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2020年3月31日火曜日

2020年3月の教員不祥事報道

 3月,2019年度も今日でおしまいです。

 今月,私がネット上で把握した教員不祥事報道は55件です。年度末であるためか,コロナショックでネジが飛んでいるのか分かりませんが,やや多くなっています。

 子どもばかり相手にして,自分にかまってくれないと,妻に暴行した中学校教員。子どもじみた事案ですが,自宅待機や在宅勤務増加により,こういう家族内の葛藤も起きてくるかもしれません。

 英語教材をネットに公開した高校教諭。休校で在宅している子ども向けにと,教材や動画をネットにアップすることもあるかと思いますが,著作権侵害には注意しましょう。市販のドリルをPDF化してアップする,丸ごと複写して配布するなどは,著作権者の利益を侵害することになるのでアウトです。
 
 不動産賃貸の副業で処分を受けた,高校の女性教諭。2億円稼ぐとはかなりのやり手ですが,公務員の営利事業従事制限規定に引っかかったようです。講演や教材執筆など,教育職にふさわしい業務を,本務にさしつかえない範囲でする分には,任命権者の許可を得ればOKなんですがね。まあ,視野を広げる意味合いでも,教員の副業をもっと解禁してもいいのではないかとは思います。社会体験研修と称して,民間企業に派遣するような「押し付け」型よりも効果ありでしょう。

 明日から新年度です。コロナの影響で,入社式や入学式をオンラインでやる所が増えていると聞きます。2020年度は,暮らしや働き方が激変する年度になりそうです。自宅仕事の私は,さして変化を感じないのですが。

 気分だけでも明るくすべく,背景を桜色に変えます。

<2020年3月の教員不祥事報道>
・女性の腕を触ったか 教諭の男逮捕(3/2,テレビ神奈川,神奈川,中男)
・中学校教諭わいせつ容疑で逮捕(3/4,NHK,愛媛,中,男,24)
・明石商野球部長らを処分 酒酔い迷惑行為で
 (3/4,神戸新聞,兵庫,高男26,38,24)
・人身事故の2教員を処分 秋田県教委
 (3/6,秋田魁新聞,秋田,特男60代,小男20代)
「子どもばかりでかまってくれない」34歳中学校教諭…妻の太ももや背中蹴り現行犯逮捕(3/9,FNN,北海道,中,男,34)
教諭「早くどかんか」 ハードルで転倒、骨折の中2に
 (3/10,朝日,福岡,中,男)
・県立高校教諭が『生徒会費666万円横領』で懲戒免職
 (3/10,MBS,兵庫,高,男,33)
・県立高校非常勤講師 万引きで逮捕(3/10,NNN,山梨,高,男,59)
・飲酒後にキス、不正受給、追い掛けた生徒転倒(3/10,神奈川新聞,神奈川,小男35:セクハラ 小男62:不正受給 中男30代:部費流用 教諭 神奈川新聞)
・女子生徒にわいせつ行為、トイレに落書き「すけべやろう」
 (3/12,毎日,千葉,わいせつ:高男54 落書き:小男47)
・小学校教師 警察の呼び出し10回無視 速度違反で走行
 (3/12,FNN,福岡,小,男,20代)
・小学校教諭を盗撮容疑で逮捕 沼津署(3/12,静岡新聞,静岡,小,男,45)
・「真剣交際だった…」妻子ある中学校教員が女子生徒と淫行の疑いで逮捕
 (3/13,瀬戸内海放送,香川,中,男,30)
・会議で暴言か小学校校長懲戒処分(3/12,NHK,鹿児島,小,男,59)
・量販店でウイスキーやTV窃盗 横浜市立小教諭を懲戒免職
 (3/13,神奈川新聞,神奈川,小,男,48)
・高校生にみだらな行為 40歳の臨時教諭を懲戒免職
 (3/14,琉球朝日,沖縄,高,男,40)
・小学校教諭、酒気帯び運転容疑で逮捕 検問で発覚
 (3/15,チバテレ,千葉,小,男,35)
・生徒に体罰 中学校教諭を戒告(3/17,NHK,岩手,中,男,43)
・府立高校の56歳女性教師が近隣住民に繰り返し暴言で書類送検
 (3/18,ABCテレビ,大阪,高,女,56)
・47歳の高校教諭 女子生徒とみだらな行為で懲戒免職
 (3/18,北海道放送,北海道,高,男,47)
・「メイド喫茶などに使った」 現金64万円着服の中学教諭懲戒免職
 (3/18,産経,千葉,中,男,28)
・女性教諭が男子生徒にキスなどわいせつ行為
 (3/189,瀬戸内海放送,岡山,中,女,20代)
・飲酒運転容疑 小学校教諭を逮捕(3/20,NHK,沖縄,小,女,48)
・信号機壊す事故起こし逃走…松本市の中学校教諭逮捕
 (3/21,NNN,長野,中,男,43)
・女子高生の体触った高校教諭、懲戒免職(3/23,産経,静岡,高,男,50代)
・27万円詐取の女性高校教諭を懲戒免職(3/23,産経,群馬,高,女,57)
・養護学校講師を免職処分(3/23,NHK,福島,特,男,26)
・少女買春で教員3人免職、埼玉 暴言などで教職員4人処分
 (3/23,東京新聞,埼玉,高男36,中男54,小男29)
横浜の高校教諭に罰金30万円 英語教材をネット無断公開
 (3/24,共同通信,神奈川,高,男,39)
・児童買春の中学校講師を懲戒免職(3/24,NHK,長野,中,男,31)
・中学生に淫行容疑で教諭逮捕(3/24,NHK,香川,中,男,51)
・岐阜農林高校バスケ部で体罰 顧問の教諭処分
 (3/24,読売,岐阜,高,男,44)
・ストーカーなどで教諭ら6人を懲戒処分(3/25,中日,福井,小,男)
・2月に2件の人身事故を起こし1人死亡 小学校教諭を停職3カ月
 (3/25,佐賀新聞,佐賀,小,女,23)
・児童の顔をたたく 校長を減給(3/26,NHK,山形,小,男,60代)
無許可で不動産賃貸を始め約2億円を稼ぐ 仙台市の女性教諭を懲戒処分
 (3/26,産経,宮城,高,女,50代)
・体罰の県立高柔道教諭らを停職処分(3/26,産経,兵庫,高,男,55)
・”わいせつ動画撮影”教諭免職(3/25,NHK,愛媛,小,男,29)
・女子生徒にみだらな行為 横浜市教委、教諭を懲戒免職
 (3/26,神奈川新聞,神奈川,高,男,28)
・勤務先の女子生徒に…36歳教師“教室で複数回キス” 52歳教師“体をマッサージ” 高校教師2人停職(3/27,東海テレビ,愛知,高,男,52)
・体罰した中学教諭を停職処分(3/27,熊本放送,熊本,中,男,56)
・教育実習生にセクハラ 30代教員を処分 福岡教育大
 (3/27,毎日,福岡,男,30代)
教諭、生徒の大学願書出し忘れ、経緯説明も受理されず
 (3/27,京都新聞,滋賀,高,男,31)
・教え子男子の耳たぶをくわえる「スキンシップの感覚だった」
 (3/27,神奈川新聞,神奈川,中,男,33)
・児童にわいせつで講師を懲戒免職(3/27,NHK,大阪,小,男,26)
・部活動引率中に飲酒 高校教諭を厳重注意
 (3/28,伊勢新聞,三重,高,男,50代)
・高校教諭が校内で飲酒運転 自損事故起こし「ショックで…」
 (3/28,毎日,新潟,高,男,40代)
・「マスク越しのキス」生徒へのわいせつ行為で36歳高校教師が懲戒処分
 (3/28,メーテレ,愛知,高,男,36)
・「朝からお姫様抱っこ」「指導されることに感謝を」支援学校の教員
 (3/29,毎日,山口,特,男)
・中学校教諭逮捕 休校期間に女子生徒を10日間連れまわしたか
 (3/30,北海道放送,北海道,中,男)
・児童買春疑いで神奈川・座間市の中学教諭逮捕
 (3/30,神奈川新聞,神奈川,中,男,33)
・体罰の小学校教諭ら2人懲戒処分
 (3/30,NHK,千葉,体罰:小男32,飲酒運転:小男35)
養護教諭を万引き容疑で逮捕(3/31,NHK,島根,小,女,31)
現金渡す約束し、みだらな行為 私立高教諭の男逮捕
 (3/31,神奈川新聞,神奈川,高,男,30)
コロナ休校中、生徒にキス 中学臨時教諭を免職
 (3/31,中日,埼玉,中,男,28)

