子どもの貧困が社会問題化して久しく,最近では18歳未満の子どもの6人に1人が貧困世帯に属するという計算です。貧困世帯とは,年収が全世帯の中央値の半分に満たない世帯をいいます。
2月22日の記事でみたように,親世代の収入が減っていることもあるでしょうが,子どもの貧困率が上がっている一番のファクターは,一人親世帯が増えていることではないでしょうか。
一人親世帯の数は,基幹統計の『国勢調査』から知ることができます。定義によって数は変わりますが,「18歳未満の子がいる世帯で,男親ないしは女親と子だけからなる世帯」としましょう。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?page=1&toukei=00200521&result_page=1
これによると一人親世帯の数は,1990年では93万3648世帯でしたが,2015年では120万9964世帯に増えています。少子化により,18歳未満の子がいる世帯が減っているのとは対照的です。結果,子がいる世帯全体に占める割合は,6.0%から10.5%に上昇しています。最近では,子がいる世帯の1割は一人親世帯であると。
同じやり方で,一人親世帯の率を都道府県別に計算すると,以下の表のようになります。18歳未満の子がいる一般世帯のうち,上記の定義の一人親世帯が何%かです。
2015年の最高値は沖縄で15.9%,18歳未満の子がいる世帯の7分の1が一人親世帯ということになります。
この四半世紀の変化をみると,どの県でも値が増加しています。8つの県で,率が倍以上に増えています(右端の倍率)。一人親世帯(大半が母子世帯)の所得は二人親世帯に比して著しく低いので,貧困状態の子どもが全国的に増えていることの可視化ともいえましょう。
赤字は10%以上の数値です。1990年では沖縄だけでしたが,2015年では25県,半数以上の県が該当します。京都以西の西日本の県は,島根以外全部赤字です。地図にすると「西高東低」の模様がクリアーです。↓
https://twitter.com/tmaita77/status/973519623776714752
私の推測ですが,一人親世帯になったことによる移住(Uターン)があるのかもしれませんね。実家の親元の近くにUターンする,あるいはシングルマザーの優遇政策をとっている自治体に移住するなど。島根県の浜田市は,介護職に就いてもらうことを条件に,母子世帯への支援を手厚くしているそうです。
『国勢調査』では,同じ定義の一人親世帯率を市区町村別に出すこともできます。18歳未満の子がいる一般世帯数(分母),うち父ないしは母と子だけからなる世帯(分子)とも,市区町村別の数を知ることが可能です。
私は,首都圏の1都3県(東京,埼玉,千葉,神奈川)の市区町村別の一人親世帯率を出してみました。1990年は285,2015年は242市区町村のデータです。政令指定都市は,市内の区ごとに率を計算しました。
200以上の地域の一人親世帯率を全部示すことはできませんので,1%刻みの度数分布表をご覧いただきましょう。
この25年間で,分布が高い方にスライドしています。最頻階級(Mode)は,1990年は4%台でしたが,2015年は9%台です。2015年では,一人親世帯率10%以上の市区町村が全体の3割を占めています。
表では,5%未満,5%以上10%未満,10%以上の3つに区切った線を引いていますが,この階級区分を適用して,首都圏の市区町村を塗り分けた地図にしたらどうでしょう。
「変わっているなあ」という感想以外,何も出てきません。2015年では地図の模様が濃くなり,一人親世帯率が10%超える地域(濃い赤色)も出てきています。上述のとおり,全体の3分の1ほどです。
わが国では,二人親制度を前提に諸制度が組み立てられています。それが証拠に,子どもの貧困率の国際比較をすると,一人親世帯の貧困率が飛び抜けて高くなっています。世界一です。一人親世帯に限ると,親が働いていない世帯より,親が働いている世帯の貧困率が高いという,何とも奇異な現象すら見られます。シングルの親が就労しても,生活扶助レベルの収入すら得られない,ということです。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/07/post-8063.php
2020年,2030年には,上記の地図の模様はますます濃くなることでしょう。そうなったとき,二人親世帯を前提にした諸制度は機能障害(不全)を起こすに違いありません。
親が未婚の一人親世帯が増えてくることにも注意しないといけません。未婚の一人親は「寡婦(夫)」ではないため,各種の支援の対象から外されているのですが,今年の6月以降,政令を改正することにより,保育料の軽減や職業訓練の給付金支給などは受けられることになります。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201802/CK2018020402000114.html
ただし,所得税の控除については,税法上の「寡婦(夫)」の定義を変える必要があるため,適用は見送られるとのこと。政府関係者は「寡婦に未婚を加えると,結婚して出産するという伝統的な家族観の変化を主導する話になりかねない」(上記,東京新聞記事)と言いますが,「伝統的な家族観」が時代にそぐわなくなっていることを認識すべきです。
「旦那は要らぬが子どもは欲しい」。こういう考えの若い女性は結構いるようで,仮にこの人たちが出産に踏み切った場合,わが国の出生数は団塊ジュニアの頃に回帰すると期待されます。フランスやスウェーデンでは,生まれてくる子どもの半分以上が婚外子ですが,未婚のシングルでも子育てできるようになれば,悩ましい少子化問題も快方に向かうかもしれません。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/07/post-7974_1.php
一人親世帯の増加をデータで見ましたが,このような家族変化は,時代遅れの「伝統的な家族観」を覆すことを求めています。それができるかどうかは,子どもの貧困解消だけでなく,少子化という根源問題の行方にも関わると思うのですが,どうでしょうか。