そういう住宅で暮らす子どもが増えていることは間違いないでしょう。
幼少期より高層マンションで暮らすことで,高いところを何とも思わない,高所平気症の子どもが多くなっていると聞きます。転落事故も少なくありません。幼児期にこういう性向が備わると厄介ですので,子をむやみにベランダに出さないなど,親御さんは気を付けないといけません。
またタワマンは共同住宅ですが,そこで暮らす人間の集団には,独特のクライメイトが生じることもあるそうです。高層ほどセレブが多くなり,下層の住民との落差が大きくなる。フロアによる階層の断絶。これは,某小学校の副校長先生より聞いた話です。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/08/blog-post_22.html
子どもたちは同じ小学校に通いますが,こういう生活基盤の断絶が,学校における集団形成や教育活動にどう影響しているか。当の子どもの人格形成に,どう関与しているか。タワマンの社会学なんていう領域も,開拓されていいのではないでしょうか。
東京は,地域間による階層の「棲み分け」も比較的顕著ですが,同じ区内の建物内でのそれも出現しつつある。不遜な言い方ですが,中央区のタワーマンションは,社会学者が足を踏み入れるべきフィールドとなるかもしれません。
2016年10月28日金曜日
中学校のいじめ認知度(2015年度)
2015年度の文科省『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』の速報結果が公表されました。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/shidou/1267646.htm
いろいろなファインディングスが報じられていますが,いじめの認知件数が過去最高になったそうです。2015年度間の小・中・高・特のいじめ認知件数は22万4540件で,前年度の18万8072件よりも大幅増となっています。
この統計の読み方が知られるようになってきたのか,「過去最悪」などと報じる新聞はないようです。いじめの認知件数が多いのは,悪いことではありません。いじめの把握に本腰を入れているという,名誉の証とも解せます。
いじめは,統計に表れない「暗数」が多いのですが,実際に起きているであろう件数と,当局の認知件数を照合することで,いじめ把握のガンバリ度の指標を出すことができます。
ここでいう「実際に起きているであろう件数」は,いじめを容認する生徒の数をもって,近似値(相似値)とすることができるでしょう。こういう生徒は,年に1度は広義の「いじめ」をやらかしていると思われます。
2015年度の文科省『全国学力・学習状況調査』では,「いじめはどんな理由があってもいけない」という項目への反応を調べています。公立中学校3年生のうち,「どちらかといえば,そう思わない」ないしは「そう思わない」と答えたのは6.2%です。この比率は,いじめを容認している生徒の率と読めます。
同年5月時点の中学校生徒数は346万5215人(『学校基本調査』)。先ほどの6.2%をこれに乗じると,いじめを容認する中学生の実数は,21万4843人と見積もられます。全国に,いじめを容認する中学生が21万人いるのですね・・・。
冒頭の資料によると,2015年度間の中学校のいじめ認知件数は,5万9422件。先ほど出した,いじめを容認する生徒数(21万4843人)に対する比率は,27.7%となります。解釈の飛躍を覚悟でいうと,当局の統計は,実際の推定量の4分の1ほどを拾っていると。
この指標(measure)は,都道府県別に計算することができます。難しい思春期の中学校のいじめを,どれくらい把握できているか。各県のガンバリ度を拝見させていただきましょう。
黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。この両端をみると,中学校のいじめ認知度は,109.6%(山梨)から10.5%(香川)まで,幅広く分布しています。山梨では,推定量よりも多くのいじめを拾っていますが,香川では1割ほどしか掬えていません。
赤字は上位5位ですが,山梨,山形,宮崎,そして私の郷里の鹿児島では,推定量の8割以上のいじめを認知しています。アンケートをや見回りを頻繁に行うなど,いじめの把握にさぞ熱心なのでしょう。
各県の位置を分かりやすくするため,右端の認知度を高い順に並べたランキング表にすると,下表のようになります。
どうでしょう。上位の顔ぶれは先ほど述べた通りですが,下位をみると,都市的な県が多くなっています。推定量の1割ほどしか,いじめを認知していない。おそらくは,膨大な暗数があるのではないか。いじめの把握に,もっと本腰を入れる余地があるのではないでしょうか。
ただ,この指標は高ければいいというのではありません。些細なことも「いじめ」としてガンガン摘発し,値が200%,300%にもなったら,それはもう管理地獄というものでしょう。適正水準は,80~100%というところではないでしょうか。
こういう指標も随時観察して,自県の取組を評価することも求められるでしょう。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/shidou/1267646.htm
いろいろなファインディングスが報じられていますが,いじめの認知件数が過去最高になったそうです。2015年度間の小・中・高・特のいじめ認知件数は22万4540件で,前年度の18万8072件よりも大幅増となっています。
この統計の読み方が知られるようになってきたのか,「過去最悪」などと報じる新聞はないようです。いじめの認知件数が多いのは,悪いことではありません。いじめの把握に本腰を入れているという,名誉の証とも解せます。
いじめは,統計に表れない「暗数」が多いのですが,実際に起きているであろう件数と,当局の認知件数を照合することで,いじめ把握のガンバリ度の指標を出すことができます。
ここでいう「実際に起きているであろう件数」は,いじめを容認する生徒の数をもって,近似値(相似値)とすることができるでしょう。こういう生徒は,年に1度は広義の「いじめ」をやらかしていると思われます。
2015年度の文科省『全国学力・学習状況調査』では,「いじめはどんな理由があってもいけない」という項目への反応を調べています。公立中学校3年生のうち,「どちらかといえば,そう思わない」ないしは「そう思わない」と答えたのは6.2%です。この比率は,いじめを容認している生徒の率と読めます。
同年5月時点の中学校生徒数は346万5215人(『学校基本調査』)。先ほどの6.2%をこれに乗じると,いじめを容認する中学生の実数は,21万4843人と見積もられます。全国に,いじめを容認する中学生が21万人いるのですね・・・。
冒頭の資料によると,2015年度間の中学校のいじめ認知件数は,5万9422件。先ほど出した,いじめを容認する生徒数(21万4843人)に対する比率は,27.7%となります。解釈の飛躍を覚悟でいうと,当局の統計は,実際の推定量の4分の1ほどを拾っていると。
この指標(measure)は,都道府県別に計算することができます。難しい思春期の中学校のいじめを,どれくらい把握できているか。各県のガンバリ度を拝見させていただきましょう。
黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。この両端をみると,中学校のいじめ認知度は,109.6%(山梨)から10.5%(香川)まで,幅広く分布しています。山梨では,推定量よりも多くのいじめを拾っていますが,香川では1割ほどしか掬えていません。
赤字は上位5位ですが,山梨,山形,宮崎,そして私の郷里の鹿児島では,推定量の8割以上のいじめを認知しています。アンケートをや見回りを頻繁に行うなど,いじめの把握にさぞ熱心なのでしょう。
各県の位置を分かりやすくするため,右端の認知度を高い順に並べたランキング表にすると,下表のようになります。
どうでしょう。上位の顔ぶれは先ほど述べた通りですが,下位をみると,都市的な県が多くなっています。推定量の1割ほどしか,いじめを認知していない。おそらくは,膨大な暗数があるのではないか。いじめの把握に,もっと本腰を入れる余地があるのではないでしょうか。
ただ,この指標は高ければいいというのではありません。些細なことも「いじめ」としてガンガン摘発し,値が200%,300%にもなったら,それはもう管理地獄というものでしょう。適正水準は,80~100%というところではないでしょうか。
こういう指標も随時観察して,自県の取組を評価することも求められるでしょう。
2016年10月26日水曜日
大学非常勤講師の給与
北海道で,大学非常勤講師の労組が結成されたそうです。
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/society/society/1-0328773.html
上記の北海道新聞記事では,道内の大学非常勤講師の給与に関するデータが紹介されています(道私大教連調査)。ポイントは,以下の2点。
①:通年6コマ教えても年収210万円ほど。
②:大半が年収300万円未満。
うーん,私もこの業界に長くいますけど,違和感のあるデータです。
まず,通年6コマで年収210万もいくでしょうか。給与は大学によって違いますが,いいところで通年1コマ30万円くらいです。これで6コマの場合,年収は,30万×6=180万円なり。
ここにて,私が教えた3大学の非常勤給与を開陳してしまいましょう。大学名を記してもいいと思いますが,A大学,B大学,C大学としておきます。
A大学
1回の90分=1万円
通年1コマ(30回)=30万円
通年6コマの年収=30万×6=180万円
B大学
月額=2万円
通年1コマ(12か月)=24万円
通年6コマの年収=24万×6=144万円
C大学
1回の90分=7000円
通年1コマ(30回)=21万円
通年6コマの年収=21万×6=126万円
どうでしょう。いずれの大学も,通年6コマの年収は,上記の記事でいわれている210万円には遠く及びません。C大学などは悲惨を極めていますが,こういう大学も決して少なくないと思われます。
それと「大半が年収300万未満」とありますが,これも「ホンマかいな」という感じです。
私が経験した中で,最も待遇のいいA大学で年収300万を得ようという場合,通年10コマ(半期だと20コマ)教えないといけませんが,こんなにコマを持たせてもらっている講師に出会ったことがありません。語学系なら,多少はいるかもしれませんが・・・。
年収200万稼ぐにしても,A大学では,通年7コマ(半期14コマ)を持たないといけない。私の経験では,このレベルの講師にお目にかかったことも稀です。
「大半が年収200万未満」の間違いではないでしょうか。上記の道調査の年収は,講師以外の副業も含んでいるかもしれませんが,講師給だけで年収300万も得るのは,並大抵のことではありません。
大学非常勤講師の悲惨を世に知らしめるには,サンプリングをしっかりした調査をする必要があるかと思います。待遇がいい大学,コマ数が多い語学系の講師にサンプルが偏してはなりません。
コマ数を多くもらっている語学系の非常勤とて,そのうち専門学校などに仕事を丸ごと奪われる運命にあります。身の振り方を考えておいたほうがいいでしょう。
さんざんツイッターで愚痴っていますが,C大学にはホトホト愛想がつきました。上記のように超薄給にもかかわらず,授業に要する労力は半端なく,教務からの注文も多い。もう耐えられないと,去年の前期で辞めました。余計なお世話ですが,専任教員のストレスは尋常ではないと推察します。
専任教員の中にも,耐えかねて大学を辞職し,野に下る人がいるそうですが,分かるような気がします。
https://twitter.com/tonton1965/status/790143120503562240
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/society/society/1-0328773.html
上記の北海道新聞記事では,道内の大学非常勤講師の給与に関するデータが紹介されています(道私大教連調査)。ポイントは,以下の2点。
①:通年6コマ教えても年収210万円ほど。
②:大半が年収300万円未満。
うーん,私もこの業界に長くいますけど,違和感のあるデータです。
まず,通年6コマで年収210万もいくでしょうか。給与は大学によって違いますが,いいところで通年1コマ30万円くらいです。これで6コマの場合,年収は,30万×6=180万円なり。
ここにて,私が教えた3大学の非常勤給与を開陳してしまいましょう。大学名を記してもいいと思いますが,A大学,B大学,C大学としておきます。
A大学
1回の90分=1万円
通年1コマ(30回)=30万円
通年6コマの年収=30万×6=180万円
B大学
月額=2万円
通年1コマ(12か月)=24万円
通年6コマの年収=24万×6=144万円
C大学
1回の90分=7000円
通年1コマ(30回)=21万円
通年6コマの年収=21万×6=126万円
