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2018年3月25日日曜日

父母の就業タイプと性役割意識の関連

 先週の月曜(19日),日経DUALの羽生祥子編集長,片野温副編集長,福本千秋記者とお会いしました。横須賀中央駅までお出ましいただき,行きつけの南蛮茶屋で会合しました。人と滅多に会わない私にとって,楽しい時間でした(先方は逆だったかもしれませんが)。

 写真は,その時にいただいた「日経DUAL」のパンフレットです。
http://dual.nikkei.co.jp/


 共働きのママ・パパに役立つ情報を発信しようという,しっかりとした理念を持ったネットメディアです。共働き化が進む中,「グッジョブ!」と親指を立てたくなる,いい仕事をしているなあと思います。

 2013年12月創刊ですので,歴史は4年とちょっと。人間にたとえると4歳の幼児,これからが楽しみなメディアです。今年12月の5周年に向け,大きな改革も予定しているとのこと。

 私もこのウェブ誌には長く連載を書かせていただいてますが,教育社会学の観点からして興味が持たれるのは,父母の就業タイプによって,子どもの育ちがどう違うかです。そうですねえ。親が共働きかどうかで,子どもの性別役割観がどう異なるか,という問題を立ててみましょうか。

 内閣府の『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』(2013年)では,13~29歳の若者に,父と母の就業状態を問うています(F14,F15)。個票データを使って,2つの設問への回答を組み合わせることで,3つのタイプを取り出してみます。

 父がフルタイム就業・母が専業主婦
 父がフルタイム就業・母がパート就業
 父母ともフルタイム就業

 他にもタイプは析出できますが,ひとまずこの3タイプの構成をとってみましょう。下図は,7か国の13~29歳の若者の回答分布図です。「瑞」は,スウェーデンを指します。


 予想通りといいますか,日韓と欧米諸国の間に断層がありますね。日本は「父フル・母パート」,韓国では伝統的な「父フル・母主婦」が最多ですが,欧米の5か国では「父母ともフル」がマジョリティです。スウェーデンでは,この回答が8割を占めています。

 父母ともフルタイムという若者が最も少ないのは日本で,2割ほどしかいません。

 女性の社会進出レベルの差がくっきり表れていますが,ここでの関心は,3つのタイプによって,子どもの性役割意識がどう違うかです。本調査のQ15にて,性役割分業への意見が尋ねられています。

 Q15-1)男は外で働き,女は家庭を守るべきだ。
 Q15-2)子どもが小さいときは,子どもの世話をするのは,母親でないといけない。

 この2項目に「賛成」と答えた人の割合を,親の就業タイプの3群ごとに計算してみました。下図は,日本の若者の結果をグラフで示したものです。選択肢は「賛成」「反対」「わからない」ですが,「わからない」という曖昧な回答は,分母から除いて率を出しています。

 また父母のモデルの影響は男女で異なると考え,男女で分けて3群の差を見てみます。


 両項目とも,賛成の割合は「父フル・母主婦 > 父フル・母パート > 父母ともフル」という,右下がりになっています。伝統的家族で育った子どもほど性別役割分業観が強い,ということです。

 この傾向は,男子よりも女子でクリアーです。「男は仕事,女は家庭」の賛成率は,父府・母主婦の伝統家族の子は42.3%ですが,父母ともフルの子は17.5%と,差が大きくなっています。「幼子の世話は母親がすべし」の賛成率も,タイプ間の落差は男子より女子で大きくなっています。

 親のモデルの影響は,男子より女子で強いようですね。女子は母親を役割モデルにするといいますが(T.パーソンズ),働く母親を見て育った子は,偏狭な性役割意識が低い傾向は解せます。

 ちなみに将来展望も違っていて,該当設問(Q16)とのクロスをとると,「仕事と家庭生活をともに優先したい」と考える女子は,父フル・母主婦では25.7%,父フル・母パートでは38.9%,父母ともフルでは45.5%,となっています。因果関係かどうかは分かりませんが,こういう関連があることにも注意していいでしょう。親のモデルの影響,侮りがたし。

 しかし,父母ともフルの共働き家庭の子でも,性役割分業を支持している子の割合が結構高いことに驚かれるかもしれません。家庭でモデルを見せるだけでは不十分で,学校教育における意図的な働きかけ(ジェンダーフリー教育)も必要ということでしょう。

 子が3歳になるまでは母親がつきっきりで育児をしないと,よからぬことが起きる。いわゆる「3歳児神話」ですが,これが怪しいことはデータでも示されます。たとえば,「親から愛されている」と感じる子の割合は,父母ともフルタイム就業の家庭で高いのです。
http://dual.nikkei.co.jp/article/084/95/?P=3

 最初の図からうかがえるように,日本ではまだまだ共働き家庭が増える余地があります。というか,そうでないと社会が回らぬ事態になっています。母親も働きに出ると,子の育ちに悪影響が出やしないか。後ろ髪を引かれる思いで仕事に出るママさんも多いと聞きますが,そんなことはありますまい。

 それは,日経デュアルの記事をお読みいただくと分かるかと思います。膨大なコンテンツですので,どれを読んだらいいか見当がつかぬ人は,昨年12月に出た紙雑誌『日経DUAL Special!』を手にとられるとよいかと存じます。120ページという限られた分量の中で,「これだけは読んで!」という情報が凝縮されています。おススメです。
http://ec.nikkeibp.co.jp/item/books/265100.html