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2018年10月18日木曜日

チャンスが開けている県

 「チャンス」とは,響きのいい言葉です。一攫千金のチャンス,一旗揚げるチャンス…。こういうフレーズをよく聞きますが,本記事でいう「チャンス」とは,こういう文脈のものではありません。

 また,前途ある若者とセットで語れることが多いですが,チャンスというのは,若者の占有物ではありません。どのステージの人にも,等しく開かれたものです。

 私は,自分が属するアラフォー年代について,ライフチャンスが開けている度合いを県ごとに比較することを思い立ちました。これまでとは異なる,21世紀型のライフコースをとれるチャンスです。やり直しができるか,自由な働きができるか,基本的な観点はコレです。この観点のもと,以下の5つのチャンスを考えてみます。

 1)結婚するチャンス
 2)事業を興すチャンス
 3)フリーで働くチャンス
 4)学び直しのチャンス
 5)非正規から正規に上がれるチャンス

 伝統的な意味合いの結婚期を過ぎたアラフォーでも,結婚を望む人は数多し。起業やフリーランスは,21世紀型の働き方として推奨されています。学び直しは,生涯学習社会の要請に応えるもの。最後の5番目は,「再チャレンジ!」です。

 各項目を可視化すべく,以下の統計指標を計算しました。分析対象は,35~44歳のアラフォー年代です。

1)婚姻率
 分子=2015年中に婚姻(初婚)を届け出た夫の数
 分母=2015年10月時点の未婚男性数
 *分子は厚労省『人口動態統計』,分母は総務省『国勢調査』

2)起業者率
 分子=2017年10月時点の起業者数
 分母=同時点の就業者総数
 *分子・分母とも,総務省『就業構造基本調査』

3)フリーランス率
 分子=2015年10月時点の雇人のいない業主者数
 分母=同時点の就業者総数
 *分子・分母とも,総務省『国勢調査』

4)通学人口率
 分子=2015年10月時点において,労働力状態が「通学のかたわらで仕事」ないしは「通学」の者
 分母=同時点の総人口(労働力状態が不詳は除く)
 *分子・分母とも,総務省『国勢調査』

5)非正規から正規への移動率
 2017年10月時点の正規職員のうち,初職が非正規雇用であった者の比率。
 *総務省『就業構造基本調査』

 これらの5つの指標をもとに,21世紀型のライフチャンスの開放度を,47都道府県別に比べてみようという目論見です。

 まずは,合成する前の数値から見ていただきましょう。指標によって単位が違うので注意してください(‰は,千人あたりの数です)。黄色マークは最高値,青色は最低値を意味します。赤字は上位5位です。



 アラフォーの未婚男子の結婚チャンスですが,首位は東京です。遅まきながらの結婚チャンスは大都市にあり。しかし,2位以降はバラけており,わが郷里の鹿児島も上位5位にランクインしています。男が県外に出て行っているので,未婚男女の女性比が相対的に高いですしね。

 起業者率の首位も東京。フリーランス率の首位は和歌山となっています。通学人口率のトップは京都です。大学が多い故でしょう。その次は沖縄ですが,本県は生涯学習の先進県として注目されています。私の修士時代のボスも,沖縄にベタ惚れしていて,沖縄の社会教育の本を何冊か出しています。

 非正規から正規への移動率は,沖縄が飛び抜けて高くなっています。アラフォーの正社員の22.8%(5人に1人)が,非正規から上がってきた者です。開けていますねえ。新卒時の正社員就職率が高い北陸や中部の県では,この値は低くなっています。

 東京と沖縄は,赤字が4つあります(高知は3つ)。

 これらの5指標を合成して,単一の「チャンス」尺度を作りましょう。これらは値の水準が全然違うので,単純に平均するようなことはできません。同列に操作できる指数に加工する必要があります。最高値を1.0,最低値を0.0とした場合の相対値にしてみます。

 計算式=(当該県の値-最低値)/(最高値-最低値)

 このやり方で,鹿児島県のフリーランス率を指数にすると,(45.0-28.4)/(52.2-28.4)=0.695 となります。

 下の表は,この方式で加工した相対指数の一覧です。お分かりかと思いますが,最高値は1.0,最低値は0.0となります。


 これで,5つの指標が同じ性質のものになりましたので,均すことが可能です。右端は5つの指標の指数を平均したものです。これをもって,チャンスの開放度の指標としましょう。

 ほう。最高値は南端の沖縄ですね。最下位は秋田。子ども期のステージでは,「学力トップの秋田,劣勢の沖縄」という構図がよく言われるのですが,アラフォー年代に舞台を移すと,状況が逆転します。

 沖縄の次は,首都の東京です。やはり大都市は強い。しかし全体的に見渡すと,チャンスが開けている県は,西日本で多いようです。赤字は総合指数が0.4を超える県ですが,近畿と四国・九州が染まっています。

 これらの県に色をつけた,アラフォーのチャンスマップは以下です。


 地域性が実に明瞭ですね。21世紀型の新たなライフチャンスは「西南」にあり。幕末期の野望の分布図と近似しているのが,何とも象徴的です。

 都道府県別の「住みやすさ」ランキングでは,いつも北陸や中部の県が上位になるのですが,要素として使われる指標をみると,子どもの学力とか,三世代同居率とか,正社員率とか,伝統的に「よし」とされるものばかりです。

 しかし今回のように,観点(素材)をちょっと変えてみると,地図の模様がガラッと変わるのは面白い。手前味噌ですが,21世紀型の価値観を反映したランキング(地域評価)としては,今回の試みのほうがベターかと思います。

 沖縄がトップという結果になりましたが,それは人口移動統計にも出ていて,アラフォー年代の転入超過率も高いのですよね。この年代では,大まかにいって「人は西に動く」傾向にあるのですが,今回のチャンス開放度の分布と一致します。
https://tmaita77.blogspot.com/2017/02/blog-post_21.html

 チャンスが開けた地に人は動く。人口を呼び寄せたいならば,やり直しができる,21世紀型の自由な(緩い)働き方ができる,といったチャンスの水準を上げる努力をすべきかと思います。白々しいPRよりも,こちらがずっと重要です。

 現在は,明治維新の頃に劣らぬ大変化の時代ですが,当時と同じく,それを牽引するのは「西南」の地なのかもしれません。