2020年3月30日月曜日

失業の重みの国際比較

 コロナウィルス感染防止のため,週末の外出自粛が呼びかけられています。それを通し越して,不要不急の労働を禁止した国も出てきました。南欧のスペインです。

 「不要不急の労働」という言い回しは,われわれ日本人にすれば違和感がありますが,働くことをそれほど重視していないお国柄の表れでしょうか。スペインの失業率はメチャ高で2ケタはデフォルト,それでも国民は,明るい太陽を浴びながら談笑したり,寝転んだりしています。

 しかし日本はそうではありません。失業のダメージは大きく,「失業=人生終了」という向きさえあります。職を失っても命まで取られることはありませんが,自分自身で命を断つ,そう自殺してしまうのです。

 データでみても,失業と自殺は非常に強く相関しています。男性はとくにそうで,失業率と自殺率の時系列カーブを描くと,それがよく分かります。失業率とは,働く意欲のある労働力人口(15歳以上)のうち,職探しをしている完全失業者が何%かです。自殺率は,人口10万人あたりの自殺者数をいいます。前者は『労働力調査』,後者は『人口動態統計』に計算済の数値が出ています。


 戦後のおよそ70年間の経験データです。どうでしょう,気味が悪いくらいシンクロしています。90年代半ばの経済悪化期に激増し,最近の好況期では減っているのもそっくりです。

 1953~2018年の66年間のデータで相関係数を出すと,+0.8821にもなります。非常に強い相関で,失業率が分かれば自殺率をほぼ正確に言い当てられるレベルです。66年間のデータから,失業率(X)と自殺率(Y)の関係式を打ち立てると,以下のようになります。話を簡単にするため,一次式でいきましょう。

 Y=4.1843X+14.152

 Xの係数から,失業率が1%上がると自殺率が4.2上がることが知られます。人口10万人あたりの自殺者が4.2増えると。男性人口を6000万人とすると,失業率1%アップで自殺者が2520人増える計算です。2%アップで5000人,4%アップで1万人の自殺者が出る…。冷や汗が出ますが,コロナにより各地で雇い止めが起きていることを思うと,失業率2%,4%アップはあり得ない事態ではない気がします。

 失業1%の重み。われわれは「そうだろう」と感じますが,異国の人,とくに労働禁止令を出したスペインの人からすれば「?」でしょうね。

 欧州の日系企業で駐在員をしている方がツイッターで曰く,「スペインのお客さんに真顔で,どうして仕事が原因で自殺することがあるんだ?って言われたことがある」そうです。失業率が1%上がっただけで,自殺者が2500人も出るなんて,絶対に信じられないでしょう。

 上記のグラフは日本の男性のものですが,他国でも,こんな不気味な模様が出来上がるのでしょうか。私は国際統計にあたって,男性の失業率の自殺率の推移を明らかにしてみました。失業率は「ILO STAT」,自殺率はWHOの「Mortality Database」によります。

 1991~2015年の四半世紀の推移をとれました。日本とスペインのデータを並べると,以下のようになります。


 日本の失業率はマックスでも5%ほどですが,スペインは高いですねえ。上述のように2ケタがデフォルトで,最近では2割を超えています。働く意欲のある男性の5~4人の1人が失業状態であると。

 しかし自殺率のほうは,日本のほうがずっと高くなっています。観察期間中の自殺率の変動幅は,日本は20.6~38.0,スペインは10.7~13.1です。スペインの自殺率はほとんど変動なしですね。失業率は,スペインのほうが大きく揺れ動いているというのに。

 これだけでも,スペインでは失業率の変化が自殺率にほとんど影響しないことを見て取れますが,グラフでかっしりと可視化してみましょう。横軸に失業率,縦軸に自殺率をとった座標上に,両国の25年間のドットを配置すると,以下のようになります。失業と自殺の相関の日西比較です。


 は日本,はスペインのドットですが,傾向が全く違っています。

 日本は失業率が増えると自殺率も増える「正の相関」で,相関係数は+0.886にもなります。しかしスペインは無相関です。失業率が大きく揺れ動いていますが,自殺率はほぼ変化なし。失業が自殺に影響しない社会といえます。

 予想はしてましたが,ここまでハッキリ出るとは驚きです。失業のダメージがまるで違う。日本では外出自粛がせいぜいですが,スペインは労働禁止まで軽々と踏み込んでいけます。

 他の目ぼしい国についても,同じ期間のデータで,男性の失業率と自殺率の相関関係を出してみました。以下に,算出された相関係数を掲げます。いつも取り上げる7国とスペインに,世界最大の感染者が出ているイタリアも加えました。

 日本 ・・・ +0.886
 韓国 ・・・ +0.145
 アメリカ ・・・ +0.542
 イギリス ・・・ +0.611
 ドイツ ・・・ -0.238
 フランス ・・・ +0.134
 スウェーデン ・・・ +0.087
 スペイン ・・・ -0.017
 イタリア ・・・ +0.412

