私は,教員不祥事報道を集めており,月末のブログ記事で整理するのですが,いろいろやってくれるなあと思います。大半が,生徒へのわいせつ行為です。
文科省の統計でみても増えているのですが,教員の振る舞いへの目線が厳しくなり,以前に比して発覚しやすくなっていることがあるでしょう。しかし,それだけではないかもしれません。ネットで,教員と生徒が容易につながれるようになったこともあるのではないか。
それは当局も認識している所で,教員と生徒がメールをしたり,SNSでやり取りしたりするのを禁じている自治体がほとんどです。
OECDの国際学力調査「PISA 2015」では,15歳の生徒に対し,「教員とやり取りしたり,宿題を提出したりする用途でメールをどれほど使うか」と訊いています。日本の生徒の回答をみると,92.4%が「全くしない」です。さもありなん。
http://www.oecd.org/pisa/data/2015database/
しかし,他国は違っています。いつも取り上げる主要国の回答分布をみてみましょう。アメリカは,「PISA 2015」のICT調査に参加していないので,データがありません。
5つの選択肢による回答分布ですが,国によって模様が違っています。日本では「全くしない」が大半ですが,他国はさにあらず。イギリスやスウェーデンでは,3人に1人以上が「週1回以上する」と答えています。
教員とどういうコミュニケーションを取っているのか分かりませんが,メールで課題を提出する,個別指導を受ける,といった用途が多いのではないかと推測します。周知のように,北欧ではICT教育が進んでいますからね。
「PISA 2015」のICT調査では,「教員とやり取りする用途で,SNS(フェイスブック等)をどれほど使うか」も尋ねています。この設問への回答も興味深し。
双方の設問に対し,「週に1回以上する」と答えた生徒の割合を国ごとに計算してみました。分母から無回答・無効回答は除いて出した比率です。横軸にメール,縦軸にSNSをとった座標上に,データが分かる45か国を配置したグラフにしてみましょう。教員と生徒のITコミュニケーションの国際比較図です。
日本は,メールで教員とやり取りする生徒は3.8%,SNSでは6.0%で,両方とも45か国の中では最も低くなっています。こういう形でのやり取りを禁じている自治体が多いのだから,当然といえばそうです。
しかし,対極のタイはスゴイですね。15歳生徒の半分以上がメール,7割以上がSNSで,週に1回以上教員とやり取りする,と答えています。メキシコ,コロンビアといった発展途上国でもITコミュニケーションの頻度が高いようですが,学校に来れない生徒が多いためでしょうか。
日本では,よからぬことが起きるからと,教員と生徒がネット上でやり取りするのを禁じていますが,度が過ぎてはなりますまい。21世紀型のICT教育を阻害することにもなります。
SNSは,題材に関する意見や疑問点をあらかじめ共有し,授業の場で討議する「反転授業」にも使えます。教師が指導の書き込みを入れることも可能です。今後,学校の教授活動向けのアプリが続々と開発されるでしょう。2025年頃には,上記のグラフにおける位置が変わっているかもしれません。いや,そうあってほしいです。
文明の恩恵は利用すべきです。参加者限定の学びのコミュニティの上であるならば,教員と生徒のやり取りを解禁してもいいのではないか。むろん,教員の労働時間に際限がなくならないよう,ログインできる時間を制限するなどの配慮は要ります。
教育的コミュニケーションが行われる場は,今となっては,教員と生徒が直に向き合い教室だけではありません。そのリアルの場での教授活動を充実したものにすべく,デジタル空間でのやり取りも併用したいものです。それができないうちは,ICT教育後進国と後ろ指を指されても仕方ありません。