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2019年5月25日土曜日

0円借家

 暑くなってきました。横須賀は,今日も30度を超える夏日です。週末のお昼は長井水産に行くのですが,今日は陽が強いので見合わせます。

 堀江貴文さんの『疑う力』(宝島社)を読んでいます。私は,この人の本は好きでよく買っています。言うことが鋭いのはもちろん,文章がいい。語り口調でスイスイ頭に入ってきます。この人は,文章を書くときは,ベッドに寝転んでフリック入力だそうですが,こういうふうに力を抜いて書くのもいいかもしれませんね。
https://tkj.jp/book/?cd=TD293695

 唸らされる言葉が盛りだくさんですが,162ページで次ように言われています。「家賃は要らないから,空き家に住んでハウスキーパーをやってほしい,と懇願される時代がやってくる」。

 住める家が余りまくる時代がくるのに,先行き不透明な中,ローンを組んでマイホームを買うのはナンセンス,という話です。

 確かに,空き家が増えていますからね。家というのは,人が住まないと荒みます。それだけならまだしも,朽ち果てて景観が悪くなったり,犯罪の温床になったりします。「タダでいいから,空き家に住んでください」と言われるようになるかもしれません。

 しかし今でも,タダで借りれる家は存在します。下の表は,借家世帯の月家賃の分布を整理したものです。専用住宅に住む借家世帯で,家賃不詳の世帯は除きます。資料は,2013年の総務省『住宅土地統計調査』です。


 家賃が分かる借家世帯は,全国で1786万8800世帯あります。家賃の分布をみると,4~5万円台がボリュームゾーンです。私が今住んでいる部屋も,この階級に属します。

 表の上をみると,家賃が「0円」という借家が35万9700戸あるではないですか。タダで人様の家を借りているという世帯です。ちなみに,『住宅土地統計』の家賃区分に「0円」というカテゴリ―が設けられたのは,2013年調査からです。空き家をタダ借りする人が増えているのを受けてでしょうか。

 この「0円」借家は,借家世帯全体の中では2.0%に相当します。思うに,この数値は田舎では高いような気がします。都道府県統計がありますので,0円借家が借家世帯全体の何%かを県別に出してみましょう。下表は,高い順に並べたランキングです。


 上位3位は,岩手県,福島県,宮城県です。これら3県では,借家世帯の1割が0円借家となっています。おそらく,2011年の東日本大震災の影響があるでしょう。

 南端の沖縄県も,3.2%で比較的高いですね。郷里の鹿児島県も高い部類です。人口減に悩む離島部が,空き家を放出しているのでしょうか。

 その0円借家ですが,どんな家なんでしょう。おそらく築年数がだいぶ経った,古い家屋が多いと思われます。築年数の分布は分かりませんが,畳数の分布はとれるので,それをグラフにしてみます。


 ほう,一番多いのは30畳以上ですね。0円借家,広いではないですか。やはり,古い一戸建てが多いようです。空き家の状態が続くことに困り果てたオーナーないしは自治体が,タダ貸ししているのでしょう。

 0円借家に住んでいる人ですが,居住開始時期をみると,半分近くが2011年以降となっています。東日本大震災の被災者だろうと思われるかもしれませんが,どの県でみても,マジョリティは2011年以降の入居者です。空き家問題が深刻化している,最近の状況の反映といえそうです。

 うーん,0円借家もいいような気がしてきました。では,どういう地域に多くあるのでしょう。最初の都道府県統計から,地方に多いのは分かりますが,県レベルから下りた市区町村レベルのデータも出せます。
 
 私は,家賃0円の借家世帯が,借家世帯全体の何%かを,市区町村別に計算しました。その比率が15%を超える地域をご覧に入れましょう。市区町村レベルだと実数が少ないのでは,という疑問もあるかと思いますので,計算に使った分子・分母の数値も添えます。


 0円借家が借家全体の15%(7分の1)以上の地域です。率が高いのは,被災県の地域です。岩手県の陸前高田市や山田町では8割を超えます。

 被災県以外でも,0円借家の率が高い地域があります。昨日ツイートしましたが,島根県の隠岐の島では,970の借家世帯のうち200世帯が,家賃タダの家に住んでいます。長崎県の対馬市もランクイン。離島部の人口呼び寄せ策でしょうか。長野の軽井沢は,別荘のタダ貸しかな。

 目を凝らしてみると,0円借家がわんさとある地域が散見されます。これは2013年のデータですが,2018年の『住宅土地統計』のデータでみたら,0円借家はもっと増えていると思われます。2013年10月時点では約36万戸でしたが,50万戸を超えていたりして。

 堀江さんの予言は的中するかもしれません。こう考えると,長期の高いローンを組んで家を買うのは躊躇われます。堀江さんが言っていますが,先行き不透明な時代に重荷を負うのはリスク。地震で潰れたらおしまい。地震保険も,首都圏直下型地震で保険会社がデフォルトになったら,保険金も支払われなくなっちゃいます。

 高齢になったら家を借りにくくなるとはいいますが,人口の高齢化が進行したら,家主もそんなこと言ってられなくなるでしょう。前回申しましたが,われわれが高齢者になる頃には,ITを使った安否確認網とかが張り巡らされているのではないでしょうか。

 黙っていても,家が空から降ってくる時代。夢のようです。0円借家の分布図というのは,地方創生の関連資料にぜひとも入れていただきたい。人の移動(mobility)を促す,最良のファクトだと考えます。

 今回提示したのは2013年のデータですが,間もなく公開の2018年データが楽しみです。また同じデータを出しますので,それを眺めて,移住を本気で検討する人が出てきてくれればなと思います。