 失業の重みの国際比較です。予想通り,失業が最も重くのしかかるのは日本のようです。米英とイタリアも比較的高いですが,それ以外の国はほぼ無相関といってよし。

 失業したら厳しい状況に置かれる。収入が途絶えるだけでなく,周囲からも蔑視を向けられ,親戚や友人とも顔を合わせづらくなり,どんどん孤立していく…。日本では,失業は経済的にも社会的にも大きな痛手となります。

 「働かざる者食うべからず」の国で,失業者の惨めな状態を見ては,「自分はこうはなるまい」と,皆があくせく労働をしています。失業者は,スケープゴートみたいな存在です。

 しかし,そういう人が多数になってくると,話は変わってくるでしょう。みんな仲良く仕事をなくす(しない),働かない選択肢もあり。コロナという黒船の襲来により,こういう社会への変身を迫られているのが今の日本です。スペインは既にそうなっていますが。

 堀江さんの『時間革命』に書いてあった気がしますが,今の日本では,なくてもいいような仕事をしている人が結構いるんですよね。「必要かどうかも分からない,むしろ世の中の害になるようなこんな仕事,辞めてしまいたい」。こう思いつつも,失業者というレッテル貼りを恐れて続けてしまう。

 これから人口の高齢化が進み,AIも台頭してきます。長らく続いてきた価値観を払拭し,失職しても生きられる社会を目指すべきです。目下,日本はそれとは最も程遠い社会であることは,失業と自殺の相関係数(+0.8!)という数値ではっきり可視化されています。言葉を変えると,感染症に最も弱い社会です。

 「不要不急の労働を禁じる」。こういう言葉が,首脳者の口から出る国になりますように。

2020年3月28日土曜日

ヤングケアラー

 「ヤングケアラー」という言葉を聞くようになりました。家族の介護等をする子どもという意味です。

 こういう新しい存在を耳にすると,その量的規模を明らかにしたくなるのが研究者っていうもの。よく使う『社会生活基本調査』では,小・中・高校生の生活行動を調べています。これを手掛かりにしてみましょう。

 2016年の同調査によると,調査対象日に家族の介護・看護をしたという子の割合は,小学生(10歳以上)で0.2%,中学生で0.2%,高校生で0.5%です。同年5月時点の小学生は648万人,中学生は341万人,高校生は331万人(文科省『学校基本調査』)。

 抽出調査による介護・看護実施率を,悉皆調査の母数にかければ,介護・看護をしたという小・中・高校生の数が出てきます。


 2016年の『社会生活基本調査』の調査日に,家族の介護ないしは看護をした小・中・高校生の数は3万6326人と見積もられます。ほう,先日の毎日新聞に出ていた10代のヤングケアラーの推定数(3万7100人)と近いではないですか。
https://mainichi.jp/articles/20200321/k00/00m/040/131000c

 大よそ,4万人弱のヤングケアラーがいるとみてよいでしょう。

 2016年の『社会生活基本調査』によると,1日の介護・看護平均時間は,小学生で100分,中学生で29分,高校生で37分となっています(行動者平均時間)。小学生で長いのは,幼い弟や妹の世話をするからでしょうね。キャプテン翼の日向小次郎みたいに。

 晩産化により,親や祖父母の介護を任される子どもは多くなっているでしょう。共稼ぎや一人親世帯が増えていますので,下の兄弟の世話をする子も然り。ヤングケアラーの存在が注目されてきているのも解せます。

 家族のケアの経験は,子どもの人間形成の上でプラスに作用します。昔の子どもは皆やっていた,結構なことではないか。こう考える道徳起業家もいるかもしれません。しかし程度問題で,学業に支障が及ぶまでとなったら考えもの。上記の毎日新聞記事では,そういう子も少なからずいることが示されています。

 度の過ぎた家族ケアで,勉強もできぬほど疲れ切っている子はいないか。地域の人間関係が濃かった時代では,隣人が異変に気付くこともできたでしょうが,「隣は何する人ぞ」の現在では,なかなかそうもいきません。日々子どもと接する教師は,異変を察知して,行政や支援団体等につなげることが期待されます。

 児童虐待防止法5条では,教員は虐待を発見しやすい立場にいることにかんがみ,虐待とを受けたと思われる子どもを見つけた時は,速やかに児童相談所に通告しなければならない,と定められています。学業に支障が出るほどのケアを負わせるのは,酷使という意味合いで虐待ともとれます。児童虐待の原義は,子どもを異常な仕方で使役することです。「abuse=ab+use」ですので。

 逆ピラミッドの社会になるなか,下の世代に負荷がかかるようになりますが,彼らの健やかな育ちを妨げる権利は,たとえ親といえどないのです。

2020年3月26日木曜日

自信を持てない教員

 OECDの国際教員調査「TALIS 2018」の結果レポート第2弾が出たもようです。職務に対する意識やストレスが主題で,日本の教員は保護者対応にストレスを抱く傾向が強いことが報じられています。

 報告書に出ている統計表の一覧を,OECDのサイトで見ることができます。エクセルファイルでアップされており,高い順に並べるランキング化などの操作も簡単です。

 この手の国別統計表を眺めると,日本のぶっとんだ値が見つかるのが常ですが,見つけてしまいました。以下の項目に対する反応です。統計表の「Ⅱ-2-16」で見れます。

 I am satisfied with my performance in this school.

 直訳すると「自分の仕事ぶり(職務遂行能力)に満足している」でしょうか。日本の中学校教員のうち,「とてもそう思う」ないしは「そう思う」と答えた人の割合は49.0%,ほぼ半分となっています。

 「まあ,そんなものじゃないの」っていう印象ですが,他国の値はこれよりずっと高くなっています。アメリカは93.4%,イギリスは91.5%,お隣の韓国は81.5%です。データが出ている48か国のランキングは以下のごとし。


 90%を超える国が31,80%台が6で,日本だけが49.0%と段違いに低くなっています。自分の仕事ぶり(パフォーマンス)に満足している教員が,ものすごく少ない国です。

 日本の教員は頑張り屋で,子どもの学力水準も国際的に高し。ICT機器も碌になく,授業以外の雑務も多いという悪条件の中,本当に頑張っておられると思います。しかし当人たちは,「自分の仕事ぶりに満足できない」「まだまだだ」と考えているようです。

 日本人に多い「謙遜の美徳」ってやつでしょうか。年功規範もあるためか,若い層ほど,自分のパフォーマンスに否定的な教員が多くなっています。以下の図は,教員経験年数で分けた7グループごとの回答分布です。左側は日本,右側はアメリカの日米比較です。


