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2018年6月25日月曜日

教員志望者の学力

 「教育は人なり」といいますが,学校教育の成否は,教員の専門力量による所が大です。どの自治体も,優秀な人材を採用したいと願っています。

 未来を担う若き青少年のうち,教員を志望する者はどれくらいいるのでしょうか。OECDの「PISA 2015」の質問紙調査によると,日本の15歳生徒の教員志望率は6.7%となっています(OECD「Effective Teacher Policies」2018年)。30歳の時点で,この仕事に就いていたいと答えた生徒の比率です。
http://www.oecd.org/education/effective-teacher-policies-9789264301603-en.htm

 同世代の15人に1人ですが,この群の学力水準は高く,数学的リテラシーの平均点は565点で,教員以外の専門職志望者の552点よりも高くなっています。13点の差です(上記資料)。

 15歳生徒の教員志望率と,教員志望者の学力の相対水準。ゴチにした2つの指標をとった座標上に,「PISA 2015」に参加の65か国を配置すると,以下のような図になります。


 横軸をみると,日本の生徒の教員志望率(6.7%)は,真ん中よりやや高いというところです。トップは,アルジェリアの23.0%なり。

 教員志望率は発展途上国で高い傾向にあり,全ての国で「男子 < 女子」です。教員は,女性が自立を図るための職業とみなされているのでしょう。

 縦軸は,教員志望者の数学的リテラシーの平均点が,他の専門職志望者に比して何点高いかです。これによると,前者の学力が後者に劣る国が多くなっています(値がマイナス)。教員の待遇があまりよくないので,優秀な人材は他の専門職に流れてしまうのだと思われます。

 しかるに日本は違うようで,学力が優れている生徒を教員に引き寄せるのに成功しています。その度合いは,世界でトップです。その次はお隣の韓国。両国とも,国際学力調査ではいつも上位に食い込むのですが,教員の高いパフォーマンス故とも考えられますね。

 韓国は教員の社会的地位が高く,教員給与も民間に比して高いのですが,日本はさにあらず。にもかかわらず,優秀な生徒を引き寄せることができているのですが,教員という崇高な仕事への憧れ,やりがいに魅せられてのことでしょうか。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/04/post-4996.php

 雇う側にすれば何とも都合のいい構造になっていますが,これがいつまで続くかは未知数です。若者の「**離れ」ではないですが,「教員離れ」が起きているとも聞きます。教員の劣悪な労働条件が世に知れ渡っていますしね。

 事実,教員採用試験の競争率も低下しています。私の頃と最近のデータを比べてみましょうか。2000年度(99年夏実施)と2017年度(16年夏実施)の,小学校の試験のデータです。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/senkou/1401021.htm


 受験者は4万6156人から5万2161人に増えています。大学進学率の上昇や,教職課程を設置する私立大学の増加にもよるでしょう。

 しかし増加は主に都市部で,数としては,受験者が減っている県が多くなっています(27県,赤字)。私の郷里の鹿児島では,半分以下に減じています。北海道,青森,秋田,群馬,福井もそうです(ゴチ赤字)。それでいて,採用者は増えているものですから,どの県でも競争率は下がっています(鹿児島だけは別)。

 2000年度試験では5.1~54.2倍の分布幅でしたが,2017年度試験は2.3~8.9倍です。私の頃は,38の県で競争率が10倍を超えていましたが(和歌山は54倍!),最近ではそういう県は皆無で,5倍を超える県も4県しかありません。最低の広島は2.3倍で,2人に1人が通る状況ですが,採用担当者もさぞ頭を抱えていることでしょう。

 ツイッターでも発信しましたが,両年度の競争率の地図を載せておきます。


 採用試験の競争率低下は,採用者の増加による所が大きいですが,受験者の減少も寄与しています。現在は受験者を増やしている都市部も,こうした動きに侵食されないという保証はありません。

 公務員試験,教員採用試験の競争率は,民間の景気動向と逆の動きをするのはよく知られていますが,近年の競争率低下を,そのせいばかりにしてはいけないでしょう。「教員離れ」が起きている可能性も,疑ってみる必要があるかと思います。

 最初のグラフで分かるように,日本は,優秀な若者を教員に引き寄せるのに成功しています。労働条件や待遇がよくないにもかかわらず,です。高度な人材を安く使える,個々の教員の熱意ややりがい感情に寄りかかっているわけですが,こういう虫のいいやり方も,綻びを見せ始めてきました。

 教員の専門職性を明瞭にし,働き方改革を断行しなければ,他国と同様,優秀な人材は他の専門職に流れてしまうでしょう。今の日本の状況を正常とみるべからず。最初の国際布置図によると,その逆であると思います。