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2019年3月25日月曜日

高校生の専門学科生徒比率

 教育社会学の古典ともいえる,デュルケムの『教育と社会学』に,次のような文章があります。

 社会は,成員の間に十分な同質性がなければ存続できない。教育は,共同生活に必要不可欠な資質を子どもに据え付けることで,その同質性を確保・強化する。一方で,一定の多様性がなければ,ありとあらゆる協働も不可能である。教育は,それ自身が多様化し,専門分化することで,必要な多様性を確保するのである。

 教育の目的は,当該社会での生活に求められる資質・能力を子どもに教えることです。これをしないと,社会は維持・存続できません。この仕事は,共通教育(普通教育)でカバーされます。

 一方で,現代の高度化した社会を動かすには,各人の持ち味を生かした分業が不可欠。各人が得意分野を深め,それを持ち寄って協働するほうが,高いパフォーマンスを期待できます。それを担保するのは,いわゆる専門教育です。

 日本の制度の括りでいうと,小・中学校(義務教育)では普通教育,大学等の高等教育では専門教育に重きが置かれ,両者の中間の高校教育(後期中等教育)では,2色が混ざり合っています。

 この2色の配色ですが,時代と共に専門教育の領分が狭まり,普通教育の比重が増してきています。それは,高校生の学科別の生徒構成比率から見て取ることができます。高度経済成長の最中の1960年では,高校生の4割が専門学科(当時でいう職業科)の生徒でした。それが2017年では,2割ほどまで低下しています。

 高度成長を担う中堅技術者を輩出していた専門高校ですが,70年代以降,大学進学志向の高まりにより,人気が低落していきました。普通科が上,専門学科が下という序列意識も生まれ,「普商工農」などと囁かれるようにもなりました。80年代に,第2次ベビーブーマーを吸収するために,高校の大増設に迫られたのですが,その大半は普通科高校でした。専門学科生徒の比率の低下は,こういう背景によります。

 ところで,高校生の専門学科比率は,県によって違っています。高度経済成長期の頃と現在の数値を,47都道府県別に計算してみました。下表は,1964(昭和39)年と2017年の都道府県別数値です。1964年は普通科以外の生徒の率で,2017年の率は,高校生総数から普通科生徒と総合学科生徒を引いた数を,高校生総数で割って出しています。データの出所は,文科省『学校基本調査』です。


 一番下の全国値をみると,40.9%から21.6%に下がっています。これは,先ほど述べた通りです。

 県別の数値をみると,1964年では多くの県で4割を超えていました。マックスは,私の郷里の鹿児島で59.7%,6割にも達していました。農業県という地域柄もあるでしょう。当時の高校生活経験者に話を聞くと,普通科より専門学科のほうが人気で,後者に落ちた人が仕方なく前者に行っていたとのこと。今とは真逆です。

 富山も55.1%と高くなっています。当時,富山県が普通科と専門学科の比率を「3:7」にしようという計画を立てていたのは,よく知られています。総じて,高度経済成長期の高校教育は,普通教育に劣らず専門教育も重視されていて,県によっては完成教育の機関としての性格も有していました。

 しかし現在では,様相がガラリと変わっています。5割を超えるのは宮崎,40%台は鹿児島と佐賀だけになります。半世紀の大変化は,地図にすると分かりやすいでしょう。


 全国的に専門学科の生徒比率が下がっていますが,背景は上述の通りです。普通科志向の高まりにより,80年代の新設高校の大半が普通科高校であったと。

 それが最も顕著だったのは,私が今住んでいる神奈川県です。本県には,地方から団塊世代が大量に流入してきましたが,その子ども(第2次ベビーブーマー)を吸収するため,70~80年代にかけて公立高校が100校増設されましたが,そのうちの99校が普通科でした(100校計画)。そのおかげで普通科比率がうんと高まり,現在では高校生の9割が普通科の生徒です。専門学科の生徒は1割しかいません(最初の表)。

 一方,人口流出県だった鹿児島は,第2次ベビーブーマーの波がそれほど大きくなく,高校増設の必要に迫られませんでしたので,高度成長期の原型が維持されたと。最初の表にみるように,本県では今でも高校生の約半分が専門学科の生徒です。この辺りの事情については,駆け出しの頃,九州教育学会の紀要に論文で書いたことがあります。
https://ci.nii.ac.jp/naid/40007033189

 ともあれ,現在の高校教育は普通科偏重の型になってしまっています。法律では,高校教育は普通教育と専門教育の双方を担うと規定されているのですが,それとは程遠い状況です。成人年齢が18歳に引き下げられるのを機に,後期中等教育における普通教育と専門教育の配分を,改めて見直したいものです。

 現業職の人手不足もあり,最近では,専門高校の正社員就職率は良好です。大学の文系学部より高く,理系学部とも匹敵します。19~22歳の4年間を,無目的に四角いハコの中で過ごさせるのがいいことなのか。18歳で社会に出ることを,もっと推奨していいのではないか。こう思います。

 そのためには,高校教育の構造を変える必要があるでしょう。子どもの進路志向というのは,自分の地域にどういう教育機会が提供されているかにも左右されます。

 大学は,後から行けるようにすればいい。AIの台頭により,人間の労働時間は短くなり見通しですが,その余裕を「リカレント教育」に宛てればいいでしょう。企業は教育有給休暇を設け,国はそういう取組を後押しすべきです。

 「Learning by doing」「この国を作っているのは俺たちだ」。青年期教育の完成機関としての専門高校に,もっとスポットが当てられることを欲します。