今月の半ばに,2016年度の文科省『学校教員統計』の中間集計結果が公表されました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172
教員の個人調査と異動調査に分かれていて,後者では,調査の前年度間に離職した教員の数を知ることができます。2016年調査では,2015年度間の離職者数が調べられているわけです。
離職といってもいろいろな理由があり,数としては「定年」によるものが最多です。ほか,理由のカテゴリーとしては,病気,死亡,転職,大学等入学,家庭の事情,職務上の問題,その他,があります。
このうちの「病気」による離職者数は,教職危機の指標として使えると私は考えています。精神を病んで学校を去る教員が増えているといいますが,そういうケースはこの中に含まれます,本資料に載っている病気離職者数の半分以上は精神疾患によるものです。
上記の中間報告によると,2015年度の公立小学校本務教員の病気離職者は540人となっています。同年5月時点の公立小学校本務教員数は41万397人(『学校基本調査』による)。よって,2015年度の公立小学校教員の病気離職率は,ベース1万人あたり13.2人となります。この値は,病気離職率とみなせるものです。
『学校教員統計』と『学校基本調査』のバックナンバーをたどることで,教員の病気離職率の長期推移を出せます。下表は,公立小・中・高の教員の病気離職率の変化を明らかにしたものです。
『学校教員統計』は3年間隔なので,データも3年刻みになっています。
分子・分母の数も掲げていますので,この表は参考資料としてご覧ください。小・中・高の病気離職率のカーブを描くと,下図のようになります。
80年代初頭は学校が荒れたためか,教員の病気離職率は高い水準にありました(とくに中学校)。その後,管理教育の徹底により荒れが鎮静化したためか,離職率は下がり,小・中・高とも1997年度にボトムになります。
しかし今世紀以降,病気離職率は上昇に転じます。急な右上がりです。21世紀になって,矢継ぎ早に大きな教育改革が実施されました。06年の教育基本法改正,07年の全国学力テスト再開,主観教諭・副校長の職階導入(組織の官僚制化の高まり),09年の教員免許更新制導入,外国語教育の早期化…。
短期間に,これほど多くの改革がなされたことは,かつてなかったと思われます。上図に描かれた病気離職率の急上昇は,現場がそれに翻弄されていることの表れかもしれません。だとしたら,何とも皮肉なことです。
ちなみに教員の病気離職率は,年齢層別に出すこともできます。先日公表された2016年度調査の中間報告では,このデータはまだ出ていませんが,2012年度のデータで私が計算したところ,入職して間もない20代前半と,定年直前の50代後半が高い「U字カーブ」になっています(拙著『データで読む・教育の論点』晶文社,2017年,260ページ)。
http://www.shobunsha.co.jp/?p=4364
危機は,教職生活の始めと終わりにあります。前者は,若手を手取り足取りサポートできない,今の職場環境によるでしょう。後者は,自分たちが入職した頃とはすっかり変わり果てた今の学校に対する,年輩教員の戸惑いではないでしょうか。詳細は,上記の拙著をお読みください。
2015年度の年齢層別の病気離職率カーブは,どういう型になっているか。もしかしたら,40代の中堅層が高い型になっているかもしれません。育児・介護のダブルケアを強いられる,中年女性教員の離職率の高まりによってです。
上記のグラフによると,教員の離職率は最近は下がっています(高校は上昇が止まらず)。しかし,80年代の学校が荒れた時代よりも高し。過去35年ほどのトレンド観察ですが,現在の教員は,危機的な状況に置かれているといってよいでしょう。
「働き方改革」を支持するエビデンスは,こういうところにも見受けられます。