どうでしょう。いずれの大学も,通年6コマの年収は,上記の記事でいわれている210万円には遠く及びません。C大学などは悲惨を極めていますが,こういう大学も決して少なくないと思われます。
それと「大半が年収300万未満」とありますが,これも「ホンマかいな」という感じです。
私が経験した中で,最も待遇のいいA大学で年収300万を得ようという場合,通年10コマ(半期だと20コマ)教えないといけませんが,こんなにコマを持たせてもらっている講師に出会ったことがありません。語学系なら,多少はいるかもしれませんが・・・。
年収200万稼ぐにしても,A大学では,通年7コマ(半期14コマ)を持たないといけない。私の経験では,このレベルの講師にお目にかかったことも稀です。
「大半が年収200万未満」の間違いではないでしょうか。上記の道調査の年収は,講師以外の副業も含んでいるかもしれませんが,講師給だけで年収300万も得るのは,並大抵のことではありません。
大学非常勤講師の悲惨を世に知らしめるには,サンプリングをしっかりした調査をする必要があるかと思います。待遇がいい大学,コマ数が多い語学系の講師にサンプルが偏してはなりません。
コマ数を多くもらっている語学系の非常勤とて,そのうち専門学校などに仕事を丸ごと奪われる運命にあります。身の振り方を考えておいたほうがいいでしょう。
さんざんツイッターで愚痴っていますが,C大学にはホトホト愛想がつきました。上記のように超薄給にもかかわらず,授業に要する労力は半端なく,教務からの注文も多い。もう耐えられないと,去年の前期で辞めました。余計なお世話ですが,専任教員のストレスは尋常ではないと推察します。
専任教員の中にも,耐えかねて大学を辞職し,野に下る人がいるそうですが,分かるような気がします。
https://twitter.com/tonton1965/status/790143120503562240
2016年10月23日日曜日
家賃が年収の半分以上の世帯割合
借家世帯の悩みの種の一つは家賃ですが,家賃が年収に占める比重を計算してみたことがありますか。私の場合,年によって変わりますが,だいたい2割くらいです。収入は少ないですが,駅から離れた安い賃貸に住んでいますので。
「家賃/年収」の比重は,大よそ3分の1くらいが普通とされています。しかしこれは,世帯によって大きく違うでしょう。最近では,年収の半分以上を家賃で持っていかれる,という世帯も少なくないのではないでしょうか。収入が減る一方で,家賃はほぼ変わってませんからね。
2013年の総務省『住宅土地統計』では,借家世帯の「世帯年収×家賃」のクロス集計がされています。ヨコは世帯年収,タテは家賃月額の階級です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001063455
借家世帯にお住まいの皆さん,ご自身はどこのセルに該当しますか。< >内の数値は階級値ですが,これを使うことで,各セルに該当する世帯の「家賃/年収」比を割り出せます。
たとえば,赤字の「年収300万以上500万未満&家賃6万以上8万未満」の世帯はどうでしょう。この群の場合,それぞれ中間をとって年収400万,家賃月額7万と仮定すると,家賃が年収に占める割合は,(7万×12か月)/400万=21.0%と算出されます。
しかるに,アミをかけたセルの世帯は,同じやり方で出した「家賃/年収」割合が50%を超えます。合計すると193万2500世帯で,上表の全借家世帯(1665万7500世帯)に占める比率は11.6%となります。
家賃だけで年収の半分以上を持っていかれる。かなり無理をしている世帯ですが,こういう世帯が借家世帯の中で少なくないことが知られます。
これは借家世帯全体のデータですが,若年層に限れば当該の世帯の比重はもっと高いでしょう。また,地域差もあるでしょう。全国,東京,鹿児島について,上記の指標の年齢曲線を描くと下図のようになります。
借家世帯の中で,家賃が年収の半分以上の世帯が何%かです。東京の若年層では48.2%と,半分近くにもなります。
学生の単身世帯が多いためでしょうが,学生の生活苦を表しているともいえましょう。分母の年収には,仕送りや奨学金も含まれます。これをも含めた収入の半分以上を,家賃だけで持っていかれる,ということです。
東京では年齢差も大きく,若年層と高齢層で,無理をしている世帯が多いことが分かります。少ない収入で,バカ高の家賃を負担するためです。私の郷里の鹿児島ではこうした変異はなく,曲線はほぼフラットになっています。どの年齢層も5%前後です。
47都道府県の年齢層別の数値一覧もご覧に入れましょう。黄色は最高値,青色は最低値です。10%以上の数値は赤字(ゴチは20%超)にしています。
25歳未満の若年層をみると,東京では半分近くの世帯が重い家賃負担(年収の半分超)に苦しんでいますが,秋田ではこういう世帯は皆無です。
赤字の分布をみると,やはり都市部ではキツイ。収入は多いものの,それを上回る家賃負担がのしかかる。地方ではクルマの維持費などが加わるでしょうが,それを加味しても,生活の基礎経費は都市部のほうが重いのではないでしょうか。
私のような文筆業(フリーランス)に限ったら,地域差はもっと大きいでしょうね。どこに住んでも収入は一緒で,家賃は地方で格段に安くなるのですから。ヒマをみて,目星をつけている神奈川県三浦半島の賃貸をウォッチしているのですが,安くて広い物件があるわあるわ・・・。
https://twitter.com/tmaita77/status/789799635778842624
家賃だけで年収の半分以上を持っていかれる。家賃を払うために働いているようなものですが,そういう世帯が量的に少なくないこと,都市部の若年層・高齢層では悲惨な状況になっていることを知りました。
「住」は生活の基盤です。この部分に関する公的な補助が日本では脆弱と聞きますが,若者の自立支援を促し,未婚化・少子化に歯止めをかける上でも,必要な施策であるのは間違いありません。
埼玉県戸田市が,新任保育士に30万円を支給する制度を始めるそうですが,家賃補助や公的住宅の斡旋のような施策のほうがいいのではないか,という気がします。生活の基盤が保障されることの安心は大きいでしょう。
「住」の支援を充実させ,若者を実家から引っ張りだし,新居を構えさせる。そうすれば,家電などの消費も増え,景気の刺激剤にもなる。山田昌弘教授の『パラサイト・シングルの時代』ちくま新書(1999年)に,こんなことが書かれています。
「3世代同居」の推奨などは,それに逆行するもので,社会の活性化を阻むことにもなろうかと思います。
「家賃/年収」の比重は,大よそ3分の1くらいが普通とされています。しかしこれは,世帯によって大きく違うでしょう。最近では,年収の半分以上を家賃で持っていかれる,という世帯も少なくないのではないでしょうか。収入が減る一方で,家賃はほぼ変わってませんからね。
2013年の総務省『住宅土地統計』では,借家世帯の「世帯年収×家賃」のクロス集計がされています。ヨコは世帯年収,タテは家賃月額の階級です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001063455
借家世帯にお住まいの皆さん,ご自身はどこのセルに該当しますか。< >内の数値は階級値ですが,これを使うことで,各セルに該当する世帯の「家賃/年収」比を割り出せます。
たとえば,赤字の「年収300万以上500万未満&家賃6万以上8万未満」の世帯はどうでしょう。この群の場合,それぞれ中間をとって年収400万,家賃月額7万と仮定すると,家賃が年収に占める割合は,(7万×12か月)/400万=21.0%と算出されます。
しかるに,アミをかけたセルの世帯は,同じやり方で出した「家賃/年収」割合が50%を超えます。合計すると193万2500世帯で,上表の全借家世帯(1665万7500世帯)に占める比率は11.6%となります。
家賃だけで年収の半分以上を持っていかれる。かなり無理をしている世帯ですが,こういう世帯が借家世帯の中で少なくないことが知られます。
これは借家世帯全体のデータですが,若年層に限れば当該の世帯の比重はもっと高いでしょう。また,地域差もあるでしょう。全国,東京,鹿児島について,上記の指標の年齢曲線を描くと下図のようになります。
借家世帯の中で,家賃が年収の半分以上の世帯が何%かです。東京の若年層では48.2%と,半分近くにもなります。
学生の単身世帯が多いためでしょうが,学生の生活苦を表しているともいえましょう。分母の年収には,仕送りや奨学金も含まれます。これをも含めた収入の半分以上を,家賃だけで持っていかれる,ということです。
東京では年齢差も大きく,若年層と高齢層で,無理をしている世帯が多いことが分かります。少ない収入で,バカ高の家賃を負担するためです。私の郷里の鹿児島ではこうした変異はなく,曲線はほぼフラットになっています。どの年齢層も5%前後です。
47都道府県の年齢層別の数値一覧もご覧に入れましょう。黄色は最高値,青色は最低値です。10%以上の数値は赤字(ゴチは20%超)にしています。
25歳未満の若年層をみると,東京では半分近くの世帯が重い家賃負担(年収の半分超)に苦しんでいますが,秋田ではこういう世帯は皆無です。
赤字の分布をみると,やはり都市部ではキツイ。収入は多いものの,それを上回る家賃負担がのしかかる。地方ではクルマの維持費などが加わるでしょうが,それを加味しても,生活の基礎経費は都市部のほうが重いのではないでしょうか。
私のような文筆業(フリーランス)に限ったら,地域差はもっと大きいでしょうね。どこに住んでも収入は一緒で,家賃は地方で格段に安くなるのですから。ヒマをみて,目星をつけている神奈川県三浦半島の賃貸をウォッチしているのですが,安くて広い物件があるわあるわ・・・。
https://twitter.com/tmaita77/status/789799635778842624
家賃だけで年収の半分以上を持っていかれる。家賃を払うために働いているようなものですが,そういう世帯が量的に少なくないこと,都市部の若年層・高齢層では悲惨な状況になっていることを知りました。
「住」は生活の基盤です。この部分に関する公的な補助が日本では脆弱と聞きますが,若者の自立支援を促し,未婚化・少子化に歯止めをかける上でも,必要な施策であるのは間違いありません。
埼玉県戸田市が,新任保育士に30万円を支給する制度を始めるそうですが,家賃補助や公的住宅の斡旋のような施策のほうがいいのではないか,という気がします。生活の基盤が保障されることの安心は大きいでしょう。
「住」の支援を充実させ,若者を実家から引っ張りだし,新居を構えさせる。そうすれば,家電などの消費も増え,景気の刺激剤にもなる。山田昌弘教授の『パラサイト・シングルの時代』ちくま新書(1999年)に,こんなことが書かれています。
「3世代同居」の推奨などは,それに逆行するもので,社会の活性化を阻むことにもなろうかと思います。
2016年10月21日金曜日
公務員の冒険志向の国際比較
近年,学生の公務員志望率が高まっているといいます。高度経済成長期の頃は「安月給」などと忌避されましたが,最近はさにあらず。民間に比して高給で安定していますからね。
しかるに,採用する側は,そういうことを考えている人間には来てほしくないようです。だいぶ前ですが,学生が手に持っていた某県の受験パンフに,こんなことが書いてありました。
こういう人は来ないでください
①生活の安定だけを考えている人
②失敗を恐れ,新しいことに挑戦しようとしない人 ・・・
これはホンネなのかどうか。出る杭は打たれる日本ですが,保守的な役所では,それがいっそう顕著だと思うのですが・・・。
②については,日本人の冒険志向が際立って低いことは,データを交えて一度書いたことがあります。公務員の場合,冒険やリスクをとることを極力避けるメンタリティが強いのではないか。合言葉は「前例踏襲!」です。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/12/20-7.php
今回は,公務員に絞って,冒険志向の国際比較をしてみようと思います。日頃目にする,役所の職員さんをイメージしながら読んでいただければと存じます。
2010~14年に実施された『第6回・世界価値観調査』では,「冒険し,リスクを冒すこと,刺激のある生活は大事だ」という項目に,自分はどれほど当てはまるかを問うています。選択肢は,「とてもよく当てはまる」から「全く当てはまらない」までの6段階です。
http://www.worldvaluessurvey.org/WVSOnline.jsp
主要国について,25~54歳の公務員を取り出し,反応の分布を比べてみましょう。無回答は除く,有効回答分に限ります。サンプルサイズは日本が100人,韓国が113人,アメリカとドイツが189人,スウェーデンが199人です。*英仏は調査に非参加。
日本の公務員は,冒険志向が低くなっています。「とても当てはまる」から「多少当てはまる」の比率をとると,日本は6.0%,韓国は54.0%,アメリカは38.6%,ドイツは25.4%,スウェーデンは40.2%です。日本だけが格段に低くなっています。
この手の意識調査では,日本と韓国はだいたい似たような傾向を呈するのですが,公務員の冒険志向は違っていますね。