 アメリカに比して,日本は経験年数による差が大きくなっています。日本のベテラン教員の自信は,アメリカの新米教員にも及びません。5年未満の新任教員は,6割近くが自分のパフォーマンスに満足していません。われわれの感覚では「そうだろう」ですが,他国のデータと並べてみると特異なんですね。

 謙虚,出しゃばるべからず…。こういう国民性で片付けるのは簡単ですが,それを退けても,日本の教員が自信を持てない要因はあるように思います。担わされている職務の多くが,専門の授業以外の業務であることです。

 自分のパフォーマンス,すなわち職務遂行能力に自信がないと言うとき,ここでいう「職務」って何でしょう。教員なら当然「授業」ですが,日本の教員は授業以外の雑多な業務を負わされています。

 「TALIS 2018」によると,中学校教員の週の平均勤務時間は56.0時間で,うち授業は18.0時間,授業準備は8.5時間でしかありません。残りの29.5時間(52.7%)はそれ以外の雑務ってことになります。会議,事務,保護者対応,部活指導とかでしょう。日本の教員の場合,専門性を発揮できる授業(準備)のシェアは職務全体の半分にも満たないのです。

 こういう国は特異であることを,以下の図から見取っていただいましょう。「瑞」はスウェーデン,「伯」はブラジルを指します。


 周知のとおり,日本の教員の勤務時間は世界一なんですが,その要因は授業以外の雑務の時間が長いことです。上図でみても,緑色の「その他」が幅を利かせています。授業と授業準備だけで比べたら,勤務時間は他国とほぼ同じくらいです。南米のブラジルでは,教員の仕事の95%は授業(準備)なんですね。

 仕事の多くが,専門性を発揮できる授業ではなく,事務作業,保護者対応,部活指導…。こういう状況では,自分のパフォーマンスに肯定的な感情を持つのは難しいと思われます。教えることの専門家であっても,保護者会でモンペに突き上げられたり,やったこともない競技の部活指導とかを任されたら,肯定的な感情を持てないのは当然。

 最初の統計表に戻ると,日本の教員は自身の職務遂行能力への満足感が際立って低いのですが,他国の教員は「職務」を授業と捉えているのに対し,日本の教員はその他の雑多な業務をもイメージしてしまっているからではないでしょうか。

 教員を「何でも屋」にしてしまうことは,彼らの自己肯定感を破壊してしまう恐れがあります。一斉休校で世の中が大混乱していますが,学校に教育以外の雑多な機能を負わせている「学校依存」の矛盾が露呈した結果であるともいえるでしょう。

 随所で言っていますが,学校のスリム化を図り,社会全体で子どもを育てる環境を構築すべきです。一斉休校による学校の機能停止が,それを促す契機となればと思います。教員の専門職性が明瞭になったとき,教員の自信・自尊感情も高まることでしょう。

2020年3月24日火曜日

土着公務員

 揉め事の記事を上に置いておくのは気持ち悪いので,更新しましょう。

 近代よりも前の時代では,人々の「移動(mobility)」は制約されていました。階層間のタテの移動はもちろん,地域間のヨコの移動もです。多くの人は生まれた土地を離れることなく,そこで生涯を終えていました。地域移動が制約された理由は,地域社会の運営に必要な労働力を確保するためです。

 しかし近代社会になると,建前の上では能力主義になり,地域移動も法で認められるようになりました。その度合いは時代とともに高まり,今となっては,生まれた土地でずっと過ごす人は少数派でしょう。2015年の『国勢調査』によると,私の年代(40代前半)で,出生時からずっと同じ住所に住み続けている人(土着人)は,全体の7.3%しかいません。

 移転の自由は憲法で定められた権利で,公共の福祉に反しない限り,何人もそれを制限することはできません。その結果,人口の偏在(過密・過疎)が起きているのですが,それは致し方ないことです。いや「致し方ない」ことと割り切ってはならず,生まれ育った地域への愛着を高める郷土教育が各地で実践されています。「ムラを捨てる学力」ではなく,「ムラを育てる学力」を育もうと(東井義雄氏)。

 公務員の採用試験は自治体単位で行われますが,地元民が歓迎される向きもあります。地域の暮らしを肌身で知っており,それをよくしようという熱意を持っているとみなされるからです。

 公務員のうち,ずっと地元に住んでいる人って何%くらいいるんでしょう。2015年の『国勢調査』によると,正規の公務員171万7047人のうち,出生時からずっと同じ住所に住んでいる人は14万3086人となっています。比率にすると8.3%,12人に1人です。

 この数値を都道府県別に出すと以下のようになります。各県に住んでいる公務員のうち,出生時からずっと同じ住所に住み続けている人の割合です(居住期間不詳者は分母から除外)。ここでいう公務員とは産業大分類が「公務」の人で,教員や警察官等は含みません。


 土着公務員の率の都道府県比較です。福井の22.4%から北海道の2.7%まで大きな開きがあります。福井では,県内に住んでいる公務員の4人に1人が土着人なんですね。

 全県の教員採用試験の過去問を眺めている私にすれば,さもありなんです。福井や秋田,ローカル問題が多いのですよ。県の政策文書のような資料だけでなく,県の鳥や県ゆかりの人物など,地元の人間じゃないと解けんだろっていう問題がガンガン出ます。地域に愛着をもった,地元民を求めているのでしょうか。

 元の資料では,市区町村レベルのデータも出せます。上位2位の福井と富山について,県内の市町村別の土着公務員率を出すと以下のようになります。


 高い値が出てきますね。福井県の池田町では,市内在住の公務員45人のうち,24人が土着人となっています。土着率53.3%です。南越前町は193人中90人,美浜町は170人中75人という具合です。

 これらの全てが町内の役場に勤めているとは限りませんが,職員さんには,地元を知り尽くした地元民がさぞ多いことでしょう。

 結構なこととは思いますが,地域ボスの支配,地域の暮らしの惰性に浸かって改革意欲に乏しい,住民との距離があまりに近すぎるなど,色々問題もありそうです。地域を変えるのは「よそ者,バカ者,若者」という言い回しがありますが,外部出身者も一定程度は混じっていて然るべきです。

********************

 前に拙著を買っていただいた,地方の高校の校長先生から「この春で退職します」というメールをいただきました。卒業式自粛要請はガン無視,子がいる教職員のため校長室を託児所にするなど,スゴイ先生です。

 国の一律要請に無批判に従うのではなく,自地域・学校の状況に即した対応をとる。こういう校長先生がもっと多ければな,と思います。

 退職後,長年の実践を本にまとめたり,ブログで発信したりする先生が多いと聞きます。人生100年の時代,教員の定年後の暮らしというのも,教師論の研究テーマになりそうな気がします。

