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2018年7月6日金曜日

授業で教科書や電卓を使うか?

 国が違えば,慣習や文化が大きく違います。国際比較の面白みは,自国で常識と信じて疑われないことを,相対化できることです。

 学校での授業スタイルにも違いが見受けられます。IEAの国際学力調査「TIMSS」に興味深い設問がありますので,国ごとの単純集計のグラフをご紹介しましょう。元データは,下記サイトのリモート集計で簡単に作れます。
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/

 まずは,授業で教科書を使うかです。日本は,国の検定教科書の使用が義務付けられており,全国のどの学校でも教科書をメインにした授業がなされていますが,他国はどうなのか。

 中学校2年生の数学担当教員に尋ねた結果をみてみましょう。選択肢は,「授業の基礎として使う」,「授業の補足として使う」,「使わない」の3つです。無回答・無効回答は除いた,これら3つの構成比をビジュアル化します。

 「授業の基礎として使う」というオーソドックスな回答比率が少ない順に,回答のあった42か国を並べました。


 教科書ベースの授業が支配的な国が多くなっています。日本では,83%の数学教員がこういう授業をしている,と答えています。

 しかし上のほうを見ると,「授業の補足として使う」ないしは「使わない」という回答のほうが多い国もあります。イギリスやアメリカはそうです。カバンもさぞ軽いのでしょうね。日本みたいに,「重すぎるランドセル」で腰痛になる子どもなんて皆無でしょう。

 日本では,教育内容は学習指導要領できっちり決められており,これに盛られた内容は必ず教えないといけません。ただ,それらを消化した後で,プラスアルファの内容を追加することは許されます。私立では,そういう授業をする学校も多いでしょうね。

 グラフをみると,日本でも「教科書は補足」「使わない」という回答が2割弱いますが,多くが私立学校の教員ではないかと思われます。公私の比較をしたいのですが,「TIMSS」では,学校の設置主体を訊いてないので,それは叶いません。

 教科書を使う授業は普遍的にあらず。この点を押さえました。次に,数学の授業で生徒に電卓を使わせるかです。3桁や4桁の四則演算を紙と鉛筆でガリガリとやる日本の子どもをみて,海外の人は目を丸くするそうですが,データをみると,日本の常識は世界の非常識です。

 先ほどと同じく,中学校2年生の数学担当教員の回答をみてみましょう。生徒は電卓を「自由に使える」,「制限つきで使える」,「使えない」の3択です。最初の回答比率が高い順に,回答のあった37か国を配列しました。


 電卓を自由に使わせている国が結構あります。シンガポールや香港では,8~9割の教員が「自由に使わせている」と答えています。対して,日本は6%だけ。お隣の韓国は3%です。

 シンガポール,香港,日本,韓国,台北。これらは「TIMSS 2015」の中2の数学平均点の上位5位ですが,前2者と後3者では,正答率が高い問題に違いがあるような気がしますね。

 まあ日本でも,「制限付きでOK」という回答は結構ありますので,機械的な答え合わせや,思考を要する難題を解くに際しては,電卓を使わせているのかもしれません。小学校のうちは,基礎的な計算能力も鍛えないといけませんが,発達段階を上がるにつれ,考えることのほうに重点を移したいものです。電卓は,思考に集中するためのツールです。

 国ごとの電卓使用と数学学力の間には,一部の国を除くと,プラスの相関関係が見受けられます。
https://twitter.com/tmaita77/status/1014857979336650752

 21世紀の今では,電卓を叩いて結果を紙に転記するというのも,いささかナンセンスです。家計簿や費用管理などは,エクセル等の表計算ソフトでする時代。その初歩を,学校の授業で取り上げるべきかと思います。

 ただ,初心(原理)を分からせるうえでは,手作業は有益です。私は調査法の授業で,クロス集計を昔ながらのカードでさせていました。そのあとで,エクセルのような飛び道具を使わせると。「苦労・手間=いいこと,尊いこと」という思い込みはいけませんが,それを完全に捨て去ることは間違いだと思います。