上記の6段階の反応分布をもとに,冒険志向の強さを測る単一尺度を作ってみましょう。「とても当てはまる」に6点,「当てはまる」に5点,「多少当てはまる」に4点,「あまり当てはまらない」に3点,「当てはまらない」に2点,「全く当てはまらない」に1点を与えた場合,平均点がいくらになるかを計算します。
算出された平均点は,日本が1.97点,韓国が3.68点,アメリカが3.14点,ドイツが2.62点,スウェーデンが3.07点です。6段階の反応分布を考慮したスコアでみても,日本の公務員の冒険志向は,主要国で最低であることが知られます。
まあ日本の場合,冒険志向が低いのは公務員だけではありません。国民全体がそうです。そこで,25~54歳の対象者全体に比した相対水準も出してみます。下表は,25~54歳の公務員の冒険志向スコアと,同年齢の対象者全体に比した相対倍率の国別一覧です。
黄色マークは最高値,青色マークは最低値ですが,日本は公務員と全体とも,冒険志向が最も低くなっています。
トップは,アフリカのナイジェリア。今後の発展可能性を秘めた大国ですが,こういう社会では,人々の冒険志向も高くなるのでしょうか。萎んでいくだけの日本との対比を見るような思いです。赤字は上位5位ですが,多くがアフリカの国です。
右端の相対倍率は,公務員の冒険志向スコアを全体のそれで除した値です。全体と比した公務員の冒険志向の相対水準ですが,日本は公務員のほうが低いので,1.0を割っています。
公務員の委縮はどの社会でも同じかと思いきや,そうではないようです。表をみると,倍率が1.0を超えている国のほうが多いではありませんか。日本では,公務員の冒険志向が,絶対水準だけでなく,国内の相対水準でみても低いことが分かります。
この様をグラフで可視化してみましょう。横軸に公務員の冒険志向スコア(a),縦軸に対全体倍率(a/b)をとった座標上に,58か国を配置したものです。横軸は冒険志向の絶対水準,縦軸は国内での相対水準を意味します。
日本は右下にありますが,この事実が上述のことの可視的な表現です。「公務員の冒険志向が,絶対水準だけでなく,国内の相対水準でみても低い」と。
日本人の冒険志向は低いが,中でも公務員の委縮は際立っている。まあ,われわれが感じていることそのものですが,社会を動かす公務員には,冒険志向をもっと持ってほしいと思います。今の日本の諸問題は小手先の改革では通用せず,これまでの慣例を覆すような抜本改革が求められますが,冒険志向なしに,それはなし得ません。
公務員の採用においても,「生活の安定だけを考えている人,失敗を恐れ,新しいことに挑戦しようとしない人」は要らないとパンフに書くだけでなく,その方針を具現していただきたい。北九州市のコスプレ趣味の公務員が話題になっていますが,こういう変わり者をどんどん増やすべきではないかと思います。
http://www.asahi.com/articles/ASJ9R3FS3J9RTIPE004.html
試験において,風変わりな趣味や世界放浪の経験などを評価してもいいでしょう。現状は,その逆なんですが。
まずは,社会を動かす「官」から変わること。その萌芽がどれほど芽生えているかが,今回の冒険志向スコアで測られるのですが,日本ではわずかしかなく,それは「民」よりも小さいといった状況です。
しかるに,採用する側は,そういうことを考えている人間には来てほしくないようです。だいぶ前ですが,学生が手に持っていた某県の受験パンフに,こんなことが書いてありました。
こういう人は来ないでください
①生活の安定だけを考えている人
②失敗を恐れ,新しいことに挑戦しようとしない人 ・・・
これはホンネなのかどうか。出る杭は打たれる日本ですが,保守的な役所では,それがいっそう顕著だと思うのですが・・・。
②については,日本人の冒険志向が際立って低いことは,データを交えて一度書いたことがあります。公務員の場合,冒険やリスクをとることを極力避けるメンタリティが強いのではないか。合言葉は「前例踏襲!」です。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/12/20-7.php
今回は,公務員に絞って,冒険志向の国際比較をしてみようと思います。日頃目にする,役所の職員さんをイメージしながら読んでいただければと存じます。
2010~14年に実施された『第6回・世界価値観調査』では,「冒険し,リスクを冒すこと,刺激のある生活は大事だ」という項目に,自分はどれほど当てはまるかを問うています。選択肢は,「とてもよく当てはまる」から「全く当てはまらない」までの6段階です。
http://www.worldvaluessurvey.org/WVSOnline.jsp
主要国について,25~54歳の公務員を取り出し,反応の分布を比べてみましょう。無回答は除く,有効回答分に限ります。サンプルサイズは日本が100人,韓国が113人,アメリカとドイツが189人,スウェーデンが199人です。*英仏は調査に非参加。
日本の公務員は,冒険志向が低くなっています。「とても当てはまる」から「多少当てはまる」の比率をとると,日本は6.0%,韓国は54.0%,アメリカは38.6%,ドイツは25.4%,スウェーデンは40.2%です。日本だけが格段に低くなっています。
この手の意識調査では,日本と韓国はだいたい似たような傾向を呈するのですが,公務員の冒険志向は違っていますね。
上記の6段階の反応分布をもとに,冒険志向の強さを測る単一尺度を作ってみましょう。「とても当てはまる」に6点,「当てはまる」に5点,「多少当てはまる」に4点,「あまり当てはまらない」に3点,「当てはまらない」に2点,「全く当てはまらない」に1点を与えた場合,平均点がいくらになるかを計算します。
算出された平均点は,日本が1.97点,韓国が3.68点,アメリカが3.14点,ドイツが2.62点,スウェーデンが3.07点です。6段階の反応分布を考慮したスコアでみても,日本の公務員の冒険志向は,主要国で最低であることが知られます。
まあ日本の場合,冒険志向が低いのは公務員だけではありません。国民全体がそうです。そこで,25~54歳の対象者全体に比した相対水準も出してみます。下表は,25~54歳の公務員の冒険志向スコアと,同年齢の対象者全体に比した相対倍率の国別一覧です。
トップは,アフリカのナイジェリア。今後の発展可能性を秘めた大国ですが,こういう社会では,人々の冒険志向も高くなるのでしょうか。萎んでいくだけの日本との対比を見るような思いです。赤字は上位5位ですが,多くがアフリカの国です。
右端の相対倍率は,公務員の冒険志向スコアを全体のそれで除した値です。全体と比した公務員の冒険志向の相対水準ですが,日本は公務員のほうが低いので,1.0を割っています。
公務員の委縮はどの社会でも同じかと思いきや,そうではないようです。表をみると,倍率が1.0を超えている国のほうが多いではありませんか。日本では,公務員の冒険志向が,絶対水準だけでなく,国内の相対水準でみても低いことが分かります。
この様をグラフで可視化してみましょう。横軸に公務員の冒険志向スコア(a),縦軸に対全体倍率(a/b)をとった座標上に,58か国を配置したものです。横軸は冒険志向の絶対水準,縦軸は国内での相対水準を意味します。
日本は右下にありますが,この事実が上述のことの可視的な表現です。「公務員の冒険志向が,絶対水準だけでなく,国内の相対水準でみても低い」と。
日本人の冒険志向は低いが,中でも公務員の委縮は際立っている。まあ,われわれが感じていることそのものですが,社会を動かす公務員には,冒険志向をもっと持ってほしいと思います。今の日本の諸問題は小手先の改革では通用せず,これまでの慣例を覆すような抜本改革が求められますが,冒険志向なしに,それはなし得ません。
公務員の採用においても,「生活の安定だけを考えている人,失敗を恐れ,新しいことに挑戦しようとしない人」は要らないとパンフに書くだけでなく,その方針を具現していただきたい。北九州市のコスプレ趣味の公務員が話題になっていますが,こういう変わり者をどんどん増やすべきではないかと思います。
http://www.asahi.com/articles/ASJ9R3FS3J9RTIPE004.html
試験において,風変わりな趣味や世界放浪の経験などを評価してもいいでしょう。現状は,その逆なんですが。
まずは,社会を動かす「官」から変わること。その萌芽がどれほど芽生えているかが,今回の冒険志向スコアで測られるのですが,日本ではわずかしかなく,それは「民」よりも小さいといった状況です。
2016年10月19日水曜日
階層から目を背けないで
日本教育新聞に「数字が語る・日本の教育」の連載を持たせていただいています。今年の8月8日で,100回を突破しました。その記念企画として,「データにどう向き合う」かについて,私の考えを述べたインタビュー記事を載せていただきました。
主張のフレーズとして,「階層から目を背けないで」と編集者さんが書いてくださっています。いろいろ話しましたが,確かに,一番訴えたいのはココです。この点に関する部分を抜き出して,ブログにも載せておこうと思います。
********************
連載では,さまざまなテーマを取り上げてきましたが,何が印象に残っていますか?
まず強く感じるのは格差です。社会階層と教育の問題は教育社会学の中心テーマで,既にさまざまなデータがありますが,調べてみたら,階層は学力だけでなく。体力や虫歯・肥満などの健康状態,政治的関心などにも結び付いていました。米国などでは,こうした調査結果が出ていますが,日本でも起きているのです。学校現場でも,この問題にもっと取り組まなければいけないと感じます。
しかし,学校は階層という言葉をタブー視しています。一例を挙げれば,教員採用試験の問題では,教育社会学は完全に無視されています。以前,ある学校から,学力に影響を与えている要因を調べたいのでアンケートを作ってほしい,とお願いされて,家庭環境の質問を潜り込ませたのですが,すぐに断られました。ただ,その要素を抜きにして要因は分かりません。現実から目を背けると,日本はますます階層社会になってしまいます。
よくこう言われることがあります。「社会階層と子どもの学力,体力,健康状態との関連は分かった。ではどうすれば良いのか提言してくれ」と。子どもの通塾費を補助したり,保護者に健康指導をしたりする実践も大切なのでしょうが,最も変えなければいけないのは,階層をタブー視する教育界の雰囲気なのです。
(日本教育新聞,2016年9月19日号より)
2016年10月17日月曜日
小学生の体験格差
私のツイッターをご覧の方はお分かりでしょうが,昨日はずっと,総務省『社会生活基本調査』のデータをいじっていました。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm
いろいろな生活行動の頻度の統計で,学歴や所得による違いも分析できるスグレモノです。趣味の学歴差などのグラフをツイッターで発信しましたが,興味をもってくださる方が多いようです。
さて,教育社会学の観点から問題にすべきは,家庭環境とリンクした,子どもの生活行動の格差です。子どもは皆違って当たり前で,暮らしに違いがあるのは当然ですが,それが家庭の富裕度など,本人では如何ともし難い外的条件とつながっている場合,是正を要する「格差」としての性格が出てきます。
学力格差,体力格差,健康格差などの言葉には,こういう意味合いが込められています。
ここでみるのは,学習,スポーツ,趣味・娯楽,ボランティア,旅行・行楽の頻度が,家庭の所得階層によってどう違うかです。これらをひっくるめて,体験格差ということにしましょう。人間形成には各種の体験が重要であるといいますが,それをどれだけ積めるかは,家庭環境と関わっている。
私は,小学生(10歳以上)の各種の行動実施率が,富裕層と貧困層でどう違うかを調べました。前者は年収1500万以上,後者は年収300万未満の家庭の子弟です。手始めに,大雑把な行動分類の実施率からみてみましょう。過去1年間の実施率で,学校の授業によるものは含みません。
どのカテゴリーの実施率も,プアよりリッチで高くなっています。学校の学業以外で何らかの学習をしたという小学生の率は,プアでは34.7%ですが,リッチでは64.7%です。その差,実に30ポイントなり。
富裕層は教育熱心で,早いうちから外国語などの習い事をさせるのでしょう。むろん,そのための経済資本もバッチリ備えている。
他の大カテゴリーでは,実施率にさほど大きな階層差はありません。それは当然で,スポーツや趣味などは,家庭の富裕度と関係なく,ほとんどの小学生が何かしらのものはやりますので。
しかるに,より細かい具体的な項目でみると,実施率の差が甚だ大きいものが少なくありません。たとえばスポーツのうち,スキー・スノボの実施率は,プアが8.2%,リッチが32.3%で,4倍近くの差があります。そこらでやるサッカーなどと違い,これはおカネがかかりますからね。
プアとリッチの実施率が倍以上違う項目を拾い,カテゴリーごとに整理すると,下表のようになります。
該当するのは19項目です。赤字は4倍以上の差があるものですが,海外観光旅行などは格差が凄まじい。プアは0.6%,リッチは17.7%で,およそ30倍の差です。遠出が必要なボランティア経験の差も大きいですね。