2020年3月14日土曜日

人口当たりの公務員比率

 ざっくり今の日本の人口は1億2000万人,うち働く人は6500万人くらい。国民の半分ちょっとが働いて,社会を成り立たせていることになります。

 働く人の多くは民間企業勤務者で,会社の営利追及事業に従事しているのですが,それとは一線を画した「公」の仕事をしている人たちがいます。そう,公務員です。成熟社会になるにつれ,「公」の仕事の比重が増すのは道理で,これから先,公務員の役割は大きくなるでしょう。

 個々人の力量形成だけでなく,国民を下支えるするに足る人員も揃えないといけませんが,国民あたりでみて,公務員って何%くらいいるのでしょう。ILOの統計から国別のデータを作ってみましたので,それをご覧に入れます。

 私はILOサイトの「Data explorer」を使って,国別の公務員数と人口を呼び出しました。以下の統計表から,2017年の39か国のデータを得ました。公務員とは,公的部門で雇われて働いている人です。


 主な国の公務員数は,日本が610万人,韓国が241万人,アメリカが2469万人,イギリスが549万人,ドイツが627万人,スウェーデンが145万人,デンマークが87万人ほどです。

 日本はドイツよりちょっと少ないですが,人口は日本のほうがだいぶ多いですので,人口当たりの公務員比率はドイツのほうがぐっと高くなります。公務員数を人口で割ったパーセンテージは以下のようになります。


 日本は4.8%となっています。39か国中31位,下馬評通りといいますか,低いですね。先ほど挙げた主要国のすがたを,約分して示すと以下のごとし。

 日本 ・・・ 4.8% (21人に1人)
 韓国 ・・・ 4.7% (21人に1人)
 アメリカ ・・・ 7.6% (13人に1人)
 イギリス ・・・ 8.2% (12人に1人)
 ドイツ ・・・ 7.6% (13人に1人)
 スウェーデン ・・・ 14.6% (7人に1人)
 デンマーク ・・・ 15.2% (7人に1人)

 ほう,きれいに3つの段階に分けられますね。日韓は国民21人に1人,米英独は12~13人に1人,北欧の2国は7人に1人です。

 上述のように,成熟社会のステージに達している日本では,「公」の仕事がどんどん増えてきます。コロナウィリスが世間を脅かしていますが,感染症防止の政策を実行するのも公務員の仕事です。ただでさえ激務の厚労省の所轄ですが,職員さんは悲鳴を上げていることでしょう。

 奈良の公営団地で,居住者が無くなった後,別の人が無断で入居する無法地帯になっているとのことですが,市はそれを把握せず,今後も調査する気はないという意向を示しています。人員不足が影を落としているのでしょうか…。

 公務員を増やすべし。随所で,色々な識者がこう指摘していますが,国際比較のデータを引っぱり出すと,その余地はあるように思えます。ピチピチの若手だけじゃなく,ロスジェネの活用も視野に入れられるべきです。

 喜ばしいことに,ロスジェネ限定の採用試験をする自治体,国の省庁が続出してきています。不幸なロスジェネ救済だけでなく,社会を下支えるする人的基盤の強化にもなります。それを進めないと,上記の奈良の団地のような無法地帯が広がってしまうでしょう。
 
 ロスジェネのチャレンジャーの皆さん,公務員試験の情報収集や準備勉強には,実務教育出版の本をお勧めいたします。情報収集は,業界唯一の専門誌『受験ジャーナル』しかありません。

2020年3月12日木曜日

テレワークができる人の率

 コロナウィリス感染防止のため,テレワークが推奨されるようになっています。感染症防止のためとなると,国や企業も本腰を入れざるを得ず,この言葉を含む報道が,この1か月で激的に増えているように思います。

 テレワークとは,ICT機器を使って,自宅やサテライトオフィス等で勤務すことです。tele(離れた場所)とwork(働く)を合わせた言葉であるとのこと。
https://japan-telework.or.jp/tw_about-2/

 なるほど,オフィスでPCに向かい合っている人をみると,「自宅でもできそうだよなあ」と感じます。出版社に勤務する編集者などは,その典型です。仕事の大半は原稿チェックでしょうから,自宅でやってもよし。うるさい電話とかにも出ないくていいし,効率も上がりそうです。

 しかしお店で働く人や,屋外での作業に従事する人は,テレワークは不可能です。テレワーク推奨のニュースをみても,「自分たちには関係ないこと」と思っています。できることは,時差出勤を導入して,通勤ラッシュを避けることくらいです。

 働く人のうち,テレワークができる人って何%くらいなんでしょう。それを明らかにするのは容易ではありませんが,職業別の就業者数から大よその見当をつけることはできそうです。以下の表は,職業大分類の内訳です。会社や役所で働く雇用労働者で,自営やフリーランス等は含みません。


 やや古いですが,2015年10月時点の雇用労働者は4654万人です。このうち,机に座ってPCと向き合うのは,A~Cの職業の人たちでしょう。管理職,専門技術職,事務職です。これら3つの合算は1881万人で,全体の40.4%に相当します。

 4割とはスゴイと言いたいところですが,これらホワイトカラーの全てがTW可能というのではありません。この中にも現場職が多く含まれており,勤務医や学校の教員などは,テレワークは不可能です。

 上記は大雑把な職業大分類による区分ですが,細かい小分類の統計を引っ張り出して,テレワークが可能と思われる職業を拾い出す必要がありそうです。A~Cの職業の小分類を示すと以下のようになります。青色は管理職(A),白色は専門技術職(B),緑色は事務職(C)の小分類カテゴリーです。


 トータルで84の職業がありますが,テレワークが不可能とみられる職業のほうが多そうですね。建築技術者や測量技術者のような現場職,患者と接しないといけない医療関係職,保育士,学校の教員はまず不可能。事務職であっても,細かく見るとオフィスに出てこないといけない職業が多し。

 私の独断ですが,テレワークができるのは赤色の職業ではないでしょうか。2015年の『国勢調査』の職業小分類統計によると,これら34の職業に従事する雇用労働者は800万6740人で,雇用労働者全体の17.2%に該当します。およそ6人に1人です。

 この値は都道府県別に計算することもできます。各県在住の雇用労働者のうち,上表の赤字の職業(テレワーク可能な職業)に就いている人は何%か。高い順に並べたランキングは以下のごとし。


 首都圏の1都3県が上位にあります。首位の東京は24.6%で,他の3県は約2割です。

 雇用労働者の4~5人に1人が自宅で仕事をしてくれれば,最大の感染源といわれる満員電車の弊もだいぶ緩和されそうです。これは2015年のデータで,2020年現在では値はもう少し高いかもしれません。

