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2016年11月21日月曜日

小学生のプアとリッチの比較

 11月5日の記事では,中年男性のプアとリッチで,属性,読書嗜好,自己イメージなどがどう違うかを比較しました。どの項目も大きな差があり,たとえば「今の生活に満足している」の割合は,プアが21.4%に対し,リッチは62.1%です。

 しからば,子どもではどうか。自我が未熟で稼得能力のない子どもの場合,生活行動や意識は家庭環境に強く規定されるとみられます。

 たとえば,勉強の得意度(自己評定)の一つをとっても,家庭の年収と非常に強く相関しています。国立青少年教育振興機構の『青少年の体験活動等に関する実態調査』(2014年度)では,小4~小6の対象児童に限り,家庭(世帯)の年収も把握しています。保護者調査票の問14です。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/107/

 これを,勉強の得意度(本人回答)とクロスさせると,結果は下図のようになります。年収群ごとの回答分布です。どの群も,サンプル数は十分です。ローデータをもとに作成したグラフであることを申し添えます。


 年収200万未満のプアでは,「とても思う」の割合は10.0%ですが,1200万以上のリッチでは32.8%います。前者は10人に1人ですが,後者は3人に1人。逆に,「まったく思わない」と答えた勉強ギライの児童は,年収が低い層ほど比率が高くなっています。

 ツイッターでも発信したグラフですが,ここまで明瞭な傾向が出ることに驚かされます。

 基本的な生活習慣や自己イメージについても,明瞭な階層差がみられます。小学生調査票の問5~問9の項目について,年収200万未満のプアと1200万以上のリッチの肯定率を比べてみましょう。

 最も強い肯定の回答割合を拾っています。問5は「必ずしている」,問6は「よくある」,問7は「とてもよく当てはまる」,問8は「とても思う」の回答比率です。問9は,得意な教科として選択した児童の割合をさします。無回答を除いた,有効回答ベースの比率です。

 繰り返しますが,ローデータから独自に計算した数値です。


 赤字は,リッチの回答比率がプアよりも1.5倍以上高い項目です。2倍を超える項目は,黄色マークも付しています。

 差が最も大きいのは,先ほどみた勉強の得意度です。リッチはプアの3.28倍! その次は,政治や選挙への関心となっています(プア9.0%,リッチ22.4%)。家庭で政治の話をするか,新聞を購読しているかなどによるでしょう。

 自発性や自尊心の階層格差も大きいですね。後者は,家で褒められる頻度の差にもよると思われます。

 教科の得意度は,実技教科は差がありませんが,主要教科には階層差があります。最も大きいのは算数で,プアは27.4%ですが,リッチは55.8%です。算数は高学年になると内容が難しくなりますが,家庭でサポートが得られるか,通塾の費用が賄えるかなどの条件が効いていると思われます。

 学力の階層格差がよくいわれますが,それが最も顕著なのは算数。この教科では念入りなテコ入れが求められるところです。補充的な指導など,個に応じた指導が必要でしょう。

 「人の話を聞く」という項目の肯定率の差も大きいなあ。社会階層による言語コードの違いを論じた,バーンスティンの言語社会化論が想起されます。労働者階級の子弟は,(即物的でない)抽象的な話を長く聞かされることに慣れていない。まあ私も,人の話を途中で遮る悪癖がありますけど。

 友だちの多さも,プアとリッチで違っています。これなどは,スクールカースト論に通じますね。ちなみに,この傾向は女子で顕著です。交際におカネがかかるためでしょうか。
https://twitter.com/tmaita77/status/800579467995271168

 あと一点,道徳意識(行為)にも階層差があることに注意。

 教育格差の問題がいわれますが,学力だけでなく,自我や道徳志向にも,家庭の経済力とリンクした階層差が出ている。対策に際しては,どの部分の格差が深刻なのかを突き止め,資源をそこに傾斜配分をすることも求められるでしょう。

 今回みたのは小学校4~6年生のデータですが,中高生になるとどうなるか。赤字や黄色マークが減るか,逆に増えるか。こういう点も,教育の効果を測る重要な視点です。