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2019年7月28日日曜日

普通に働く労働者の年収分布

 ここのところ,労働者の稼ぎ(おカネ)のデータばかりをいじっています。参院選のポスターで見かけた,「1日8時間労働で普通の暮らしができる社会へ」というフレーズが頭から離れません。

 このフレーズが神々しく思えるほど,日本の現状は酷くなっています。労働時間と所得の関連のグラフは,ニューズウィーク記事で出しています。非正規女性の場合,週40時間,60時間働こうが,半分以上が所得200万円未満のワーキングプアです。

 他の国はどうなんでしょう。今日は国際比較をやってみようと思います。OECDの国際成人力調査「PIAAC 2012」のデータを使います。この調査では,有業者に週間の労働時間と年収を尋ねていますので,両者をクロスすることで,目的のデータを作れます。*個票データ使用。
http://www.oecd.org/skills/piaac/publicdataandanalysis/

 年収は,「国内の有業者全体の中でどの辺と思うか」と問う自己評定ですので,認知の歪みの影響が出るかもしれないですが,参考にはなるでしょう。

 各国の普通に働く労働者を取り出し,男女で分けて,年収の分布を比べてみます。週35~44時間働く労働者の年収分布は,以下のようになっています(主要7か国)。年収のカテゴリーは,原資料では6つになってますが,ここでは3つに簡略化しています。


 青色は年収が下位25%未満の人の率ですが,日本はこのゾーンが広くなっています。ジェンダーの差が大きいのも特徴。男性は21.2%ですが,女性は53.8%,倍以上の差です。お隣の韓国も似たようなタイプです。

 日本の女性の場合,普通に働いても半分がワーキングプア。この有様が,国内統計でもしっかり出ています。

 対して欧米諸国では,オレンジ色の「中間」がマジョリティです。明瞭なジェンダー差もありません。週35~44時間,普通に働けば普通の暮らしができる社会ですね。日本と韓国に比して,その実現度合いが高いのは間違いありません。

 青色の年収下位25%未満に注目すると,日本は男性が21.2%,女性が53.8%となっています(A)。女性は男性よりも,32.6ポイント高いと(B)。女性の率(A)を横軸,ジェンダー差(B)を縦軸にとった座標上に,データがとれる29か国を配置すると,以下のようになります。


 普通に働いても,人並みの暮らしを得られない。こういう問題がどれほど色濃いか,それがどれほど女性に偏しているかを,国別に見て取ることができます。

 普通に働く女性のプア率は,日本は53.8%ですが,ギリシャとスロバキアはそれを上回っています(横軸)。ギリシャは,財政破綻の影響でしょうか。

 縦軸のジェンダー差は,日本が最も大きくなっています。女性が53.8%,男性が21.2%,その差が32.6ポイントもありますので。対して欧米諸国は,左下の原点付近に位置しています。性別に関係なく,普通の労働で普通の暮らしが得られる社会なり。

 日本は,1日8時間労働では普通の暮らしは得難く,その歪みは女性に集中していることが分かります。今日の朝日新聞Web版に「天下の山形屋も時給761円 鹿児島女性のため息」という記事が出ています。2018年の県別の最低賃金ワーストは鹿児島で,県内で一番大きいデパートの時給もこの有様であると。

 761円といったら,1日8時間労働の日給は6088円。月25日,年間300日働いても(キツイ),年収は182.6万円で,200万円に及びません。鹿児島は家賃や物価が安いとはいえ,これで普通の暮らしができるかは疑問符が付きます。

 7月25日の記事で,労働者の時間給の分布を出したところ,非正規女性の4人に1人は750円未満でした。全県の最低賃金を割る,明らかな違法なレベルです。
http://tmaita77.blogspot.com/2019/07/blog-post_25.html

 言うことはただ一つ,最低賃金の遵守,いや引き上げです。それでは会社がもたないというなら,BI(ベーシックインカム)での補填を考えるべし。AIの恩恵で人間が労働から解放される時代はまだ先ですが,1日8時間の普通の労働で事足りる時代は,すぐそこのはず。

 それとは程遠い日本の現状は,過剰サービスや,馬車馬のように汗水流して働いて一人前というような,しょーもない精神論がはびこっているためでもあるでしょう。冷静になって無駄や嫉妬を取り除けば,「1日8時間労働で普通の暮らしができる社会」の実現はできると思うのです。

 日本では女性の低賃金が目立ちますが,女性を男性の補助的な労働力と位置付ける考え方の是正も必要。その象徴ともいえる配偶者控除を見直すこと,賃金のジェンダー差をなくすことです。