 以上,テレワークが可能とみられる人の率の試算です。テレワーク推奨の掛け声が大きいですが,それができる人は限られているだろう,という疑問を持つ人もおられるかと思います。出てきた数値をみて,どういう感想を持たれたでしょうか。

 私としては,都市部では結構いるんだなという感想です。情報漏洩やPCのウィルス感染等には注意しないといけませんが,ぜひとも,テレワーク化は進めてほしいと思います。

 そのためにも,未来の労働者を育てる学校の情報化を進めないといけません。休校で在宅している生徒に対し,郵便で課題プリントを届けるという涙ぐましいことをしていますが,学校のサイトを使えば一発。21世紀を担う人材を育てる学校が,こんなことではいけないでしょう。

2020年3月8日日曜日

子どもの面前での夫婦喧嘩も虐待

 コロナショックの影響で,社会の至る所で機能縮小(停止)が起きています。仕事を失う人も出てきていますが,時給で働く非正規や,仕事単位の対価で暮らすフリーランスにすれば死活問題です。

 これに対し政府が何と言っているかというと,仕事を無くした非正規・フリーランスには,無利子・無担保で10万円融資してやるとのこと。融資ですので借金です。憤りの声が上がっていますが,舐めているとしか思えないです。

 講演やイベント登壇など,人と会うのを生業にしているフリーランスは,仕事のキャンセルが相次ぎ,途方に暮れていることでしょう。私は自宅仕事なんで,幸い影響はなしです(今のところは)。今日も午前中,せっせと公務員試験の過去問を解いていました。

 その中で,児童虐待の統計を扱った問題に出くわしました。児童虐待の統計といったら,児童相談所が対応した児童虐待の相談件数です。手元にあるデータをみると,1997年度では5277件でしたが,最新の2018年度では15万9838件に膨れ上がっています(厚労省『福祉行政報告例』)。少子化で子どもが減っていることを思うと,凄まじい増加です。

 これは相談件数なんで,虐待とみられる行為が児童相談所に通告される頻度が増しているためでしょう。「過去最悪」などと報じる新聞もありますが,この数が増えるのは悪いことではありません。人々の道徳意識が鋭敏になった証でもあり,喜ぶべきことともいえます。

 児童虐待防止法2条によると,児童虐待には4つの類型があります。私が解いた問題は,この4つの構成がどうなっているかを問うものでした。1997年度と2018年度の構成をグラフにすると以下のようになります。


 この20年間で構成が様変わりしています。1997年では身体的虐待が52.7%と過半数でしたが,2018年度では心理的虐待が過半数を占めるに至っています。

 心理的虐待とは,人格を傷つけるような暴言や拒絶的対応ですが,確かにこういうことをする親が増えているような気はします。しかし最も大きいのは,2004年の法改正です。この年の児童虐待防止法改正により,「児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動)」も,心理的虐待に含まれることになりました(第2条)。

 簡単にいえば,子どもの面前での激しい夫婦喧嘩も心理的虐待に当たりますよ,ということです。父親が母親を殴る,両親が口汚く罵り合う…。子どもにすれば,こんな光景を目の当たりにしたらたまったものではありません。心理的外傷につながる可能性が大です。

 2016年度の統計から,心理的虐待のうち,「暴力の目撃によるもの」が分けて集計されています。この手の事案が増えてきて,きちんと数を把握したほうがいい,という認識からでしょか。データをみると,心理的虐待(暴力の目撃)の数は多くなっています。以下の表は,2016年度と18年度の相談件数(実数)です。



 どうでしょう。心理的虐待を2つに分けた,合計5つのカテゴリーですが,心理的虐待(暴力の目撃)が最も多いではありませんか。2018年度は5万2423件で,全体(15万9838件)の32.8%,3分の1に相当します。

 虐待というと,殴る・蹴るといった身体に対する侵害が想起されますが,最も多いのは,夫婦喧嘩を見せつけられ,心理的外傷を植え付けられることなんですね。この手のタイプが,児童虐待全体の3分の1を占めると。その様を可視化しておきます。久々に,面グラフを使いましょう。



 色付きは心理的虐待のシェアで,最初の図でも見た通り,全体の過半数を占めます。点線は,そのうちの「暴力の目撃」の比重で,これだけで全体の32.8%(3分の1)を占めるのが見て取れます。

 子ども,とくに年少の子どもにあっては,家庭生活の比重が殊に高いのですが,そこでは両親と子が密に接して暮らします。子どもの前での振る舞いには,十分注意したいものです。

 コロナの影響で,自宅待機や在宅勤務(テレワーク)が増えていますが,何もしない夫が家にいることによる,妻のストレスは如何。夫の家事分担率を県別に出してみると,高い県でも2割ほど,低い県では5%ほどです。日本の場合,家庭における夫婦間の葛藤のタネは多し。
https://twitter.com/tmaita77/status/1236268095959740416

 これまでは, 長時間の通勤・勤務で夫が家にいる時間が少なく,そうしたコンフリクトは顕在しませんでしたが,コロナという黒船の到来により,そうもいかなくなりそうです。子どもの前で,つまらない渦を巻き起こさないようにしましょう。お父さんは,家事を分担しましょう。よくない言い方かもしれないですが,男性の家庭進出が進む契機になれば,しめたものです。

 「2020年はコロナの襲来により,父親が家にいることが多かった。その影響で,夫婦間の諍いが多発し,心理的虐待(暴力の目撃)の件数が激増した」「この年だけ離婚率が跳ね上がった。人呼んで,コロナ離婚という」。後世において,こんなふうに書かれたりしたら,何とも悲しいことですよね。

2020年3月7日土曜日

『速攻の教育時事』(2021年度)

 実務教育出版より,『速攻の教育時事』(2021年度試験用)が届きました。今年夏の教員採用試験対策に使っていただく本です。13日頃,書店に並ぶかと思います。
https://jitsumu.hondana.jp/book/b496693.html


 最近の教育界は目まぐるしく動いており,教員採用試験では,教育時事についても問われます。教職教養の過去問をみると,教育時事の比重が高い自治体もあり,千葉県では全問題の8割を占めています。にわかに信じがたいですが,県の条例等のローカル問題も加味すると,このような比重になります。

 本書では7つの章を立て,トータルで71のテーマについて,見開き形式で解説しています。各テーマは見開きで完結していますので,どこから読んでいただいても構いません。自分の関心あるテーマから入ってもよし,重要度が高い「★3つ」のテーマから入ってもよし…。読者の自由です。

 ただ,試験で問われるであろう,重要テーマについては大よその見当がつきますので,出題予想テーマベスト10をピックアップしています。本の裏面にそのリストを載せ,2~4ページにおいて,これら10テーマのエッセンスを簡潔に書いています。


