ページ

2019年5月2日木曜日

15歳の父母の大卒率

 10連休も後半にさしかかりましたが,いかがお過ごしでしょうか。予報によると,後半は晴天が続くそうです。私の自宅近くのソレイユの丘は,美しいブルーのネモフィラが満開です。三浦半島の南西に,ぜひお出かけください。

 私はというと,いつもと変わらない暮らしをしています。人と違う「逆張り」主義ですので,暦の上での休日・祝日は出かけません。午前中は食い扶持仕事をして,午後からはパソコンの前に張り付いて,データやグラフの試作品をツイッターで流したりしています。

 その中で,15歳生徒の父母の大卒率を国別に比べたグラフが関心を集めています。OECDの「PISA 2015」にて,15歳生徒に父母の学歴を尋ねた結果です。日本の場合,大卒率は父親のほうが母親より高い,と思われるでしょう。結果はその通りで,父が大学を出ていると答えた生徒の比率は44%ですが,母が大学を出ているという生徒は27%しかいません。

 大学進学率は男子が女子より高いので当然,何の違和感もないデータです。しかし国際的にみると,こんなにジェンダー差が開いている社会はないのですよね。主要国のデータを拾ってみると,以下のようになります。リモート集計で作りましたので,粗い整数値になっていること,ご容赦ください。

 大卒率とは,ISCEDのレベル5A以上の学歴保有者をいいます。日本でいう大学・大学院卒業者で,短大や専修学校等は含まれません(これらはレベル5B)。


 表をぱっと見,さすがは教育大国のニッポン,父親の大卒率(44%)は8か国で最も高くなっています。しかし母親になるとガクンと下がり,8か国中6位です。右端は母の大卒率が父より何ポイント高いかですが,日本はマイナスの振れ幅が大きくなっています。大卒率のジェンダー差(男性>女性)が殊に大きい社会です。

 母の大卒率が父より高い国があることにも注目。フィンランドでは9ポイント,アメリカとスウェーデンでは6ポイント,母の大卒率が父より高くなっています。世界を見渡せば,こういう社会もあるのですよね。

 比較の射程を広げてみましょう。「PISA 2015」から,発展途上国も含む69か国のデータを得ることができます。横軸に母親の大卒率,縦軸に「母親-父親」の差分をとった座標上に,69の社会のドットを配置してみます。母親の大卒率を,絶対水準と相対水準(対父親)で見て取れる仕掛けです。


 教育が普及しているといわれる日本ですが,15歳の母親の大卒率は69か国の中では真ん中辺りです(横軸)。大学進学率のジェンダー差が大きいからに他なりません。

 それは,縦軸上の日本の位置に表れています。「母親-父親」の差分ですが,日本が最もマイナス方向(下)に振れています。「父親>母親」のジェンダー差が最も大きい,ということです。その度合いは,発展途上国やイスラーム諸国以上ではありませんか。

 縦軸の位置がゼロよりも上なのは,母の大卒率が父よりも高い,言い換えると女子の大学進学率が男子より高い社会です。その数は33か国で,全体のおよそ半分です。右上には,北欧の諸国が位置しています。女性の大卒率が高く,かつ男性よりも高い社会。リカレント教育が普及していますので,社会に出てから大卒・院卒の学歴をとったという人も少なくないでしょう。

 東洋の小さな島国でわれわれが見ている光景は,普遍的でも何でもないことが知られます。むしろ,国際的にみたらアブノーマルな部類です。大卒率,抽象度を上げていうと教育達成のジェンダー差(男性>女性)が他国に比して格段に大きいのは,明らかに問題であるといえるでしょう。

 なぜ,こんな事態になっているか。思い当たるふしは,数多くあります。男子と女子では,親や周囲から向けられる教育期待が異なること,それに呼応して,女子の大学進学アスピレーションが男子より低いのは,日経DUALの寄稿記事で明らかにしました。その度合いは,他のどの国よりも大きくなっています。今回のデータと符合しますね。
https://dual.nikkei.co.jp/atcl/column/17/1111184/110500014/

 そういうクライメイトを察知してか,女子,とりわけ低所得層の女子は,自身の将来を早くから見限る傾向もあります。高校生のバイト実施率を家庭の所得階層別に出すと,低所得層では「男子<女子」の差がものすごいのです。貧困という生活条件がどう作用するかは,男子と女子では違うようです。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/02/post-11687.php

 また,大学が都市部に偏在しているゆえ,とりわけ地方において大学進学率の性差は大きくなっています。私の郷里の鹿児島は,その典型です。コストのかかる自宅外進学は男子優先,そもそも女子を外に出したくない…。こう考えている親御さんも多し。

 対策は,女子に対し偏った眼差しを向けないこと,女子が進学しやすい条件を整えることに分かれます。後者についていうと,東大は女子学生の家賃補助をしていますが,これなどは,地方の才女を呼び寄せるのに一役買うと思います。

 大学進学率のジェンダー差をなくすなんて不可能,そもそも男子と女子の意向の差とも読めるのだから,このままでいいじゃないか。こういう意見もあるでしょうが,上記の国際比較のグラフを一瞥するだけで,それが欺瞞に満ちていることは分かります。変革可能性はあるのです。

 今回比べた69か国でみると,15歳の父の大卒率は3位ですが,母は33位なり。ここまで落差が大きい国は他にありません。人口の半分を占める女子の教育をなおざりにしてきたことの証左です。新しい令和は,女子教育の時代。そんなふうに思います。