芸術鑑賞経験の差も顕著です。自宅でのDVDなどではなく,実際に美術館やコンサートなどに足を運んでの鑑賞経験ですが,家庭環境の影響が色濃く出ています。これはおカネのような経済資本ではなく,保護者の芸術嗜好といった文化資本の差によるでしょう。親の学歴差でみたら,差はもっと大きいと思われます。ブルデューの文化資本論にも通じますね。
スポーツも,場所や道具が要る種目は,実施率の階層差が大きくなっています。そこらでできるサッカーは,階層差は小さいです(プア:27.6%,リッチ:33.8%)。
上表のような体験格差が,学校でのアチーブメントの違いに転化するであろうことは,想像に難くありません。大学入試などでも,従来型のペーパーの比重は小さくし,人物をみる面接が重視される方向ですが,そうなった時,幼少期からの体験がモノをいうようになるでしょう。話題の豊富さ,立ち振る舞い・・・。体験格差を介した,家庭環境の影響が色濃くなるのではないか,という懸念を持ちます。
また気がかりなのは,体験格差が拡大の傾向にあることです。階層差が大きい美術鑑賞と海外旅行の経験率が,この5年間でどう変わったか。プアとリッチで分けてみると,下図のようになります。
どちらもプアでは減り,リッチでは増えている。その結果,差が開いてしまっています。2008年の学習指導要領改訂では,「生きる力」の重要性が改めて強調されました。富裕層はそれに反応し,各種の体験を子どもに積ませるようになったのでしょうか。
貧困層で減っているのは,超プアの比重が高まっているためかもしれません。年収300万どころか,200万にも届かない世帯が増えているのではないか。そういう世帯は,芸術の嗜みや海外旅行など高嶺の花です。
われわれは,見えざる形で進行している,子どもの体験格差に注意を向けないといけません。それは,現代型の学力の階層格差が出ることの条件となるからです。これを是正するにあたって,学校の特別活動や地域のNPO団体などが一役買ってもいいでしょう。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm
いろいろな生活行動の頻度の統計で,学歴や所得による違いも分析できるスグレモノです。趣味の学歴差などのグラフをツイッターで発信しましたが,興味をもってくださる方が多いようです。
さて,教育社会学の観点から問題にすべきは,家庭環境とリンクした,子どもの生活行動の格差です。子どもは皆違って当たり前で,暮らしに違いがあるのは当然ですが,それが家庭の富裕度など,本人では如何ともし難い外的条件とつながっている場合,是正を要する「格差」としての性格が出てきます。
学力格差,体力格差,健康格差などの言葉には,こういう意味合いが込められています。
ここでみるのは,学習,スポーツ,趣味・娯楽,ボランティア,旅行・行楽の頻度が,家庭の所得階層によってどう違うかです。これらをひっくるめて,体験格差ということにしましょう。人間形成には各種の体験が重要であるといいますが,それをどれだけ積めるかは,家庭環境と関わっている。
私は,小学生(10歳以上)の各種の行動実施率が,富裕層と貧困層でどう違うかを調べました。前者は年収1500万以上,後者は年収300万未満の家庭の子弟です。手始めに,大雑把な行動分類の実施率からみてみましょう。過去1年間の実施率で,学校の授業によるものは含みません。
どのカテゴリーの実施率も,プアよりリッチで高くなっています。学校の学業以外で何らかの学習をしたという小学生の率は,プアでは34.7%ですが,リッチでは64.7%です。その差,実に30ポイントなり。
富裕層は教育熱心で,早いうちから外国語などの習い事をさせるのでしょう。むろん,そのための経済資本もバッチリ備えている。
他の大カテゴリーでは,実施率にさほど大きな階層差はありません。それは当然で,スポーツや趣味などは,家庭の富裕度と関係なく,ほとんどの小学生が何かしらのものはやりますので。
しかるに,より細かい具体的な項目でみると,実施率の差が甚だ大きいものが少なくありません。たとえばスポーツのうち,スキー・スノボの実施率は,プアが8.2%,リッチが32.3%で,4倍近くの差があります。そこらでやるサッカーなどと違い,これはおカネがかかりますからね。
プアとリッチの実施率が倍以上違う項目を拾い,カテゴリーごとに整理すると,下表のようになります。
該当するのは19項目です。赤字は4倍以上の差があるものですが,海外観光旅行などは格差が凄まじい。プアは0.6%,リッチは17.7%で,およそ30倍の差です。遠出が必要なボランティア経験の差も大きいですね。
芸術鑑賞経験の差も顕著です。自宅でのDVDなどではなく,実際に美術館やコンサートなどに足を運んでの鑑賞経験ですが,家庭環境の影響が色濃く出ています。これはおカネのような経済資本ではなく,保護者の芸術嗜好といった文化資本の差によるでしょう。親の学歴差でみたら,差はもっと大きいと思われます。ブルデューの文化資本論にも通じますね。
スポーツも,場所や道具が要る種目は,実施率の階層差が大きくなっています。そこらでできるサッカーは,階層差は小さいです(プア:27.6%,リッチ:33.8%)。
上表のような体験格差が,学校でのアチーブメントの違いに転化するであろうことは,想像に難くありません。大学入試などでも,従来型のペーパーの比重は小さくし,人物をみる面接が重視される方向ですが,そうなった時,幼少期からの体験がモノをいうようになるでしょう。話題の豊富さ,立ち振る舞い・・・。体験格差を介した,家庭環境の影響が色濃くなるのではないか,という懸念を持ちます。
また気がかりなのは,体験格差が拡大の傾向にあることです。階層差が大きい美術鑑賞と海外旅行の経験率が,この5年間でどう変わったか。プアとリッチで分けてみると,下図のようになります。
どちらもプアでは減り,リッチでは増えている。その結果,差が開いてしまっています。2008年の学習指導要領改訂では,「生きる力」の重要性が改めて強調されました。富裕層はそれに反応し,各種の体験を子どもに積ませるようになったのでしょうか。
貧困層で減っているのは,超プアの比重が高まっているためかもしれません。年収300万どころか,200万にも届かない世帯が増えているのではないか。そういう世帯は,芸術の嗜みや海外旅行など高嶺の花です。
われわれは,見えざる形で進行している,子どもの体験格差に注意を向けないといけません。それは,現代型の学力の階層格差が出ることの条件となるからです。これを是正するにあたって,学校の特別活動や地域のNPO団体などが一役買ってもいいでしょう。
2016年10月14日金曜日
若者の喫煙・飲酒率の国際比較
煙草と酒は人間にとっての嗜みですが,私は最近,両方とも断っています。
煙草は学生時代は吸っていましたが,2008年からピタリと止めました。今は酒もそうで,まあ2週間に一回くらい,日高屋でビールをジョッキ一杯飲むくらいです。
私だけでなく,近年では若者がこれらから離れているとのこと。確かに,厚労省の『国民健康・栄養調査』の時系列統計などをみると,若者の喫煙率や飲酒率の低下が見て取れます。
それでは,他の国はどうか。ここでは,ヨコの国際比較をしてみようと思います。20~30代の若者の喫煙率・飲酒率が社会によってどう違うか。こういうデータはあまり見かけないので,皆さんの参考になればと思い,作ってみました。
データは,ISSPの「健康と健康管理に関する意識調査」(2011年)のものです。この調査では,喫煙と飲酒の頻度を尋ねています(Q24,Q25a)。「しない」という回答以外の割合を,喫煙率(飲酒率)としました。無回答などは除いた,有効回答の中での比率です。
http://www.issp.org/page.php?pageId=4
日本の20~30代でみると,両方の設問に有効回答を寄せたのは328人。このうち,喫煙者は26.5%,飲酒者は48.8%,両方する者の率は17.1%となっています。煙草は4人に1人,酒はおよそ半数ですか。
このデータを,正方形の面積図で視覚化してみましょう。左は日本で,右は北欧のスウェーデンのグラフです。
青色は喫煙者,赤色は飲酒者の領分で,重なった部分は両方する者に該当します。スウェーデンでは,喫煙者は少ないですね。しかし寒いためか,酒を飲む者は7割と多くなっています。煙草も酒もする者は8.6%で,これは日本のほうが多し。
まあ図形を見る限り,日本もスウェーデンも,煙草ないしは酒をやる若者が多いことが知られます。
他の対象国についも同様に,喫煙率,飲酒率,両方する率を計算してみました。下表は,31か国の一覧表です。上位5位は赤字にし,首位はゴチの赤字にしています。
日本の3つの値は,31か国の平均よりもちょっと低いくらいです。
喫煙率のトップはブルガリアで52.2%,飲酒率はノルウェーで80.6%なり。先ほどのスウェーデンもでしたが,寒いので酒は手放せないのでしょうか。イスラーム社会のイスラエルやトルコでは,飲酒率は低くなっています。
煙草も酒もやる猛者の率の首位は,リトアニアの32.7%です。その次はロシアです。赤字の分布をみると,旧共産圏の社会で喫煙率や飲酒率が相対的に高いように見えます(酒は寒い国)。社会的な統制が強いので,人々は嗜みを求めるのでしょうか。
その対極がアジアの台湾で,この国は喫煙率・飲酒率が1割くらいで,両方する者は5%ほどしかいません。逆をとると,若者の8割以上が煙草も酒もしない社会です。
なるほど,ちょっとググってみると,台湾は喫煙に厳しい社会とあります。2009年のたばこ煙害法改正により,喫煙への風当たりが強まっているそうです。今の日本よりも先を行っています。
http://www.taiwanzine.net/archives/12696
また,食事のお供に酒が供されることは少なく,お茶が好まれるとのこと。健康志向なんですねえ。
日本も,これからだんだんと率が低くなっていくのでしょう。ただ,「禁煙ファシズム」と形容されるような,闇雲な規制はしないで欲しいなと,個人的には思います。喫煙者をスケープゴートに仕立てるような向きも感じられますが,それは「いじめ」というものでしょう。
煙草は学生時代は吸っていましたが,2008年からピタリと止めました。今は酒もそうで,まあ2週間に一回くらい,日高屋でビールをジョッキ一杯飲むくらいです。
私だけでなく,近年では若者がこれらから離れているとのこと。確かに,厚労省の『国民健康・栄養調査』の時系列統計などをみると,若者の喫煙率や飲酒率の低下が見て取れます。
それでは,他の国はどうか。ここでは,ヨコの国際比較をしてみようと思います。20~30代の若者の喫煙率・飲酒率が社会によってどう違うか。こういうデータはあまり見かけないので,皆さんの参考になればと思い,作ってみました。
データは,ISSPの「健康と健康管理に関する意識調査」(2011年)のものです。この調査では,喫煙と飲酒の頻度を尋ねています(Q24,Q25a)。「しない」という回答以外の割合を,喫煙率(飲酒率)としました。無回答などは除いた,有効回答の中での比率です。
http://www.issp.org/page.php?pageId=4
日本の20~30代でみると,両方の設問に有効回答を寄せたのは328人。このうち,喫煙者は26.5%,飲酒者は48.8%,両方する者の率は17.1%となっています。煙草は4人に1人,酒はおよそ半数ですか。
このデータを,正方形の面積図で視覚化してみましょう。左は日本で,右は北欧のスウェーデンのグラフです。
青色は喫煙者,赤色は飲酒者の領分で,重なった部分は両方する者に該当します。スウェーデンでは,喫煙者は少ないですね。しかし寒いためか,酒を飲む者は7割と多くなっています。煙草も酒もする者は8.6%で,これは日本のほうが多し。
まあ図形を見る限り,日本もスウェーデンも,煙草ないしは酒をやる若者が多いことが知られます。
他の対象国についも同様に,喫煙率,飲酒率,両方する率を計算してみました。下表は,31か国の一覧表です。上位5位は赤字にし,首位はゴチの赤字にしています。
日本の3つの値は,31か国の平均よりもちょっと低いくらいです。
喫煙率のトップはブルガリアで52.2%,飲酒率はノルウェーで80.6%なり。先ほどのスウェーデンもでしたが,寒いので酒は手放せないのでしょうか。イスラーム社会のイスラエルやトルコでは,飲酒率は低くなっています。
煙草も酒もやる猛者の率の首位は,リトアニアの32.7%です。その次はロシアです。赤字の分布をみると,旧共産圏の社会で喫煙率や飲酒率が相対的に高いように見えます(酒は寒い国)。社会的な統制が強いので,人々は嗜みを求めるのでしょうか。
その対極がアジアの台湾で,この国は喫煙率・飲酒率が1割くらいで,両方する者は5%ほどしかいません。逆をとると,若者の8割以上が煙草も酒もしない社会です。
なるほど,ちょっとググってみると,台湾は喫煙に厳しい社会とあります。2009年のたばこ煙害法改正により,喫煙への風当たりが強まっているそうです。今の日本よりも先を行っています。
http://www.taiwanzine.net/archives/12696
また,食事のお供に酒が供されることは少なく,お茶が好まれるとのこと。健康志向なんですねえ。