 最も重要なのは,やはり新学習指導要領です。2017年の小・中,18年に高の新学習指導要領が公示され,今年度から小学校の新指導要領が全面実施されます。高学年に教科の外国語が導入され,プログラミング教育が必修になったのですよね。高校では,公民科の必修科目として公共ができ,新教科として理数が設けられました。

 目下進行中の,教員の働き方改革も最近の試験では頻出。2019年1月の中教審答申では,教員がこれまで担ってきた業務を,①学校以外が担うべき業務,②学校の業務だが教員が担う必要はない業務,③教員の業務だが負担軽減可能な業務,の3つに仕分けしています。「この業務は①から③のどれに当てはまるか」という問題がよく出ますので,対応でできるようにしましょう。教員として働くあなた自身のためにもなります。

 3位は教育振興基本計画。5つの政策方針を覚えておきましょう。その中の4番目に「学びのセーフティネットの構築」というのがあります。高校就学支援金や,高等教育の無償化は,こういう方針のもとに実施されることになりました。

 以上は最も重要な3テーマですが,4位以降をみても,変形労働時間制,高大接続改革など,新聞紙上を賑わせた話題ばかりですよね。まずは上記の10テーマを押さえ,徐々に学習の射程を広げていくやり方がいいかと思います。

 各テーマの学習の仕方について,簡単に申しておきましょう。以下は,「部活動ガイドライン」のテーマの見開き(56~57ページ)です。


 最初に,「ここに注目」を読んで,どういうことを押さえるべきかを知りましょう。このテーマだと,ガイドラインで言われている,休養日や活動時間の規定についてです。

 その後で,「時事の基礎知識」に入ります。重要な政策文書のエッセンスを紹介しています。このテーマだと,2018年3月にスポーツ庁が策定した「部活動ガイドライン」です。全体の骨格が分かるよう,赤字で2~3の項目を立てています。ゴチックの重要箇所を中心に,文章に目を通してください。こまめに改行して,なるべく読みやすいように配慮しています。

 最後の「論点はどこ?」では,当該テーマについてどういうことが議論されているか,国が出した政策文書に対し,どういう意見(批判)が出されているかを書いています。この部分も読んでください。政策文書の内容を頭に入れる「お勉強」だけではダメです。自分自身の考えも持たないといけません。面接において,文科省通知の内容をスラスラ暗唱してみせても,「あなたがよく勉強しているのは分かりました。では,この問題について,あなたはどう思いますか? どうすれば解決できると思いますか?」と聞かれます。それに対し,口ごもるようではアウトです。

 「論点はどこ?」の記述には,筆者である私の独断(偏見)も混じっています。これが正しいというのではありません。読者さんの考えとの比較,ないしは意見形成の材料として使っていただけたらと思います。

 以上のプロセスを71回(71テーマ分)繰り返していただければ完璧ですが,中には,試験には出ないあろうが,できれば知っておいて欲しいという程度のものも含まれています。ひとまず,重要度の低い「★1つ」のテーマはオミットし,「★3つ」「★2つ」のテーマから潰していくのがいいでしょう。

 これなら,3週間から1か月あれば,本書の学習を完結できます。タイトルにある「速攻」の看板も偽りなしです。短期間で教育時事に精通できるよう,工夫を凝らした本なのです。

 むろん,お堅い政策文書を無機質に紹介するだけという,単調なトーンにはしていません。随所にデータやグラフを挿入し,皆さんの目を楽しませるようにしています。


 上記は,「児童・生徒の暴力行為」というテーマで載せているグラフです。暴力行為の発生件数,最近では小学校が最も多いのですよね。2013年に高校を抜き,18年には中学校を上回りました。中高は減っているのに,小学校だけは増えている。暴力の低年齢化として,メディアでも報じられたところです。

 これについて,皆さんはどう思われますか。私は,幼保と小学校の接続の在り方に関わる問題とみていますが…。本テーマの「論点はどこ?」で,私の考えは書いています。本書の随所に散りばめられているデータをみて,今起きている教育現実について,思いを馳せるのも面白い。

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 教育時事に特化した本は,他社からは出ていないようで,本書が唯一のものであるようです。教育の今を知り,モグリと思われないよう知的武装をするには,本書での学習が最適であると自負します。

 本書は,教員採用試験の受験生だけでなく,最新の教育事情を知りたいという現職の先生方も手に取っていただけているようで,誠にうれしい限りです。以下のようなコメントもいただきました。


 これからも毎年刊行されていく本です。内容をさらに練り上げ,「教育時事ならコレ!」と言われる最強のコンテンツに仕上げていく所存です。読者諸氏の忌憚のないご意見をお待ちしております。

 どうぞよろしくお願いいたします。

2020年3月5日木曜日

低学年児童の母親のすがた

 今週から小・中・高校の一斉休校が始まっています。

 学校が休みになるわけですが,パワーにあふれた若き青少年が家に籠るのは苦痛らしく,電車に乗って都心に繰り出す,カラオケの密室で仲間と群れる…。学童保育は児童が殺到してぎゅうぎゅう状態。通常の学校の教室よりも,ずっとハイリスクなんじゃないかと思います。

 それではと,「学童保育に学校の施設(教室)を使っていい」というお達しも出ましたが,いったい何のための休校なのやら。

 一斉休校の影響で,世の中の歯車も狂いだしています。小学校低学年の子がいる労働力(主に母親)が自宅に釘付けになり,出勤できなくなっているからです。診療を縮小する病院,登園自粛を求める幼稚園・保育園も出てきました。ゆえに,就学前の乳幼児を持つ親も自宅に縛られ,その分の労働力が減り,社会の随所で機能不全が起きています。

 一斉休校を決めた為政者は,小さな子がいる世帯として,「父正社員+母主婦」という伝統家族をイメージしていたのでしょうが,今はそういう世帯は少数派です。

 データで,小学校低学年の子がいる年代の母親のすがたをみてみましょうか。年齢は30代と考えるのが普通でしょうが,晩産化が進んでいるので,40代前半までを射程に据えましょう。私は2015年の『国勢調査』をもとに,子がいる核家族世帯で暮らす,30~44歳の女性の労働力状態を明らかにしました(労働力統計の01400表。「夫婦+子」ないしは一人親世帯の女性で,3世代世帯は含みません。

 以下の表は,労働力状態が分かる766万人の内訳表です。就業者は,従事している産業(A~T)別にしています。


 低学年の子がいる年代のママのすがたです。全体の3割が非労働力(≒主婦)で,67.9%が仕事をしている就業者(A~T)となっています。今では,働いているお母さんがマジョリティです。

 どういう産業で働いているかをみると,最も多いのは医療・福祉で,その次は卸売・小売業となっています。後者の多くは,お店の店員さんでしょう。医療・福祉は,看護師,保育士,介護士等が多いとみられます。

