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2018年7月20日金曜日

家賃の中央値の変化

 前々回の記事では,40代前半男性の所得中央値を出しました。1992年は524万円,2017年は472万円で,50万円以上減っています。都道府県別にみると,500万円を超えるのは,2017年ではたった5県しかありません。「失われた25年」の表れです。

 このように収入はかなり減っているのですが,支出のほうはどうでしょう。食費や遊興費などは節約もできますが,税金や保険料,住居費などはそうはいきません。毎月定額払わないといけない固定支出です。

 今回は,生活の基盤である「住まい」を維持するための費用を見てみようと思います。住居は持家と借家(賃貸)に分かれ,前者では住宅ローン,後者では家賃という固定費用がかかります。後者の家賃については,総務省『住宅土地統計』にて詳細なデータを得られます。

 前々回の所得と同じく,90年代初頭の頃と最近のデータを比べてみましょう。原資料には借家世帯の平均家賃月額が出ていますが,代表値としての精度(信頼度)が高い中央値を算出します。まずは,借家世帯の家賃月額の分布を整理することから始めましょう。


 家賃が分かる借家世帯は,1993年は1550万世帯,2013年は1797万世帯です。持家が「負動産」になるという認識が広まっているためか,20年前に比して借家に住む世帯が増えています。

 真ん中の相対度数(%)をみると,分布が高いほうにシフトしています。家賃4万円未満の借家に住んでいる世帯は,1993年では50.2%と半分を超えていましたが,2013年では18.4%(5分の1)です。最頻階級(Mode)も,3万円台から5万円台に移っています。

 右端の累積相対度数をみると,求めようとしている中央値(Median)は,1993年は3万円台,2013年は5万円台の階級に含まれていることが分かります。中央値は,全体を高い順に並べた時ちょうど真ん中にくる値,累積相対度数が50ジャストの値です。

 按分比例を使って,この値を推し量りましょう。本ブログをずっと読まれている方は,もう慣れっこですよね。

1993年:
 按分比=(50.0-33.2)/(50.2-33.2)=0.987
 中央値=3万円+(1万円×0.987)=3.99万円

2013年:
 按分比=(50.0-46.1)/(62.9-46.1)=0.233
 中央値=5万円+(1万円×0.233)=5.23万円

 借家世帯の家賃の中央値は,1993年は3.99万円,2013年は5.23万円と見積もられます。この20年間で,フツーの借家世帯の家賃は1万2000円ほど上がっています。所得は下がる一方で,家賃という基礎経費は上がる。なるほど,多くの人が生活の逼迫を感じるのは道理です。

 言わずもがな,家賃は地域によって大きく違っています。地方より都会で家賃が高いのは,誰だって知っています。『住宅土地統計』には,借家世帯の家賃分布が都道府県別に出ています。上記と同じやり方にて,47都道府県の借家世帯の家賃月額の中央値を計算してみました。下の表は,高い順に配列したものです。


 どの県でも家賃中央値は上がっています。両年のランキング表を「鳥の目」で眺めてみると,列島・家賃高騰化とでも言い得る現象が明らかです。1993年では家賃中央値4万円を超えるのは7県でしたが,2013年では40県です。5万円を超える県も,3県から10県に増えています。

 2013年では東京は7.15万円,神奈川は6.64万円。中央値でコレです。申すまでもないですが,私のアパートの家賃はこれよりもずっと安くなっています。神奈川県内でも,横須賀市は安し。

 上記の都道府県データを地図にしない手はありますまい。ドラスティックな変化を浮き彫りにすべく,4万円以上の県に色を付けた簡素なマップにしましょう。


 前々回の所得マップは薄くなっているのに,支出の代表格の家賃マップは濃くなっています。繰り返しますが,生活の逼迫を感じる人が多くなるわけです。

 収入と家賃を照らし合わせることで,生活のゆとり度を測る指標が出てきます。一昨日公開のニューズウィーク日本版記事では,借家世帯の「家賃/年収」比を出しました。分母は下がり,分子は上がっているのですから,この値は上昇しています。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/07/20-52.php

 アベノミクスの虚を暴露している,生活苦の条件をあぶり出していると,多くの方に読まれたようで,ヤフートピックス「経済」にも選ばれました。

 とりわけ若年世帯は酷いもので,京都や東京の若年借家世帯では,「家賃/年収」比が半分にもなります。単身学生が多いためでしょうが,勤め人の場合,家賃を払うために働いているようなものです。

 ここまで家賃が重くのしかかるとなると,実家を出て世帯を構えることは困難で,親元にパラサイトせざるを得ません。若者の自立支援の意味でも,「住」に対する公的支援が欠かせないでしょう。公的な住宅手当が手厚い国ほど,世帯形成率が高いというデータもあります(藤田孝典『貧困世代』講談社新書,2016年,160ページ)。

 それは未婚化・少子化に歯止めをかけ,世帯形成の際に必要な家電の消費を促すなど,景気の刺激することにもつながります。

 景気の話が出ましたが,収入が減る一方で,税金や保険料,住居費が増えるとあっては,人々の財布の紐は固くなろうというものです。少子高齢化のなか,増税や保険料アップは止むを得ませんが,「住」に対する支援を増やす余地はあると思います。

 人間の生活の基盤は住居で,この部分を保障されることで,人は大いに安心できます。若者に生活支援金を支給すべしという案がありますが,住居費(家賃)に用途を限定したお金を与えるべきだと思います。若気の至りで,使い方を誤ることもありませんし。

 上記の藤田氏も,「住宅こそ最大の福祉政策」と主張されています。