昨日ふと目にした日経記事によると,給与所得者の4.2%でしかない「1000万プレーヤー」が,所得税総額の半分を負担しているとのこと。税による再分配も,そこそこ機能してるんだなと思いました。
富裕層は,国内の富のかなりの部分を占有しているのも事実です。だからこそ税による再分配が必要なんですが,その程度は社会によって異なっています。「国民の1%でしかない超富豪が,国内の富の半分をせしめている」なんていう報道を見かけることがありますが,ここまで極端でないにせよ,どの国にも多かれ少なかれ,こうした偏りはあるはずです。日本の現状はどうなんでしょう。
ILOの国際労働統計に「Labour income distribution」という表が出ています。収入に依拠して国内の有業者を10の階層(D1,D2,…D10)に等分し,各層の収入が有業者の収入総額の何%に当たるか,というデータです。
https://ilostat.ilo.org/data/
日本の2017年のデータをみると,上位10%(D10)の階層の収入が,全有業者の収入合算の27.6%を占めています。上位10%の稼ぎが,全労働者の稼ぎ総額の4分の1以上を占めると。下位半分の層(D1~D5)のシェア合算(19.9%)よりも高くなっています。
上位10%の稼ぎが,下位半分の合算よりも多い。スゴイ偏りに見えますが,国際的にみるとこういう国が大半です。上位10%の占有率がハンパない国もあります。その一方で,階層間の偏りが小さい社会もあります。たとえば,「週4日・1日6時間労働」を提唱しているフィンランドです。
10の社会をピックアップして,上位10%(D10)と下位半分(D1~D5)の収入シェアをグラフにしてみましょう。
どうでしょう。目を引かれる部分から書くと,インドでは上位10%の収入が全体の7割,アフリカのニジェールでは9割をも占めます。ものすごい偏り,いや格差です。インドはカースト制,ニジェールは一部の富裕層が土地や生産手段を寡占しているためでしょう。
この2国のインパクトが強すぎて,他の8か国の差が見えにくくなりますが,日本も含め,「下位半分 < 上位10%」の国が多くなっています。しかしフランスとフィンランドは逆です。フィンランドは下位半分のシェアが3割を超えており,平等度が比較的高い社会です。
各国の収入分布の偏り,稼ぎの不平等度を単一の尺度で測りたいのですが,どういう数値を計算したらいいでしょう。上位10%から下位半分を引くというのは単純すぎます。私は久々に,ジニ係数を計算することとしました。統計の素養がある方はご存知のはず。そう,分布の偏りを数値化するならコレです。日本のデータを例に,計算方法を説明します。
収入10分位階層の人数と収入シェアの分布です(全体=1.0)。10等分ですので,有業者の人数比はどの階層も0.1(10%)となります。しかし各階層の収入分布はそれに見合っておらず,上位10%(D10)の層だけで,全階層の収入の28%が占められています。下位半分(D1~D5)のシェアは2割ほどでしかありません。右欄の累積相対度数をみると,人数分布と収入分布のズレはもっと分かりやすいでしょう。
この累積相対度数をグラフにすることで,両者のズレの程度が視覚化されます。横軸に人数,縦軸に収入の累積相対度数をとった座標上に10の階層のドットを配置し,線でつなぎます。こうしてできた曲線をローレンツ曲線といいます。
人数と収入の分布が等しい場合,つまり完全平等の場合,ローレンツ曲線は対角線と重なります。逆に両者のズレが大きいほど,曲線の底が深くなります。
ここで求めようとしているジニ係数は,対角線とR曲線で囲まれた部分の面積を2倍した値です。図でいうと,色付きの部分です。完全平等の場合,対角線とR曲線は重なりますので,ジニ係数は0.0となります。対して,極限の不平等状態の場合は,色付き部分は正方形の半分の三角形となりますので,ジニ係数は,0.5を2倍して1.0となります。ジニ係数が0.0から1.0の範囲をとるというのは,こういう意味合いです。
現実のデータは,この両極の間のどこかに位置するわけです。上図の色付き部分の面積は0.210で,日本の収入ジニ係数はこれを2倍して0.420となります。色付き部分の面積の計算方法は,下記記事を参照してください。
http://tmaita77.blogspot.com/2011/07/blog-post_11.html
日本の有業者の収入分布の偏り,すなわち不平等度はジニ係数0.420という数値で測られます。これをどうみるかですが,一般にジニ係数が0.4を越えたら要注意水準と判断されるそうです。最近の日本はこのラインを越えてしまっていると。人口の高齢化,雇用の非正規化が進んでいることを思うと,さもありなんです。
最初のグラフから察する限り,お隣の韓国やアメリカもそうでしょうね。インドやニジェールに至っては,ジニ係数はさぞ大きいでしょう。ILOの統計から189か国の収入ジニ係数を計算しましたので,ご覧に入れましょう。
まずはジニ係数が0.5に満たない118か国です。低い順に配列し,0.05間隔で区切りを設けています。
左上は,収入ジニ係数が低い社会です。先ほどみたフィンランドをはじめ,北欧や東欧の旧共産圏が多くなっています。イメージ通りですね。
目ぼしい国を拾うと,フランスは0.327,ドイツは0.388,日本は先に見た通り0.420です。イギリスは0.421,アメリカは0.429,韓国は0.443となっています。
韓国より先,ジニ係数が0.45を超えるエリアになると,中南米の諸国が多くなってきます。殺人発生率がべらぼうに高いホンジュラスは0.480,大国ブラジルは0.497ですか。日本に技能実習生を多く送り出しているベトナムは0.498と。
次に掲げるのは,収入ジニ係数が0.5を超える71か国です。
ほとんどが発展途上国ですね。中国が0.570,北朝鮮は0.584となっています。中国の場合,一部のエリートの占有率がものすごく大きいイメージがあります。
もうすぐ世界一の人口大国となるインドは0.744です。中央アフリカ,リベリア,ニジェールの3国はジニ係数が0.8を超えています。いつ暴動が起きてもおかしくない格差ですが,実質独裁国家に近く,強力な統制により秩序を保っているのでしょうか。
以上が,世界189か国の収入ジニ係数の一覧です。資産ではなく,収入という面での偏り(不平等)のレベルですが,国によって全然違うことがお分かりになったかと存じます。それが大きいのは発展途上国で,社会の発展につれ格差度合いは小さくなってくるのが常です。
これは税引き前の収入シェアに基づく試算で,税引き後(再分配後)でみたら,結果は違ったものになるでしょう。そうでなければいけないのですが,日本はどうですかね。税引き前だとジニ係数は0.42で要注意水準なんですが,再分配後だとどうなるか…。
冒頭で書いたように,日本の所得税制度は,富の再分配の上でそこそこ機能しているみたいなんで,希望は持てます。しかし最近では,歳入のメインは所得税ではなく消費税なんですよね。10%に税率を上げたことによるでしょう。
金持ちにも貧乏人にも同じ負荷がかかる消費税よりも,累進性のある所得税・法人税のシェアが高まる方が望ましい。富裕層の脱税がしばしばニュースになりますが,消費税アップよりも,税務署の職員増やしたほうが歳入増加につながるのではないでしょうか。企業の内部留保は上昇の一途であるとのこと。「税金は金持ちから取るべし」という原則を徹底させる余地は,まだあるように思えます。
前にも言いましたが,社会の維持存続に欠かせない少子化対策という用途なら,お金を出してもいい。こう考えるお金持ちは多いはず。富裕層に負担の傾斜をつけた,次世代育成税を導入すべしと,私は前から思っております。