日本も,これからだんだんと率が低くなっていくのでしょう。ただ,「禁煙ファシズム」と形容されるような,闇雲な規制はしないで欲しいなと,個人的には思います。喫煙者をスケープゴートに仕立てるような向きも感じられますが,それは「いじめ」というものでしょう。
2016年10月12日水曜日
アラフォー男性のワーキングプア化
「ワーキングプア」。すっかり知れ渡った造語ですが,字のごとく,「働く貧困層」という意味です。
働いているのに,公的扶助レベルの収入しか得られない人たち。統計で量を測ろうとするなら,さしあたり,年収200万未満の有業者に注目するのがよいでしょう。
毎度使っている『就業構造基本調査』では,有業者の年収分布を集計しています。20~50代の男性有業者のうち,年収200万未満の者の数を拾うと,1992年では281万人でしたが,20年後の2012年では374万人に膨れ上がっています。同年齢の有業者全体に占める比率も,8.8%から13.3%へとアップです。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
生産年齢の男性でも,最近では,有業者の8人に1人がワーキングプアということになります。
言わずもがな,この比率は年齢層によって違っています。1992年と2012年について,男性有業者のワーキングプア率曲線を描くと,下図のようになります。
当然ですが,ワーキングプア率は若年層ほど高し。2012年の20代前半は45.6%で,およそ半分です。大学進学率の上昇により,学生バイトが増えているためでしょうが,昨今の新入社員の苦境はよく言われること。これでいて,学生時代の奨学金返済も迫られるのですから,たまりません。
ワーキングプア率は,どの年齢層でも上昇しています。バリバリの働き盛りのアラフォー男性でも,今ではおよそ1割がWPです。
地域別にみると,もっとスゴイ値が出てきます。アラフォー(35~44歳)の男性有業者に占めるWPの比率を,都道府県別に計算してみました。時代変化も分かるよう,1992年と2012年の対比もします。黄色マークは最高値,青色は最低値です。
子どもの教育費や住宅ローンなど,いろいろ負担がのしかかる年代ですが,どの県でも,年収200万未満のWPの比重が増しています。平均収入が高い東京で最も低いかと思いきや,そうではないようです。
マックスは,時代を問わず沖縄。2012年では29.6%,およそ3割にもなっています。アラフォーの男性でこれです。最近,本県での子どもの貧困や,学生の困窮化(女子大生風俗嬢・・・)がいろいろ指摘されますが,親世代の貧困化の尾を引いていることは確かでしょう。
上表の地域データを地図にすると,この「失われた20年」の変化が可視化されます。
言葉がよくないですが,周辺部から病原菌に感染しているかのようです。
年功序列の日本では,貧しいのは若いうち,加齢とともに自動的に収入は上がる。よって,ワーキングプアのような問題は,中高年層には無縁と思われがちですが,最近の実態はそうではありません。
まぐれもなく,この層にも関わる問題とみるべきでしょう。私が今,この年齢層であるだけに,そのことを肌身で実感します。世代的にいうと,大学卒業時に未曽有の不況期に遭遇したロスジェネです。
いま,子育ての最中にありますが,この世代(親世代)の貧困化が,子どもの育ちに影を落としていることは言うまでもありますまい。沖縄などでは,それが顕著に表れています。
沖縄では,子どもの貧困が大きな問題になっており,上級学校進学機会のはく奪だけでなく,虫歯などの健康問題も深刻化しているといいます。これを受けて,子どもの貧困調査も独自に実施されています。
http://www.pref.okinawa.jp/site/kodomo/shonenkodomo/kodomonohinkontyousa.html
その背景として,親世代の苦境があるのは間違いないことですが,その可視化のデータを作ってみようと思い,県別のアラフォー男性のWP率を出してみた次第です。
働いているのに,公的扶助レベルの収入しか得られない人たち。統計で量を測ろうとするなら,さしあたり,年収200万未満の有業者に注目するのがよいでしょう。
毎度使っている『就業構造基本調査』では,有業者の年収分布を集計しています。20~50代の男性有業者のうち,年収200万未満の者の数を拾うと,1992年では281万人でしたが,20年後の2012年では374万人に膨れ上がっています。同年齢の有業者全体に占める比率も,8.8%から13.3%へとアップです。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
生産年齢の男性でも,最近では,有業者の8人に1人がワーキングプアということになります。
言わずもがな,この比率は年齢層によって違っています。1992年と2012年について,男性有業者のワーキングプア率曲線を描くと,下図のようになります。
当然ですが,ワーキングプア率は若年層ほど高し。2012年の20代前半は45.6%で,およそ半分です。大学進学率の上昇により,学生バイトが増えているためでしょうが,昨今の新入社員の苦境はよく言われること。これでいて,学生時代の奨学金返済も迫られるのですから,たまりません。
ワーキングプア率は,どの年齢層でも上昇しています。バリバリの働き盛りのアラフォー男性でも,今ではおよそ1割がWPです。
地域別にみると,もっとスゴイ値が出てきます。アラフォー(35~44歳)の男性有業者に占めるWPの比率を,都道府県別に計算してみました。時代変化も分かるよう,1992年と2012年の対比もします。黄色マークは最高値,青色は最低値です。
子どもの教育費や住宅ローンなど,いろいろ負担がのしかかる年代ですが,どの県でも,年収200万未満のWPの比重が増しています。平均収入が高い東京で最も低いかと思いきや,そうではないようです。
マックスは,時代を問わず沖縄。2012年では29.6%,およそ3割にもなっています。アラフォーの男性でこれです。最近,本県での子どもの貧困や,学生の困窮化(女子大生風俗嬢・・・)がいろいろ指摘されますが,親世代の貧困化の尾を引いていることは確かでしょう。
上表の地域データを地図にすると,この「失われた20年」の変化が可視化されます。
言葉がよくないですが,周辺部から病原菌に感染しているかのようです。
年功序列の日本では,貧しいのは若いうち,加齢とともに自動的に収入は上がる。よって,ワーキングプアのような問題は,中高年層には無縁と思われがちですが,最近の実態はそうではありません。
まぐれもなく,この層にも関わる問題とみるべきでしょう。私が今,この年齢層であるだけに,そのことを肌身で実感します。世代的にいうと,大学卒業時に未曽有の不況期に遭遇したロスジェネです。
いま,子育ての最中にありますが,この世代(親世代)の貧困化が,子どもの育ちに影を落としていることは言うまでもありますまい。沖縄などでは,それが顕著に表れています。
沖縄では,子どもの貧困が大きな問題になっており,上級学校進学機会のはく奪だけでなく,虫歯などの健康問題も深刻化しているといいます。これを受けて,子どもの貧困調査も独自に実施されています。
http://www.pref.okinawa.jp/site/kodomo/shonenkodomo/kodomonohinkontyousa.html
その背景として,親世代の苦境があるのは間違いないことですが,その可視化のデータを作ってみようと思い,県別のアラフォー男性のWP率を出してみた次第です。
2016年10月10日月曜日
体育の日にちなんで
今日は10月10日,体育の日です。それにちなんだデータをいくつか紹介しましょう。
昨日,2015年度の『体力・運動能力調査』の結果が公表され,そのエッセンスが各紙で報じられています。私は産経新聞の記事を読みましたが,「高齢者の運動能力が引き続き向上した一方で,若い女性の『運動離れ』の傾向も目立っている」とのこと。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161009-00000535-san-soci
私は,後者の点に関心を持ちます。「若者の**離れ」という言い回しは好きではありませんが,若者の運動習慣が廃れていることは,よく耳にするからです。
私は,『社会生活基本調査』の時系列データにあたって,1990年代以降の20年間の変化を可視化してみました。スポーツ実施率(過去1年間)の年齢曲線の変化です。これは自発的にスポーツをしたという者の比率で,学校の体育の授業や職場研修などによるものは含みません。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001051678&cycode=0
下図は,1991年と2011年調査のデータから描いた,スポーツ実施率の年齢曲線です。左側は男性,右側は女性です。
過去1年間に何らかのスポーツをした者の比率ですが,女性の60代を除いて,どの層でも減っています。この20年間は,運動習慣の喪失という点でも「失われた20年」だったようです。
とりわけ,若年層で減少幅は大きくなっています。それが最も大きいのは20代前半の女性で,90.7%から64.5%と,26.2ポイントもの低下です。
なるほど,上記の記事でいわれている「若い女性の運動離れ」が官庁統計にも出ています。女性の場合,以前に比して正社員就業率が高まっていますので,運動の時間がとれなくなっているのでしょうか。
若年から中年のスポーツ実施率低下の背景には,ネットの普及もあるかと思いますが。90年代以降の「ネット普及」と若年層の「運動離れ」は,パラのような気がします。
上記は運動習慣に関わるデータですが,実際の体力はどう変わったか。教育学を専攻する私は,子どもの体力変化に興味を持ちます。子どもの体力低下がいわれて久しいですが,この半世紀にわたる長期変化をみてみましょう。
データは,文科省『体力・運動能力調査』のものです。種目はいろいろあり,調査対象の年齢もさまざまですが,11歳男子の握力の曲線に,時代の変化が出ています。下図は,1960年代半ばからのカーブです。このグラフは,日本教育新聞の連載コラムで前に紹介したことがあります(2015年1月12日)。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001054955&cycode=0
微差ですが,11歳男子の握力には時代変化が認められます。曲線の型から,3つのエポックに区切ることができそうです。60年代半ばから70年代の「上昇期」,80年代の「高原期」,90年代以降の「下降期」です。
最初の上昇期は,64年に開催された東京オリンピックの影響でしょう。子どもたちのスポーツ熱が高まり,体力の向上に寄与したと思われます。
80年代になると上昇は止まりますが,83年にファミコンが発売されるなど,室内遊びが主流になり,外遊びが減ったためでしょうか。塾通いもいよいよ増え,野球などの集団遊びも難しくなった。「時間・空間・仲間」という,外遊びに要する3要素(サンマ)の減少が目立ってきた時期でもあります。
90年代以降は,ネットの普及により,子どもの運動習慣はさらに減少。早期受験も浸透。こういう条件の変化が,曲線の下降となって表れているのだと思います。2012年3月に策定された「スポーツ基本計画」では,子どもの体力水準を1985年頃の水準に戻すことが目指されていますが,どうなることやら。
「サンマ」の減少,ネットの普及など,子どもたちの運動(外遊び)を阻む条件が出てきている現在ですが,こういう状況でも,運動をする子はする,しない子はしない。近年,子どもたちの間でこうした分化(segregation)が起きているように見受けられます。それを生じせしめる要因は,ズバリ,家庭の経済力です。
それは,子どものスポーツ実施率を家庭の年収別にみるとよく分かります。小学生(10歳以上)のスポーツ実施率を,年収300万未満の貧困層と,年収1500万以上の富裕層で比べてみましょう。下図は,22の種目の実施率のグラフです。
点斜線(均等線)より上にある場合,貧困層より富裕層の実施率が高いことを意味します。うーん,ほとんどの種目がそうですね。
もう一つ上の実斜線より上,黄色のゾーンに位置するのは,富裕層の実施率が貧困層より10ポイント以上高い種目です。水泳,野球,スキー・スノボ,サイクリング,バスケ,器具でのトレーニングが,これに該当します。おカネがかかりそうなものばかりですね。
水泳は子どもの習い事のメジャーですが,これとて,家庭の経済力によって実施率がかなり違っています。水泳教室の費用も結構かかるといいますしね。
今では子どもの自発的な遊び場の確保が困難なだけに,運動の機会も「おカネ」で買う時代なのかもしれません。これにより,家庭環境とリンクした子どもの体力格差なる現象も生じています。この点については,前にプレジデント・オンラインの連載記事で書きました。
http://president.jp/articles/-/17395
学校開放などを積極的に進めて,子どもの遊び場の確保を図るのは,行政の課題といえましょう。
子どもの体力低下がいわれていますが,「体力を下げているのは誰か?」という問いを立てねばなりません。体力低下から体力格差へと,問題の視座の転換です。
