電通の若手女性社員が,過労を苦に自殺する事件が起きました。月間の残業時間は100時間にも及んでいたとのこと。
この件について,私が知る大学の某教授が「残業100時間くらいで自殺するなんて情けない」とか,馬鹿げたことをぬかしていますが,情けないのはご自身であることを自覚すべきでしょう。
http://matome.naver.jp/odai/2147589075970863601
私はこういう事件の報道に接すると,同じような悲劇に陥りかねない人間が,統計でみてどれくらいいるのかを知りたくなります。言葉がよくないかもしれませんが,予備軍量の見積もりです。
総務省の『就業構造基本調査』では,有業者の週間就業時間と年間就業日数を集計しています。マックスのカテゴリーは,前者が週75時間以上,後者が年間300日以上です。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
年間300日以上ということは,月25日以上勤務,週間にすると6日以上です。法定の週当たりの勤務時間は,1日8時間×6日=48時間。週75時間以上ということは,これを27時間以上オーバーしており,月当たりの超過勤務(残業)時間は,27×4週=108時間以上に及ぶことになります。
統計上は,「週75時間以上」かつ「年間300日以上」働いている労働者が,冒頭の電通社員に匹敵する過労自殺予備軍と見立てることができそうです。
2012年の『就業構造基本調査』によると,年間200日以上の規則的就業をしている,15歳以上の正規職員数は3101万600人。このうち,「週75時間以上」と「年間300日以上」のマックスカテゴリーに該当するのは,以下のようになっています。( )内は,全数に対する割合です。
週75時間以上 ・・・ 815,600人 (2.6%)
年間300日以上 ・・・ 2,984,500人 (9.6%)
両方に該当 ・・・ 386,900人 (1.2%)
過労自殺の予備軍は,両方に該当する38万6900人ほどと見積もられます。私が住んでいる多摩市の人口の3倍近くです。正社員全体に占める割合は1.2%,およそ83人に1人なり。
上記のデータを面積図で表してみましょう。青色の「週75時間以上」と赤色の「年間300日以上」の正方形が重なったブラックの部分が,過労自殺予備軍ということになります。
なお,危険なブラックの比重は,職業によってかなり違っています。激務といわれる勤務医(歯科医師,獣医は除く)についても,同じ図をつくってみました。左側は正社員全体,右側は医師のグラフです。
「週75時間以上」&「年間300日以上」の過労自殺予備軍は,正規職員全体では1.2%ですが,勤務医では14.5%,7人に1人にもなっています。巷で言われていることが可視化されていて,背筋が凍る思いがします。
他の職業についても同じ値を出してみました。過労自殺予備軍の比率が高い職業を挙げてみましょう。上位10位です。
宗教家 ・・・ 15.87%
医師 ・・・ 14.47%
法務従事者 ・・・ 9.00%
飲食物調理従事者 ・・・ 5.48%
漁業従事者 ・・・ 5.45%
接客・給仕職業従事者 ・・・ 4.09%
自動車運転従事者 ・・・ 3.77%
著述家,記者,編集者 ・・・ 3.41%
生活衛生サービス職業従事者 ・・・ 3.15%
教員 ・・・ 3.11%
どうでしょう。宗教家は,昼夜問わずの布教活動などによるでしょう。弁護士さん,飲食業,運転手の長時間勤務も,よく指摘されている通り。
編集者もキツイ。夜の11時ころメールをしてくる,馴染みの編集者さんの顔が思い浮かびます。教員の過労もよく言われていること。
業界別に上記のような図をつくって,注意を促すべきでしょう。さしあたり,上に掲げた医師の悲惨な図形をみて,医師会はどういう反応をすることか。「さもありなん」で笑い飛ばせることではありません。