ページ

2020年2月16日日曜日

アラフィフ女性が寝れないワケ

 「働くママ 3時間睡眠の厳しすぎる現実」という記事が出ています。メモ用にと,コメントなしでツイッターでシェアしたところ,RTやファボが多くつき,関心が非常に高いことがうかがわれました。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70218

 まあ「3時間睡眠」というのは,一部の悲惨なケースを切り取ったものでしょうが,日本人,とりわけ女性の睡眠時間が短いのはよく知られています。OECDの国際統計によると,2016年の日本人女性の平均睡眠時間は435分で,加盟国の中で最も短くなっています(OECD「Gender data portal 2019 Time use across the world」)。

 435分といえば7時間15分,結構寝てるじゃんと思われるでしょうが,これは全年齢層をひっくるめた数値です。ライフステージごとにみると,様相はかなり違います。全体を眺めた後は,層別にみる。これは,データ観察のイロハです。

 厚労省の『国民生活基礎調査』(2016年)に,性別・年齢層別の睡眠時間の分布表が出ています。1時間刻みの6カテゴリーと,区分がやや粗いのですが,これをもとに中央値を計算し,グラフにすると以下のようになります。


 男女とも,アラフィフに底があるV字型になっています。いろいろ役割がのしかかるゆえか,この年代は相対的に寝れないようです。

 私も今このステージなんですが,11時頃に寝て,7時前に起きるので8時間(480分)バッチリ寝ていることになります。上記グラフの軸外のようで,ちょっと申し訳ない気分になってきました…。フツーからかなり外れてるんだなと。

 女性にあっては360分(6時間)を割っています。フツーのアラフィフ女性は,6時間寝れてないわけです。晩婚・晩産化の影響で,この年代でも育児中の人が多く,早い人だと老親の介護も始まります。「ダブルケア年代」と言われる所以ですが,そうしたダブルの負担が女性(妻)に偏していることも考えられます。

 睡眠時間5時間未満の割合は,40代後半女性で13.2%,50代前半女性で13.4%です。冒頭の記事でいわれている「3時間睡眠」の人も,ネグリジブルスモールではありますまい。

 日本のアラフィフ女性が寝れないワケ…。タイトルの問いなんですが,子育て経験のある女性なら,思い当たるところが大有りでしょう。そう,早朝の弁当作りです。

 中学校までは給食がありますが,高校ではさにあらず。お昼の弁当を持たせないといけません。部活の朝練,はては遠距離の電車通学で子どもが家を早く出るとなったら,もう大変。朝5時起きで弁当をせっせと作るママさんもいることでしょう。

 その様はデータで可視化できます。早朝の時間帯に家事をしている人の割合です。子持ちの男女を,末子の学校段階で4つのグループに分け,5~6時台の各時間帯(15分刻み)の家事実施者率をグラフにすると,以下のようになります。ソースは,2016年の『社会生活基本調査』です。


 女性をみると,子どもの発達段階を上がるにつれ,早く起きて家事をしている人の率が高くなります。末子が高校生のグループ(黄色の線)をみると,5時半で3割,6時で半分近くが起きて家事をしています。弁当つくり,ないしは朝ごはんの支度でしょう。

 男性はというと,4本の折れ線は寝そべったままです。子どもが中学,高校に上がろうが変化なし。うーん,早朝の時間帯,夫はグースカ寝ている傍ら,妻だけが早起きを強いられている光景がグラフの形に表れているようで,理不尽な思いがします。

 「自分の分は自分で賄え,弁当くらいテメーで作りな」「日ごとにローテンションをする」…。こういう方針をとっている家庭の話を聞いたことがあります。高校生にもなれば,子どもにやらせるのも一つの策です。しかし,こういう家庭はほとんどないようです。


 上表は,高校生男女と,高校生の子がいる男女(夫妻)の早朝の家事実施率です。家事(≒弁当作り)をしているのは,母親だけのようです。母親だけに負荷がかかっている,ワンオペの実態が見事に表れています。

 言葉が適切か分かりませんが,わが国には夫婦の早朝格差とでも言い得る現象があるようです。

 ちなみに,海外8か国の45~54歳女性の起床時間の中央値は,以下の時間帯に含まれます。2007年のISSP調査「LeisureTime and Sports」によります。睡眠時間の設問に回答している,8か国のデータです。

 フィンランド ・・・ 6:45 ~ 6:50
 アイルランド ・・・ 8:00 ~ 8:10
 韓国 ・・・ 6:30 ~ 6:40
 メキシコ ・・・ 6:45 ~ 6:50
 ニュージーランド ・・・ 7:00 ~ 7:05
 フィリピン ・・・ 5:00 ~ 5:10
 ロシア ・・・ 7:00 ~ 7:05
 スイス ・・・ 7:00 ~ 7:05

 あいにく日本のデータはありませんが,上記の2番目のグラフから,5:45~6:00くらいではないかなと思われます。6時には,高校生の子がいる母親の半分近くが家事をしてますので。

 これを適用すると,日本のアラフィフ女性の起床時間は諸外国より早いことが分かります。大家族の世話をするためか,フィリピンだけは異様に早いですが。

 高校生の子がいる母親の苦難がデータではっきり分かるのですが,「子どもが高校に上がったら,こんな生活になるのか」と,暗澹たる気分になるママさんがおられるかもしれません。今のうちから,早朝のタスクについて話し合っておく,分担の取り決めをしておく,ということをしておいたほうがいいでしょう。

 高校には給食はありませんが,購買部や学食はあります。私は母親が病気がちだったため,高校の頃,弁当を持って行った記憶がありません,購買部で総菜パンを買い,自分の席でパクついていました。周囲をみても,文庫本を読みながらサンドイッチを頬張っている子が多かったように思います。弁当の生徒のほうが少数派だったような。

 毎日,購買部や学食だったら費用がもたないと言われるでしょうが,毎日,手の込んだ弁当を作らされるとあっては,お母さんの体力がもちません。両者を組みわせる,夫や子供に分担させる…。これをするだけでも母親の負荷はだいぶ減るはずですが,それが全くされてないことは,今回のデータから明らかです。

 厄介なことに,今はSNSで「今日の弁当はコレ!」みたいな感じで,優美さを競うようなことが流行っていて,簡素な弁当を持っていきにくいようにすらなっています。子どもの数は減ってますが,弁当プレッシャーは以前よりも増しています。

 諸外国の弁当は,非常に簡素です。「世界の弁当」といったワードでググってみられよ。「こんなんでいいの」と言いたくなる画像がわんさと出てきます。しかし異国の人にすれば,日本の弁当のほうが異常に映ります。「これを毎日作るのか」と。

 共稼ぎの夫婦が増え,時代は変わっています。お母さんにのしかかっている負荷を減らし,しょーもない競り合いみたいなことを止める時です。