体育の日だというのに,暗いデータばかりをお見せしましたが,身もふたもない現実を暴露するのが私の商売ですので,ご寛恕のほど。あいにくの曇天ですが,連休最後の日を,お健やかにお過ごしください。
昨日,2015年度の『体力・運動能力調査』の結果が公表され,そのエッセンスが各紙で報じられています。私は産経新聞の記事を読みましたが,「高齢者の運動能力が引き続き向上した一方で,若い女性の『運動離れ』の傾向も目立っている」とのこと。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161009-00000535-san-soci
私は,後者の点に関心を持ちます。「若者の**離れ」という言い回しは好きではありませんが,若者の運動習慣が廃れていることは,よく耳にするからです。
私は,『社会生活基本調査』の時系列データにあたって,1990年代以降の20年間の変化を可視化してみました。スポーツ実施率(過去1年間)の年齢曲線の変化です。これは自発的にスポーツをしたという者の比率で,学校の体育の授業や職場研修などによるものは含みません。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001051678&cycode=0
下図は,1991年と2011年調査のデータから描いた,スポーツ実施率の年齢曲線です。左側は男性,右側は女性です。
過去1年間に何らかのスポーツをした者の比率ですが,女性の60代を除いて,どの層でも減っています。この20年間は,運動習慣の喪失という点でも「失われた20年」だったようです。
とりわけ,若年層で減少幅は大きくなっています。それが最も大きいのは20代前半の女性で,90.7%から64.5%と,26.2ポイントもの低下です。
なるほど,上記の記事でいわれている「若い女性の運動離れ」が官庁統計にも出ています。女性の場合,以前に比して正社員就業率が高まっていますので,運動の時間がとれなくなっているのでしょうか。
若年から中年のスポーツ実施率低下の背景には,ネットの普及もあるかと思いますが。90年代以降の「ネット普及」と若年層の「運動離れ」は,パラのような気がします。
上記は運動習慣に関わるデータですが,実際の体力はどう変わったか。教育学を専攻する私は,子どもの体力変化に興味を持ちます。子どもの体力低下がいわれて久しいですが,この半世紀にわたる長期変化をみてみましょう。
データは,文科省『体力・運動能力調査』のものです。種目はいろいろあり,調査対象の年齢もさまざまですが,11歳男子の握力の曲線に,時代の変化が出ています。下図は,1960年代半ばからのカーブです。このグラフは,日本教育新聞の連載コラムで前に紹介したことがあります(2015年1月12日)。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001054955&cycode=0
微差ですが,11歳男子の握力には時代変化が認められます。曲線の型から,3つのエポックに区切ることができそうです。60年代半ばから70年代の「上昇期」,80年代の「高原期」,90年代以降の「下降期」です。
最初の上昇期は,64年に開催された東京オリンピックの影響でしょう。子どもたちのスポーツ熱が高まり,体力の向上に寄与したと思われます。
80年代になると上昇は止まりますが,83年にファミコンが発売されるなど,室内遊びが主流になり,外遊びが減ったためでしょうか。塾通いもいよいよ増え,野球などの集団遊びも難しくなった。「時間・空間・仲間」という,外遊びに要する3要素(サンマ)の減少が目立ってきた時期でもあります。
90年代以降は,ネットの普及により,子どもの運動習慣はさらに減少。早期受験も浸透。こういう条件の変化が,曲線の下降となって表れているのだと思います。2012年3月に策定された「スポーツ基本計画」では,子どもの体力水準を1985年頃の水準に戻すことが目指されていますが,どうなることやら。
「サンマ」の減少,ネットの普及など,子どもたちの運動(外遊び)を阻む条件が出てきている現在ですが,こういう状況でも,運動をする子はする,しない子はしない。近年,子どもたちの間でこうした分化(segregation)が起きているように見受けられます。それを生じせしめる要因は,ズバリ,家庭の経済力です。
それは,子どものスポーツ実施率を家庭の年収別にみるとよく分かります。小学生(10歳以上)のスポーツ実施率を,年収300万未満の貧困層と,年収1500万以上の富裕層で比べてみましょう。下図は,22の種目の実施率のグラフです。
点斜線(均等線)より上にある場合,貧困層より富裕層の実施率が高いことを意味します。うーん,ほとんどの種目がそうですね。
もう一つ上の実斜線より上,黄色のゾーンに位置するのは,富裕層の実施率が貧困層より10ポイント以上高い種目です。水泳,野球,スキー・スノボ,サイクリング,バスケ,器具でのトレーニングが,これに該当します。おカネがかかりそうなものばかりですね。
水泳は子どもの習い事のメジャーですが,これとて,家庭の経済力によって実施率がかなり違っています。水泳教室の費用も結構かかるといいますしね。
今では子どもの自発的な遊び場の確保が困難なだけに,運動の機会も「おカネ」で買う時代なのかもしれません。これにより,家庭環境とリンクした子どもの体力格差なる現象も生じています。この点については,前にプレジデント・オンラインの連載記事で書きました。
http://president.jp/articles/-/17395
学校開放などを積極的に進めて,子どもの遊び場の確保を図るのは,行政の課題といえましょう。
子どもの体力低下がいわれていますが,「体力を下げているのは誰か?」という問いを立てねばなりません。体力低下から体力格差へと,問題の視座の転換です。
体育の日だというのに,暗いデータばかりをお見せしましたが,身もふたもない現実を暴露するのが私の商売ですので,ご寛恕のほど。あいにくの曇天ですが,連休最後の日を,お健やかにお過ごしください。
2016年10月8日土曜日
正社員の過労自殺予備軍量
電通の若手女性社員が,過労を苦に自殺する事件が起きました。月間の残業時間は100時間にも及んでいたとのこと。
この件について,私が知る大学の某教授が「残業100時間くらいで自殺するなんて情けない」とか,馬鹿げたことをぬかしていますが,情けないのはご自身であることを自覚すべきでしょう。
http://matome.naver.jp/odai/2147589075970863601
私はこういう事件の報道に接すると,同じような悲劇に陥りかねない人間が,統計でみてどれくらいいるのかを知りたくなります。言葉がよくないかもしれませんが,予備軍量の見積もりです。
総務省の『就業構造基本調査』では,有業者の週間就業時間と年間就業日数を集計しています。マックスのカテゴリーは,前者が週75時間以上,後者が年間300日以上です。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
年間300日以上ということは,月25日以上勤務,週間にすると6日以上です。法定の週当たりの勤務時間は,1日8時間×6日=48時間。週75時間以上ということは,これを27時間以上オーバーしており,月当たりの超過勤務(残業)時間は,27×4週=108時間以上に及ぶことになります。
統計上は,「週75時間以上」かつ「年間300日以上」働いている労働者が,冒頭の電通社員に匹敵する過労自殺予備軍と見立てることができそうです。
2012年の『就業構造基本調査』によると,年間200日以上の規則的就業をしている,15歳以上の正規職員数は3101万600人。このうち,「週75時間以上」と「年間300日以上」のマックスカテゴリーに該当するのは,以下のようになっています。( )内は,全数に対する割合です。
週75時間以上 ・・・ 815,600人 (2.6%)
年間300日以上 ・・・ 2,984,500人 (9.6%)
両方に該当 ・・・ 386,900人 (1.2%)
過労自殺の予備軍は,両方に該当する38万6900人ほどと見積もられます。私が住んでいる多摩市の人口の3倍近くです。正社員全体に占める割合は1.2%,およそ83人に1人なり。
上記のデータを面積図で表してみましょう。青色の「週75時間以上」と赤色の「年間300日以上」の正方形が重なったブラックの部分が,過労自殺予備軍ということになります。
なお,危険なブラックの比重は,職業によってかなり違っています。激務といわれる勤務医(歯科医師,獣医は除く)についても,同じ図をつくってみました。左側は正社員全体,右側は医師のグラフです。
「週75時間以上」&「年間300日以上」の過労自殺予備軍は,正規職員全体では1.2%ですが,勤務医では14.5%,7人に1人にもなっています。巷で言われていることが可視化されていて,背筋が凍る思いがします。
他の職業についても同じ値を出してみました。過労自殺予備軍の比率が高い職業を挙げてみましょう。上位10位です。
宗教家 ・・・ 15.87%
医師 ・・・ 14.47%
法務従事者 ・・・ 9.00%
飲食物調理従事者 ・・・ 5.48%
漁業従事者 ・・・ 5.45%
接客・給仕職業従事者 ・・・ 4.09%
自動車運転従事者 ・・・ 3.77%
著述家,記者,編集者 ・・・ 3.41%
生活衛生サービス職業従事者 ・・・ 3.15%
教員 ・・・ 3.11%
どうでしょう。宗教家は,昼夜問わずの布教活動などによるでしょう。弁護士さん,飲食業,運転手の長時間勤務も,よく指摘されている通り。
編集者もキツイ。夜の11時ころメールをしてくる,馴染みの編集者さんの顔が思い浮かびます。教員の過労もよく言われていること。
業界別に上記のような図をつくって,注意を促すべきでしょう。さしあたり,上に掲げた医師の悲惨な図形をみて,医師会はどういう反応をすることか。「さもありなん」で笑い飛ばせることではありません。
この件について,私が知る大学の某教授が「残業100時間くらいで自殺するなんて情けない」とか,馬鹿げたことをぬかしていますが,情けないのはご自身であることを自覚すべきでしょう。
http://matome.naver.jp/odai/2147589075970863601
私はこういう事件の報道に接すると,同じような悲劇に陥りかねない人間が,統計でみてどれくらいいるのかを知りたくなります。言葉がよくないかもしれませんが,予備軍量の見積もりです。
総務省の『就業構造基本調査』では,有業者の週間就業時間と年間就業日数を集計しています。マックスのカテゴリーは,前者が週75時間以上,後者が年間300日以上です。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
年間300日以上ということは,月25日以上勤務,週間にすると6日以上です。法定の週当たりの勤務時間は,1日8時間×6日=48時間。週75時間以上ということは,これを27時間以上オーバーしており,月当たりの超過勤務(残業)時間は,27×4週=108時間以上に及ぶことになります。
統計上は,「週75時間以上」かつ「年間300日以上」働いている労働者が,冒頭の電通社員に匹敵する過労自殺予備軍と見立てることができそうです。
2012年の『就業構造基本調査』によると,年間200日以上の規則的就業をしている,15歳以上の正規職員数は3101万600人。このうち,「週75時間以上」と「年間300日以上」のマックスカテゴリーに該当するのは,以下のようになっています。( )内は,全数に対する割合です。
週75時間以上 ・・・ 815,600人 (2.6%)
年間300日以上 ・・・ 2,984,500人 (9.6%)
両方に該当 ・・・ 386,900人 (1.2%)
過労自殺の予備軍は,両方に該当する38万6900人ほどと見積もられます。私が住んでいる多摩市の人口の3倍近くです。正社員全体に占める割合は1.2%,およそ83人に1人なり。
上記のデータを面積図で表してみましょう。青色の「週75時間以上」と赤色の「年間300日以上」の正方形が重なったブラックの部分が,過労自殺予備軍ということになります。
なお,危険なブラックの比重は,職業によってかなり違っています。激務といわれる勤務医(歯科医師,獣医は除く)についても,同じ図をつくってみました。左側は正社員全体,右側は医師のグラフです。
「週75時間以上」&「年間300日以上」の過労自殺予備軍は,正規職員全体では1.2%ですが,勤務医では14.5%,7人に1人にもなっています。巷で言われていることが可視化されていて,背筋が凍る思いがします。
他の職業についても同じ値を出してみました。過労自殺予備軍の比率が高い職業を挙げてみましょう。上位10位です。
宗教家 ・・・ 15.87%
医師 ・・・ 14.47%
法務従事者 ・・・ 9.00%
飲食物調理従事者 ・・・ 5.48%
漁業従事者 ・・・ 5.45%
接客・給仕職業従事者 ・・・ 4.09%
自動車運転従事者 ・・・ 3.77%
著述家,記者,編集者 ・・・ 3.41%
生活衛生サービス職業従事者 ・・・ 3.15%
教員 ・・・ 3.11%
