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2019年2月3日日曜日

高等教育の私費負担額の国際比較

 日本が教育にカネを使わない社会であるのは知れ渡っていますが,その根拠として出されるのが,教育費の公的支出額の対GDP比です。

 最新の2015年の統計によると,高等教育への公的支出額のGDP比は0.45%で,OECD加盟国では最低となっています。大学進学率が高い教育大国ですが,費用をどうやって賄っているのか。言わずもがな,学生の家庭に払ってもらっているわけです。高等教育への家計支出額(保護者が払った学費等)の対GDP比は0.94%,政府支出額より多いことが知られます。

 OECDの「Education at a Glance 2018」という資料から拾った数字ですが,これだけでは,学生の親がどれほど懐を痛めているかのイメージがわきません。上記の比率をGDPにかけて実額にし,推定学生数で割って,学生1人あたりの額にしてみましょう。

 2015年の日本の名目GDPは4兆3954万億8700万円です(総務省『世界の統計2018』)。先ほどの比率をこれにかけると,政府が支出した高等教育費は197億7400万ドル,家計が支出した高等教育費は412億2600万ドルとなります。

 このやり方で,高等教育費の公費と私費の実額を国ごとに計算すると,以下の表のようになります。OECD加盟の33か国のデータです。


 額が大きいのでピンときませんが,日本の数値を他国と比すとどうでしょう。ドイツやフランスの政府支出額は,日本より多いですね。これらの国の学生数は,日本よりもかなり少ないにもかかわらずです。その分,私費負担額は少なくなっています。日・独・仏の3国について,高等教育の私費負担の比重を計算してみましょうか。

 日本 = 41226/(19774+41226)= 67.6%
 ドイツ = 6314/(34172+6314)= 15.6%
 フランス = 7233/(27734+7233)= 20.7%

 日本は高等教育費の7割近くが私費(家計負担)で賄われていますが,独仏では8割ほどが公費でカバーされています。フィンランドやノルウェーでは,95%以上が公費です。

 上表の公費・私費の実額を学生数で割れば,政府ないしは家計が1人の学生につきいくら払っているかが分かります。各国の親が,子どもを大学にやるのに年間いくら負担しているかの目安になります。日本は100万円ほどでしょうか。北欧諸国では限りなくゼロに近いのでは…。

 高等教育機関の学生数を国別に知ることはできません。乱暴なのを承知で,人口統計と高等教育修了率から便法で割り出してみます。

 2015年の国連人口統計「World Population Prospects」によると,日本の15~24歳人口は1211.9万人です。これに0.7をかけて,高等教育就学年齢人口である18~24歳人口848.3万人を得ます。このうちの何%が学生かですが,2015年の25~54歳の高等教育修了者比率(51.4%)を使いましょう(OECD「Education at a Glance 2018」)。日本の高等教育機関の学生数は,848.3×0.514=436.4万人と見積もられます。

 上表の公費・私費総額を,この推定学生数で割ると,学生1人あたりの公費は4531ドル,私費は9447ドルとなる次第です。1ドルを110円とすると,1人あたりの公費は49.8万円,私費は103.9万円ですかね。大学生等の親の年間負担額はおよそ104万円。まあ,違和感のない数値です。均したらこんなもんでしょう。

 かなり乱暴ですが,同じ手法で学生1人あたりの公費・私費の実額を国別に試算すると,以下のようになります。私費負担割合は,公私の合算に占める私費の割合(%)です。


 日本の公費は50万円,私費は104万円ですが,フィンランドでは公費は204万円,私費は7万円となっています。すごいコントラストですね。フィンランドでは,家計の年間負担額はたった7万円なり。その分,政府が学生1人につき年間204万円支出していると。

 日本の家計負担が大きいのは明らかですが,これを上回る国もあります。オーストラリア,カナダ,チリ,イギリス,アメリカです。評判にもれず,アメリカの私費負担は年間232万円とメチャ高。まあ,この国では各種の奨学金が充実していることを割り引く必要はあるでしょう。国の支出額も126万円と,日本よりはうんと多くなっています。日本が「高負担・低支給」なら,米国は「高負担・高支給」の社会です。

 日本の高等教育の年間私費額は104万円で,高等教育費全体の7割ほどが家計負担で賄われていることが知られます。これが国際標準から隔たっていることは,火を見るより明らかでしょう。

 ここで試算したのは2015年のデータで,高等教育の無償化が施行される今年度以降では,日本の様相はかなり変わるかもしれません。いや,支援の対象は非課税世帯に限定されますので,そんなに変わらないか…。

 大学生等の親が年間いくら払うか。日本は100万円超ですが,33か国の平均値はその半分の55万円というところです。20万円,いや10万円にも達しない国だって存在します。ここでお見せしたのは学生1人あたりの額であり,高等教育の普及度のような要因は除かれています。教育をどう見ているかの違いでしょう。

 「北欧諸国はバカ高い税金をとっているからだ,日本でそれをやれというのか」という声が多数ですが,「消費税20%!」というような,日常生活全般に響くような政策は大きな混乱をきたすでしょうただ,次世代育成税のような課税をしてもいいかなと。介護保険税とロジックは同じです。「誰しもやがては要介護状態になる」と同時に,「子の有無に関係なく,上の世代は誰しも下の世代の世話になる」のです。

 「下の世代」が健やかに育つための費用負担を,国民皆で分担してもいいのではないか。用途としては,ここでみたような歪な高等教育財政の是正,また超薄給といわれる保育士の待遇改善等が考えられます。これで少子化に歯止めがかかるのなら,投じた費用は回収されるように思うのですが,どうでしょうか。少子化が進む最大の要因は,「教育費が高いこと」「夫婦2馬力で稼げなくなること」であるのは,各種の調査から分かり切っています。

 財政のド素人が頭の中で描いていることですので,読み流していただいていいのですが,申したいのは,未来の社会の担い手を育てるための費用は国民皆で負うべきだ,ということです。