 低学年の子がいる年代のママの15.8%(6人に1人)が医療・福祉産業で働いているのですが,この労働力(実数で121万人)が自宅に釘付けとなったら痛い。診療を縮小する病院,休園する保育園も出てくるはずです。

 上記は全国データですが,地域差があります。同じデータを47都道府県別に作ると,分布がかなり違っています。非労働力(主婦)の割合は,私が住んでいる神奈川では35.5%ですが,福井では17.3%しかいません。

 人の命を預かる医療・福祉産業で働いているママの率も,地域によって違っています。子がいる核家族世帯の35~44歳女性のうち,この産業で働く人は何%か。全国値は15.8%ですが,47都道府県を高い順に並べると以下のようになります。


 上位には地方県が多くなっています。高知は26.0%,島根は25.5%と,4人に1人が医療・福祉産業で働いています。高齢化が進んでいるので,さもありなんです。

 ただこれは,35~44歳女性の中でのシェアです。県の医療・福祉産業従事者に占める割合にするとどうか。一斉休校によって,県の医療・福祉産業従事者の何%が喪失する恐れがあるか? こういう問いを立ててみましょう。

 2015年の『国勢調査』によると,全国の医療・福祉産業従事者は702万3950人です。このうち,子ありの核家族世帯の35~44歳女性は120万6455人(最初の表)。前者に占める後者の割合は,17.2%となります。以下の表は,この数値の都道府県ランキングです。


 どうでしょう。左上の上位県では,医療・福祉産業従事者の5人に1人が,子がいる核家族世帯の35~44歳女性です。

 今回の一斉休校で自宅に縛られる可能性が高い人たちですが,県内の医療・福祉従事者の5人に1人がごっそりいなくなったら大変なこと。県内の医療が崩壊し,最悪死人が出る事態にもなるでしょう。上記の表は,この恐れを数値化したものとも読めます。

 私はここ数日,ツイッターでこの種のデータを発信し続けているのですが,これを見てくださった首長さんもいるようです。真偽は定かでないですが。
https://twitter.com/Yauchi/status/1235202670777913346

 栃木県茂木町が一斉休校を取りやめる決断をしたことで注目されていますが,町長さんはその理由を「共働き世帯率が高いこと」と説明しています。きちんとデータを参照したのでしょうね。

 これからやろうとする政策で,困る人がどれほど出てくるか? 自分の経験や感覚だけに依拠するのではなく,データをみてほしいと願います。一斉休校が報じられた時,「共働き世帯のことを全然考えてない」という批判が噴出しましたが,政策を決めた為政者の頭の中には,「父正社員+母主婦」という伝統的家族像しかなかったのでしょう。休校にしても,家にはお母さんがいるから大丈夫と。

 今はネットで調べものをする人が多いでしょうが,このブログが,そういう方々のお役に立てればと思います。

 栃木県茂木町の町長さんのように,自分の市区町村の共働き世帯率を知りたい,という要望もあるかと思います。後ほど,低学年の子がいる年代のママの就業率を市区町村別に出し,そのエクセルファイルをnoteにアップしようと考えています。*アップしました。
https://note.com/tmaita77/n/n95cd79ff93b8

2020年3月2日月曜日

日本女性学習財団連載終了

 3月になり,暦の上では春になりました。コロナウィリスも怖いですが,私の場合,花粉で目がかゆくなるので,辛い季節です。

 日本女性学習財団機関誌『ウィラーン』の連載「データをジェンダーの視点で読み解く」ですが,今月号で終了となります。今日の午後,最終回の原稿が載った,2020年3月号が届きました。
https://www.jawe2011.jp/welearn

 2018年4月より,毎月の号に駄文を載せていただきました。見開き形式で,図表を3つ掲げ,日本社会のジェンダー構造を様々な角度から浮き彫りにするものです。当初は1年間の約束だったのですが,思いのほか好評とのことで,2018~19年度の2年間,続けさせていただきました。

 トータルで22回原稿を書いたことになり,送られてきた冊子も22冊です。


 狭い机の上なので,重ねて並べましたが,平面上にて時系列で接合させると,各号の円がつながるという,ユニークな設計になっています。

 書き連ねてきた,22回の原稿タイトルの一覧を掲げます。別のブログで整理してますので,そのスクショでご容赦ください。


 リケジョ,就業率,災害死者数,収入差,健康,生涯学習,政治,大学進学,キャリア,学校,創造性…。各号のテーマに沿ったジェンダー統計を準備し,それについて文章を書かせていただきました。

 私が手掛けたことのない分野についてはいささか難儀しましたが,編集者氏が「こういうデータはどうですか」と助言くださり,大いに助かりました。おかげで視界が広がったようにも思います。「災害・防災とジェンダー」というテーマもあるというのは,私にとって開眼でした。

 私はジェンダーは専門でなく,依頼された仕事を全うできるか不安でした。案の定,作ったデータの解釈や考察にいろいろ抜けが出たのですが,編集者氏の懇切なサポートのおかげで,無事に乗り切ることができました。

 2018年度は伯野朋絵氏,19年度は池田和嘉子氏にお相手いただきました。文章のねじれの修正はむろん,データの元資料まで当たって間違いを指摘してくださる徹底ぶりで,「これが編集者だよなあ」と思わされました。どこぞのウェブ誌の悪質編集者とは大違いです。

 池田氏は,大学院博士課程まで終えておられる学者肌の人です。奇遇にも,2004年の社会教育学会の学会誌に,私と一緒に論文を載せておられ,「同じ畑じゃないですか」と笑い合いました。

 学習事業課の黒澤あずさ氏,係長の田村雅子氏も,私の原稿にお目通しいただき,編集会議で意見を出してくださったことと存じます。記して感謝申し上げます。

 財団理事長の村松泰子先生にも,ご指導をいただきました。村松先生はわが母校・東京学芸大学の前学長で,私が学部時代,ジェンダー論を習った先生です。連載の依頼をいただいた時,財団のHPの理事長名に先生のお名前があり,「うわあ,懐かしいなあ」と声に出してしまいました。2018年の12月に,22年ぶりにお会いでき感激でした。

 連載期間中,毎月送られてくる『ウィラーン』をめくるのも楽しみでした。研究者による研究レポートのほか,各地の旬の実践,映画や文献の紹介など,賑やかで楽しませてくれる構成になっています。私の連載だけ場違いのようにも感じましたが,「ちょっとの間,スパイスを加えるのもいいだろう」という,編集部の意向だったのでしょうか。

 ジェンダーの最先端を,楽しく・分かりやすく紹介してくれる冊子です。1952(昭和27)年から続いている,伝統ある月刊誌。今後の継続・発展をお祈りします。