どうでしょう。宗教家は,昼夜問わずの布教活動などによるでしょう。弁護士さん,飲食業,運転手の長時間勤務も,よく指摘されている通り。
編集者もキツイ。夜の11時ころメールをしてくる,馴染みの編集者さんの顔が思い浮かびます。教員の過労もよく言われていること。
業界別に上記のような図をつくって,注意を促すべきでしょう。さしあたり,上に掲げた医師の悲惨な図形をみて,医師会はどういう反応をすることか。「さもありなん」で笑い飛ばせることではありません。
2016年10月6日木曜日
若者の政治活動の国際比較
社会を変える合法的な手段は政治参画ですが,一般市民がなし得る術としては,選挙での投票と政治活動があります。
日本人,とりわけ日本の若者の投票率が低いことは,これまで何度もデータを示してきました。しからば,後者の政治活動のほうはどうでしょう。
一昨年くらいだったか,「デモ」の意味を知らない学生さんに出会い,ちょっと驚いた覚えがあります。社会問題への関心が強く,「社会を変えたい」と息巻いている男子でしたが,デモのような合法的な手段ではなく,過激な(非合法な)手段に訴えやしないかと,心配になりました。
政治活動にはデモの他に,署名活動,集会参加,政治家への陳情などいろいろありますが,代表的な政治活動の経験率を国ごとに知れるデータが,このほど公表されました。ISSP(国際社会調査プログラム)の「シティズンシップに関する意識調査」です。調査実施年は2014年で,34か国が対象となっています。
http://www.issp.org/page.php?pageId=4
ISSP調査は,ローデータも合わせて公開されるので,とてもありがたい。非常勤先の杏林大学で,上記調査のローデータをダウンロードしてきました。これを使えば,20代の若者だけを取り出した比較が可能です。ここにて,若者の政治活動経験の国際比較をやってみようと思います。
この調査では,8つの政治活動(political action)の経験を尋ねています。以下のような形式です。
この8つの設問への回答を合成し,政治活動経験のトータルなレベルを測る尺度を作りましょう。「1」という回答を4点,「2」を3点,「3」を2点,「4」を1点とし,それを合計します。全部「1」に〇をつけたバリバリの活動家は32点(4点×8=32点)となり,その対極は8点です(1点×8=8点)。ゆえに,調査対象者の政治活動レベルは,8~32点のスコアで測られます。
34か国全体でみると,上記の設問すべてに有効回答を寄せた20代の若者は6844人です。この6844人のスコア分布をとると,下表のようになります。
数の上では,最低の8点が最も多くなっています。1035人で,全体の15.1%です。この部分を除けば,おおむね真ん中辺りが厚いノーマル分布になっています。
この分布に依拠して,スコア低群,中群,高群の3つに対象者をグループ分けしましょう。3群の量がなるべく等しくなるようにするなら,8~12点を低群,13~17点を中群,18点以上を高群にするのがよいかと思います。こうすると,低群が35.5%,中群が33.2%,高群が31.3%というように,ほぼ3分になります。
この3群の分布は国によって大きく違っています。日本の20代(サンプルサイズ=111人)でいうと,低が61.3%,中が33.3%,高はたった5.4%です。選挙での投票率の低さから予想されることですが,若者の政治活動は活発でないようです。対してアメリカ(154人)は,低が14.9%,中が39.0%,高が46.1%と,高が最も多くなっています。日本と対照的です。
34か国を見渡すと,アメリカよりももっとスゴイ国があります。その布置図を描いてみましょう。横軸に低群,縦軸に高群の比率をとった座標上に,34の社会を配置してみました。下図をご覧ください。
左上にあるのは低群が少なく高群が多い,つまり若者の政治活動が活発な国です。右下はその逆で,日本はこのタイプに属しています。社会的統制が強いためか,旧共産圏の国ではもっと低迷のようです。
斜線は均等線で,このラインより上にある場合,低群より高群が多いことを意味します。欧米の主要国は軒並みこの線を超えてますね。若者の政治活動が最も活発なのは,北欧のスウェーデン。この国の高福祉は,国民の運動によって勝ち取られたものなのでしょうか。
予想されたことですが,日本では,若者の投票行動のみならず,政治活動も不活発であることが分かってしまいました。
しかるに,日本の若者は社会への関心は持っています。この内の思いが,合法的な手段でなく,非合法の手段で具現されるとなったら怖い。過激な暴動やテロ,ネットでの不法な振る舞いなどを目にするたびに,こういうことを思います。
社会への関心を熱弁する一方で,「デモ」の意味を知らない学生さんには驚きましたが,社会を変える合法手段としてこういうものがある,ということを政治教育でしっかり教える必要もあるのではないでしょうか。
今はネット社会で,ネット上で自分の意見表明をすることも可能です。この恩恵を政治活動のツールとして使えるようになると強い,しかし,ルールはある。この文明の発明品を合法的に使う「情報モラル」の指導の重要性は,学習指導要領でも言われています。
青年はいつの時代でも高い理想を掲げ,現実の社会がそれと隔たっている様を見ては失望し,社会を変えたいという炎を燃やすもの。それを正しい方向に仕向けられるなら社会は大きく変わる可能性があり,それを促すのは大人の役割です。
日本人,とりわけ日本の若者の投票率が低いことは,これまで何度もデータを示してきました。しからば,後者の政治活動のほうはどうでしょう。
一昨年くらいだったか,「デモ」の意味を知らない学生さんに出会い,ちょっと驚いた覚えがあります。社会問題への関心が強く,「社会を変えたい」と息巻いている男子でしたが,デモのような合法的な手段ではなく,過激な(非合法な)手段に訴えやしないかと,心配になりました。
政治活動にはデモの他に,署名活動,集会参加,政治家への陳情などいろいろありますが,代表的な政治活動の経験率を国ごとに知れるデータが,このほど公表されました。ISSP(国際社会調査プログラム)の「シティズンシップに関する意識調査」です。調査実施年は2014年で,34か国が対象となっています。
http://www.issp.org/page.php?pageId=4
ISSP調査は,ローデータも合わせて公開されるので,とてもありがたい。非常勤先の杏林大学で,上記調査のローデータをダウンロードしてきました。これを使えば,20代の若者だけを取り出した比較が可能です。ここにて,若者の政治活動経験の国際比較をやってみようと思います。
この調査では,8つの政治活動(political action)の経験を尋ねています。以下のような形式です。
この8つの設問への回答を合成し,政治活動経験のトータルなレベルを測る尺度を作りましょう。「1」という回答を4点,「2」を3点,「3」を2点,「4」を1点とし,それを合計します。全部「1」に〇をつけたバリバリの活動家は32点(4点×8=32点)となり,その対極は8点です(1点×8=8点)。ゆえに,調査対象者の政治活動レベルは,8~32点のスコアで測られます。
34か国全体でみると,上記の設問すべてに有効回答を寄せた20代の若者は6844人です。この6844人のスコア分布をとると,下表のようになります。
数の上では,最低の8点が最も多くなっています。1035人で,全体の15.1%です。この部分を除けば,おおむね真ん中辺りが厚いノーマル分布になっています。
この分布に依拠して,スコア低群,中群,高群の3つに対象者をグループ分けしましょう。3群の量がなるべく等しくなるようにするなら,8~12点を低群,13~17点を中群,18点以上を高群にするのがよいかと思います。こうすると,低群が35.5%,中群が33.2%,高群が31.3%というように,ほぼ3分になります。
この3群の分布は国によって大きく違っています。日本の20代(サンプルサイズ=111人)でいうと,低が61.3%,中が33.3%,高はたった5.4%です。選挙での投票率の低さから予想されることですが,若者の政治活動は活発でないようです。対してアメリカ(154人)は,低が14.9%,中が39.0%,高が46.1%と,高が最も多くなっています。日本と対照的です。
34か国を見渡すと,アメリカよりももっとスゴイ国があります。その布置図を描いてみましょう。横軸に低群,縦軸に高群の比率をとった座標上に,34の社会を配置してみました。下図をご覧ください。
左上にあるのは低群が少なく高群が多い,つまり若者の政治活動が活発な国です。右下はその逆で,日本はこのタイプに属しています。社会的統制が強いためか,旧共産圏の国ではもっと低迷のようです。
斜線は均等線で,このラインより上にある場合,低群より高群が多いことを意味します。欧米の主要国は軒並みこの線を超えてますね。若者の政治活動が最も活発なのは,北欧のスウェーデン。この国の高福祉は,国民の運動によって勝ち取られたものなのでしょうか。
予想されたことですが,日本では,若者の投票行動のみならず,政治活動も不活発であることが分かってしまいました。
しかるに,日本の若者は社会への関心は持っています。この内の思いが,合法的な手段でなく,非合法の手段で具現されるとなったら怖い。過激な暴動やテロ,ネットでの不法な振る舞いなどを目にするたびに,こういうことを思います。
社会への関心を熱弁する一方で,「デモ」の意味を知らない学生さんには驚きましたが,社会を変える合法手段としてこういうものがある,ということを政治教育でしっかり教える必要もあるのではないでしょうか。
今はネット社会で,ネット上で自分の意見表明をすることも可能です。この恩恵を政治活動のツールとして使えるようになると強い,しかし,ルールはある。この文明の発明品を合法的に使う「情報モラル」の指導の重要性は,学習指導要領でも言われています。
青年はいつの時代でも高い理想を掲げ,現実の社会がそれと隔たっている様を見ては失望し,社会を変えたいという炎を燃やすもの。それを正しい方向に仕向けられるなら社会は大きく変わる可能性があり,それを促すのは大人の役割です。
2016年10月4日火曜日
世代の軌跡を見る
先日,プレジデント・オンラインにて「聞いてはいけない,残酷すぎるデータ」という記事を公開しました。この記事は,よく読まれたそうです。
http://president.jp/articles/-/20248
私のエゴが入った「オモシロ・グラフ」を4つ紹介したのですが,最初の図1がウケたようです。男性の「時代×年齢」の自殺率を等高線グラフで表現したものですが,「初めて見た」「ユニークだ」という感想が多く寄せられています。
この図法だと,各時代の年齢層別の自殺率を,上から俯瞰(ふかん)することができます。どの時代のどの層がヤバかったか。それを一目瞭然で知れる仕掛けになっています。
このグラフのもう一つのミソは,世代の軌跡をナナメにたどれることです。「時代(5年間隔)×年齢層(5歳刻み)」の等高線上では,それぞれの世代が生きた軌跡は「ナナメ」のラインで表されます。
各世代のラインがどういう色のゾーンを通過しているかをみることで,「どれほど大変だった時代か」を視覚的に知ることもできます。異世代理解にも役立つのではないでしょうか。この点も「面白い」という感想を多くいただきました。
今回は,この図法で世代の軌跡を見れる典型例をご覧に入れようと思います。人口中の女性比率です。世の中には男性と女性がいますが,人口比の上では女性がちょっと多くなっています。女性のほうが事故などの死亡率が低く,かつ長生きするからです。
しかし若年層では男性のほうが多いですし,時代による変異もあります。世代とは,この両方の条件を掛け合わせた概念ですが,女性比率が際立って高い世代があります。終戦時(1945年)に20代だった世代です。生まれでいうと,1916~25年生まれ世代ということになります。
『国勢調査』のデータによると,1945年の20代の女性比率は6割を超えていました。戦争で男性が海外に出向いていたためですが,外地から男性が帰ってきた後でも,この世代の女性比率は高い水準にありました。戦争で命を落とした男性が多かったからです。
この様を,例の等高線グラフで可視化できます。「時代×年齢」のゾーンを,女性比率の水準(2%刻み)に依拠して塗り分けると下図のようになります。
黄色の帯が左上から右下に走っていますが,これが,1916~25年生まれ世代の軌跡です。終戦時に若き20代だった世代。戦死した男性が多かったため,この世代はその後一貫して,女性比率が54%を超えていました。
戦争の傷跡は,はっきり出るものですねえ。細かいデータがあればの話ですが,「人を信頼できない」「政府を信頼できない」といったメンタリティについても,同様の図柄になるかもしれません。これなども,戦争が人間形成に残す傷といえましょう。
まだデータを出していませんが,配偶関係が「生別」という女性の割合も,この世代で一貫して高いかもしれません。だとしたら,上図と同じようなナナメの帯ができることになります。
先日のプレジデント記事で紹介した等高線グラフは,社会の出来事が人間に及ぼすインパクトを可視化するのにも使えます。世代研究を志す学徒にとって,重要なツールといえるでしょう。
http://president.jp/articles/-/20248
