ページ

2017年2月2日木曜日

教員と全労働者の勤務時間差の国際比較

 日本の教員の勤務時間が国際的にみて異常に長いことは,何度も示されてきました。このブログでも,その様を可視化したグラフを繰り返し提示しています。

 しかるに,「それはどの業種も同じだよ」という声もよく聞かれます。日本人の働き過ぎは,どの業種も同じ。教員に限ったことじゃない。平たく言えば,こういうことです。

 なるほど。確かにそういう気がしないではないですが,データでみるとどうなのでしょう。教員の勤務時間は全労働者に比してどうなのか。差の程度は,他国に比して大きいのか,それとも小さいのか。2つの国際調査のローデータから,この問いに答えるデータを作ってみました。今回は,それをご覧に入れようと思います。

 私は,ISSPが2009年に実施した「社会的不平等に関する意識調査」のデータをもとに,男性のフルタイム労働者について,①週間の平均勤務時間と,②週60時間以上勤務している者の比率を計算しました。また,OECDの「TALIS 2013」のデータから,フルタイム勤務の男性中学校教員について,同じ2つの指標を出してみました。
http://www.issp.org/page.php?pageId=4
http://www.oecd.org/edu/school/talis.htm

 性別と勤務形態を揃えた比較です。本当は年齢も統制したいところですが,それは叶いませんでした。TALIS調査は十分なサンプルがあるのですが,ISSP調査はそうではないからです。

 日本の数値を示すと,週間の平均勤務時間は,男性の全労働者が52.1時間で,中学校の男性教員は55.4時間となっています。教員のほうが長いではありませんか。週60時間以上の長時間勤務者の割合は,全労働者が28.5%,教員が50.6%と,差がもっと大きくなっています。

 他の職業と比しても,教員のブラック度は際立っていますねえ。なにせ,週60時間以上の過労死レベルの勤務者が,全体の半分もいるのですから。

 ちなみに「全労働者 < 教員」という社会は,国際的にみたら珍しい部類です。下表は,教員と全労働者の勤務時間の差を,国ごとにまとめたものです。2つの指標の双方が分かる,23か国を観察対象にしています。


 どうでしょう。日本の勤務時間の長さが際立っていることはさておき,教員と全労働者の差という点でみても,わが国が特異であることが知られます。

 右端は,教員と全労働者の差ですが,多くの国でマイナス,つまり教員のほうが勤務時間が短い,ということです。日本の長時間勤務率は,50.6%という絶対水準もさることながら,国内の全労働者と比しても異常というほかありません。

 上表の数値を,グラフにしてみましょう。教員の勤務時間(週平均×長時間勤務率)の散布図は,昨日ツイッターで発信しました。日本の「ぶっ飛び」ぶりが明らかで,見てくださる方が多いようです。
https://twitter.com/tmaita77/status/826773909118652416

 同じグラフというのは芸がないので,教員と全労働者の「」の程度が視覚的に分かるものにしてみましょう。横軸に週平均の勤務時間,縦軸に長時間勤務者率をとった座標上に,主要先進国の全労働者と教員のドットを配置し,線でつないでみました。

 ●は中学校教員,〇は全労働者のドットです。


 グラフの見方は,お分かりですね。2つのドットをつなぐ線分が長いほど,教員と全労働者の差が大きいことを示唆します。

 線分が最も長いのは韓国ですが,差の向きが日本とは違っていて,教員の労働時間のほうが格段に短くなっています。この儒教国では,教員の社会的地位が高いのかしら。

 右肩上がり(教員 > 全労働者)の方向での差は,日本で明らかに大きくなっています。主要国だけでなく,最初の表の全ての国でみても同じです。

 日本の教員の勤務時間は長く,国内の全労働者と比してもそうである。国際比較,国内比較の双方において,教員の悲惨さが浮き彫りになるわけです。

 日本の教員の皆さん。「生徒のためなら・・・」と,こういう異常な状態を受け入れるべからず。先生ご自身のみならず,未来の労働者である生徒たちのためにもです。最高レベルのブラック労働のモデルを,生徒に見せてはいけません。ブラック労働を厭わぬ精神を植え付けてしまうことになります。

 学校において,こういうよからぬ「隠れたカリキュラム」がないか,研究者は現場に足を踏み入れて明らかにする必要もあるでしょう。