私のエゴが入った「オモシロ・グラフ」を4つ紹介したのですが,最初の図1がウケたようです。男性の「時代×年齢」の自殺率を等高線グラフで表現したものですが,「初めて見た」「ユニークだ」という感想が多く寄せられています。
この図法だと,各時代の年齢層別の自殺率を,上から俯瞰(ふかん)することができます。どの時代のどの層がヤバかったか。それを一目瞭然で知れる仕掛けになっています。
このグラフのもう一つのミソは,世代の軌跡をナナメにたどれることです。「時代(5年間隔)×年齢層(5歳刻み)」の等高線上では,それぞれの世代が生きた軌跡は「ナナメ」のラインで表されます。
各世代のラインがどういう色のゾーンを通過しているかをみることで,「どれほど大変だった時代か」を視覚的に知ることもできます。異世代理解にも役立つのではないでしょうか。この点も「面白い」という感想を多くいただきました。
今回は,この図法で世代の軌跡を見れる典型例をご覧に入れようと思います。人口中の女性比率です。世の中には男性と女性がいますが,人口比の上では女性がちょっと多くなっています。女性のほうが事故などの死亡率が低く,かつ長生きするからです。
しかし若年層では男性のほうが多いですし,時代による変異もあります。世代とは,この両方の条件を掛け合わせた概念ですが,女性比率が際立って高い世代があります。終戦時(1945年)に20代だった世代です。生まれでいうと,1916~25年生まれ世代ということになります。
『国勢調査』のデータによると,1945年の20代の女性比率は6割を超えていました。戦争で男性が海外に出向いていたためですが,外地から男性が帰ってきた後でも,この世代の女性比率は高い水準にありました。戦争で命を落とした男性が多かったからです。
この様を,例の等高線グラフで可視化できます。「時代×年齢」のゾーンを,女性比率の水準(2%刻み)に依拠して塗り分けると下図のようになります。
黄色の帯が左上から右下に走っていますが,これが,1916~25年生まれ世代の軌跡です。終戦時に若き20代だった世代。戦死した男性が多かったため,この世代はその後一貫して,女性比率が54%を超えていました。
戦争の傷跡は,はっきり出るものですねえ。細かいデータがあればの話ですが,「人を信頼できない」「政府を信頼できない」といったメンタリティについても,同様の図柄になるかもしれません。これなども,戦争が人間形成に残す傷といえましょう。
まだデータを出していませんが,配偶関係が「生別」という女性の割合も,この世代で一貫して高いかもしれません。だとしたら,上図と同じようなナナメの帯ができることになります。
先日のプレジデント記事で紹介した等高線グラフは,社会の出来事が人間に及ぼすインパクトを可視化するのにも使えます。世代研究を志す学徒にとって,重要なツールといえるでしょう。
2016年10月1日土曜日
東京都内49市区の大卒人口率
地域別の平均世帯年収は,このブログで何度もデータを出しました。首都圏の市区町村の年収地図なんてのも,前に作りました。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/03/2013.html
各地域の住民の階層構成を測る指標ですが,経済面だけでなく,文化面も可視化したいもの。後者でよく使われるメジャーは,高学歴人口率です。大学進学率が50%超の今の日本では,大卒人口率を出すのがよいでしょう。
私は,アラフォー年代(35~44歳)の大卒人口率を,東京都内の49市区別に計算してみました。資料は,2010年の『国勢調査』です。西暦の下一桁が「0」の年では,住民の学歴も調査しています。このデータを使って,上記年齢層の学校卒業人口に占める,大学・大学院卒人口の比率を出してみました。以下では,大卒人口率ということにします。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020101.do?_toGL08020101_&tstatCode=000001039448&requestSender=search
ただ学歴はデリケートな項目のためか,不詳率(≒回答拒否率)が高くなっています。たとえば港区では,35~44歳の学校卒業人口のうち,学歴不詳者の割合が45.9%にもなっています。不詳がここまで多いと,この部分を分母に含めて率を計算すると,おかしなことになります。
そこで,学歴不詳者は分母から除外して,学校卒業人口の大卒人口率を計算することとします。下表は,計算表です。右端に,算出された大卒人口率(%)を掲げています。黄色は最高値,青色は最低値です。赤字は,上位5位を意味します。
同じ大都市の東京でも,アラフォーの大卒率は,地域によって大きく違っています。最高の61.0%(文京区)から最低の16.7%(武蔵村山市)までのレインヂです。
区部と市部の間に太い敷居線を入れましたが,東の区部で大卒率は高く,西の市部では低い「東高西低」の傾向が,数値の表だけからも朧げに分かります。
データをマップにすると,それはクリアーです。50%以上,40%台,40%未満,という3つの階級を設けて,49市区を塗り分けると,下図のようになります。
都心で色が濃く,周辺にいくほど薄くなる。シカゴ学派の「同心円理論」を想起させるような図柄ですね。アメリカなどと違い,日本では階層による「「棲み分け」(segregate)はないといいますが,最近の大都市・東京では,こういう構造です。
これは,35~44歳,つまり小学校高学年児童の親年代くらいの大卒率ですが,これがまた,高学年児童の学力と非常に強く相関している。
私は以前,都教委に情報公開申請し,2013年度の都の学力調査の地域別データを入手しました。このデータから,49市区の算数の平均正答率を取り出し,先ほど明らかにした,親世代の大卒人口率との相関をとると,以下のようになります。
親世代の大卒人口率が高い地域ほど,公立小学校5年生の算数の平均正答率が高し。相関係数は,+0.9266にもなります。非常に強い相関関係です。
平均世帯年収との相関係数は+0.7ほどですので,親世代の大卒人口率のほうが,子どもの学力と強く相関しています。経済面より,文化面の資本が重要ということでしょうね。ブルデューの文化的再生産理論が思い出されます。
教育社会学に馴染みのある人なら,誰もが知っている現実ですが,こういうデータを提示しようと考えたのは,昨日,今年度の全国学力調査の結果が公表されたことを受けてです。
結果が出て,各学校は自校の平均正答率が全国や県と比してどうかに一喜一憂し,出来がよければ教委から褒められ,逆なら叱られる。これから,こういう光景が全国の至る所でみられるでしょう。
しかるに,上図のような現実(リアル)があることを知るとき,ある学校(地域)の結果が芳しくないことの原因を,教員の指導力不足だけに帰すことができるでしょうか。まぎれもなく,子どもの学力は社会的規定を被っているのであり,そのことを考慮しないといけません。でないと,教員を疲弊させるだけです。
私は,学力調査の地域別の結果を読む際は,地域の社会経済条件を勘案すべきであると考えています。たとえば,平均年収,ここで出した大卒人口率,さらには一人親世帯率のような指標から各地域の学力の期待値を出し,実測値をそれと照合してみる。後者が前者より高いなら,「がんばっている」と評されるわけです。
前にやってみたところ,この観点でいうと,足立区などは「がんばっている」と評されます。平均正答率を素のままで見るだけでは分からないことです。この区では,「下」に手厚い実践をいろいろやっているようですが,そういう「草の根」の取組の成果といえましょう。敬意を払うべきです。
http://tmaita77.blogspot.jp/2014/07/23.html
まあ,上記の散布図でも,足立区は回帰直線よりかなり上にありますので,それはうかがえるのですが・・・。
今年度の全国学力テストの詳細結果が,これから続々と出ると思います。希望自治体には,学校別のデータも供されるでしょう。その際,ここでお見せしたような現実があることを踏まえ,懸命に奮闘している教員を追い詰めることのないようにしてほしいと思います。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/03/2013.html
各地域の住民の階層構成を測る指標ですが,経済面だけでなく,文化面も可視化したいもの。後者でよく使われるメジャーは,高学歴人口率です。大学進学率が50%超の今の日本では,大卒人口率を出すのがよいでしょう。
私は,アラフォー年代(35~44歳)の大卒人口率を,東京都内の49市区別に計算してみました。資料は,2010年の『国勢調査』です。西暦の下一桁が「0」の年では,住民の学歴も調査しています。このデータを使って,上記年齢層の学校卒業人口に占める,大学・大学院卒人口の比率を出してみました。以下では,大卒人口率ということにします。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020101.do?_toGL08020101_&tstatCode=000001039448&requestSender=search
ただ学歴はデリケートな項目のためか,不詳率(≒回答拒否率)が高くなっています。たとえば港区では,35~44歳の学校卒業人口のうち,学歴不詳者の割合が45.9%にもなっています。不詳がここまで多いと,この部分を分母に含めて率を計算すると,おかしなことになります。
そこで,学歴不詳者は分母から除外して,学校卒業人口の大卒人口率を計算することとします。下表は,計算表です。右端に,算出された大卒人口率(%)を掲げています。黄色は最高値,青色は最低値です。赤字は,上位5位を意味します。
同じ大都市の東京でも,アラフォーの大卒率は,地域によって大きく違っています。最高の61.0%(文京区)から最低の16.7%(武蔵村山市)までのレインヂです。
区部と市部の間に太い敷居線を入れましたが,東の区部で大卒率は高く,西の市部では低い「東高西低」の傾向が,数値の表だけからも朧げに分かります。
データをマップにすると,それはクリアーです。50%以上,40%台,40%未満,という3つの階級を設けて,49市区を塗り分けると,下図のようになります。
都心で色が濃く,周辺にいくほど薄くなる。シカゴ学派の「同心円理論」を想起させるような図柄ですね。アメリカなどと違い,日本では階層による「「棲み分け」(segregate)はないといいますが,最近の大都市・東京では,こういう構造です。
これは,35~44歳,つまり小学校高学年児童の親年代くらいの大卒率ですが,これがまた,高学年児童の学力と非常に強く相関している。
私は以前,都教委に情報公開申請し,2013年度の都の学力調査の地域別データを入手しました。このデータから,49市区の算数の平均正答率を取り出し,先ほど明らかにした,親世代の大卒人口率との相関をとると,以下のようになります。
親世代の大卒人口率が高い地域ほど,公立小学校5年生の算数の平均正答率が高し。相関係数は,+0.9266にもなります。非常に強い相関関係です。
平均世帯年収との相関係数は+0.7ほどですので,親世代の大卒人口率のほうが,子どもの学力と強く相関しています。経済面より,文化面の資本が重要ということでしょうね。ブルデューの文化的再生産理論が思い出されます。
教育社会学に馴染みのある人なら,誰もが知っている現実ですが,こういうデータを提示しようと考えたのは,昨日,今年度の全国学力調査の結果が公表されたことを受けてです。
結果が出て,各学校は自校の平均正答率が全国や県と比してどうかに一喜一憂し,出来がよければ教委から褒められ,逆なら叱られる。これから,こういう光景が全国の至る所でみられるでしょう。
しかるに,上図のような現実(リアル)があることを知るとき,ある学校(地域)の結果が芳しくないことの原因を,教員の指導力不足だけに帰すことができるでしょうか。まぎれもなく,子どもの学力は社会的規定を被っているのであり,そのことを考慮しないといけません。でないと,教員を疲弊させるだけです。
私は,学力調査の地域別の結果を読む際は,地域の社会経済条件を勘案すべきであると考えています。たとえば,平均年収,ここで出した大卒人口率,さらには一人親世帯率のような指標から各地域の学力の期待値を出し,実測値をそれと照合してみる。後者が前者より高いなら,「がんばっている」と評されるわけです。
前にやってみたところ,この観点でいうと,足立区などは「がんばっている」と評されます。平均正答率を素のままで見るだけでは分からないことです。この区では,「下」に手厚い実践をいろいろやっているようですが,そういう「草の根」の取組の成果といえましょう。敬意を払うべきです。
http://tmaita77.blogspot.jp/2014/07/23.html
まあ,上記の散布図でも,足立区は回帰直線よりかなり上にありますので,それはうかがえるのですが・・・。
今年度の全国学力テストの詳細結果が,これから続々と出ると思います。希望自治体には,学校別のデータも供されるでしょう。その際,ここでお見せしたような現実があることを踏まえ,懸命に奮闘している教員を追い詰めることのないようにしてほしいと思います。