連休が明けました。通勤電車が思ったより混んでいるというツイートが多いですが,「3密」電車での通勤を強いられる人が多いようです。これなら,無闇な自粛を続けていても意味なし。緊急事態宣言とやらは部分解除し,適度に経済循環を復活させてほしいです。
コロナの影響で「巣ごもり」生活が続いています。そのおかげで,出生数が増えるのではと言う予測もありますが,どうでしょう。いや,家計が逼迫している世帯が多くなってますので,現実は逆になるでしょうね。昨年は「96万人ショック」と騒がれましたが,今年はどうなることやら。
少子化は今に始まったことではなく,その最大の要因が未婚化であるのはよく知られています。婚外子が少なく,結婚と出産がリンクした日本ではなおのこと。ただ,どういう人が未婚に留まりやすいかは,統計にハッキリ出ています。男性の場合は,低所得層です。年収別の未婚率のカーブを描くと,年収階層を上がるほど未婚率が下がる,右下がりの傾向が出てきます。
女性は逆で,バリバリ稼ぐキャリアウーマンほど未婚率が高くなっています。学歴別でみても,高学歴層ほど率は高し,ちょっと古いですが,2010年の『国勢調査』のデータで計算すると,40代前半の大学・大学院卒女性の未婚者率は19.8%で,高卒女性の15.0%より高くなっています(配偶関係不詳は分母から除外)。
社人研の『出生動向基本調査』のデータかと思いますが,女性の場合,高学歴層ほど,結婚相手に高年収を求める傾向が強し。このご時世,それに応えられる男性が多いはずもありません。また,男性から敬遠されてしまう可能性もあります。地方の田舎では,そういう傾向が強いでしょう。
地域の違いの話が出ましたが,高学歴女性の未婚率には地域差があります。未婚率は,家族形成のしやすさの指標ですが,家族解体に晒される頻度も,地域によって異なるようです。47都道府県別の数値を出したところ,「おや」という事実が出てきましたので,ブログに記録することとします。高学歴女性の「生きづらさ」には,地域性があるのです。
私は,自分と同じ40代前半の大学・大学院卒女性を取り出し,未婚者率と離別者率を県別に計算しました。前者は未婚のままでとどまっている人,後者は夫と別れ,今は独身でいる人の率です。計算式は以下です。
未婚者率=未婚者数/(総数-配偶関係不詳者数)
離別者率=離別者数/(有配偶者数+離別者数)
離別者率は,結婚経験のある有配偶者と離別者の合算を分母にしています。結婚経験のある女性のうち,夫と別れて独り身でいる人は何%か,と読んでください。
以下に掲げるのは,結果の一覧表です。右端の大学・大学院卒率は,40代前半女性のうち,大学・大学院卒の人が何%かという参考情報です。学歴不詳者を分母から抜いてパーセンテージを出しました。
赤字は上位15位の数値です。高学歴女性の未婚者率,離別者率とも,高いエリアが北と南に割れています。九州は赤いですねえ。未婚者率は,軒並み2割を越えています。
上述のように,高学歴女性は結婚相手の男性に高い年収を求める傾向がありますが,それに応えられる男性が少ないためでしょう。鹿児島の若年未婚男性の所得中央値は244万円で,300万円稼ぐ男性に会えたら御の字であることが分かります。
ただ,東京や大阪といった大都市でも未婚率が高いことから,それだけではありますまい。女性の場合,結婚するとガシガシ稼ぐのが困難になりますが,築いてきたものが多い高学歴女性にあっては,結婚の損失を考える人が多し,保育所が足りず,共稼ぎが容易でない都市部ではなおさらです。地方では共稼ぎが多いですが,家事分担のジェンダー差が大きいこともあり,女性は「仕事・家事・ケア」のトリプルの負荷が課されます。高い自己実現欲求と,家庭生活の両立の困難。高学歴女性をして,結婚を思いとどまらせる材料は多し。
以上は本人の意志に関わることですが,男性から敬遠されることも,なきにしもあらず。上表の赤字の分布をみたとき,「男尊女卑のカルチャーと関連していそうだな」という印象を持った人もいるでしょう。私が中学(鹿児島)の時,数学がバリバリできる女子生徒が,教師から「お前,嫁のもらい手がなくなるぞ」と冷やかされていました。家庭を持ったら持ったで,夫婦間の葛藤が起きやすいのか,高学歴女性の離別者率も高くなっています。九州の県では。
地域性を可視化すべく,上表の未婚者率のデータを地図化しておきます。20%を超える県に色をつけたマップです。
高学歴女性が未婚にとどまる率に,こんなにも明瞭な地域性が出ることを見取ってください。ここでは掲げませんが,離別者率の地図も,似たような模様になります。
九州は大卒に限らず,女性の未婚率は高いのでは,という疑問もあるかもしれません。ある層のデータを観察する場合,当該の層だけを切り取るのはよくありません。ですが私の郷里の鹿児島でみると,40代前半女性の未婚者率は,高卒で15.7%,大学・大学院卒で23.9%と,差が大きくなっています。全県中の順位は,前者は10位ですが,後者は5位です。お隣の宮崎は,順に19位,7位となっています。
九州は,未婚が高学歴層に偏している可能性がありですね。その様を「見える化」してみましょうか。横軸に大学・大学院卒女性の未婚率,縦軸に大学・大学院卒と高卒の差分をとった座標上に,47都道府県を配置したグラフです。
横軸は高学歴女性の未婚率の絶対水準,縦軸は高卒と比した相対水準です。右上は両方とも高い県なんですが,九州の8県が見事に位置しています。高学歴女性の未婚率が高く,かつ女性の未婚が高学歴層に偏している,ということです。
九州県の男女共同参画政策関係者の方は,どういう感想を持たれるでしょうか。高学歴女性の要求に見合うよう,男性の所得アップを図る,女性がキャリア断絶をしなくていいよう,保育園を増設するなど,共稼ぎがしやすい環境を作る…。こういうことを思いつかれるでしょうか。
それもいいですが,九州の県は所得が低いこともあってか,都市部に比して共稼ぎ世帯の率は高くなっています(保育園の枠も相対的に多し)。そうでないとやっていけない現実もありますので。結構なことと思われるかもしれませんが,そうした二馬力スタイルは,女性が「仕事・家事・育児」のトリプルを負わされることで成り立っているように思います。家族葛藤も起きやすいであろうことは,高学歴女性の離婚率の高さにも出ています。
「女性のフルタイム就業率が高い,めでたしめでたし」ではなく,二馬力夫婦の生活の内実を子細に点検してみる必要がありそうです。高学歴女性の生きづらさに,ここまで明瞭な地域性があるとなると,地域の文化の次元まで問題は根を下ろしていると考えたほうがよさそうです。
最初の表の右端をみると,九州の県では女性の大学・大学院卒率が低くなっています。大学進学率が低いからですが,都会の大学で学んだ女子がUターンを忌避していることは考えられないか。大学で教えていた時,「都会の大学でジェンダー論を本腰入れて学んだ女子は,田舎に帰るのを嫌がる。初年次教育でジェンダー論を必修にしたら,学生のUターン率下がりそうだよね」と,知り合いの先生と笑い合ったことがあります。
地方創生が目指されていますが,都会の若者の背中を押すだけでなく,受け入れる地方の側の文化も変革しないといけません。今回のデータをみると,地方創生を阻む要因としては後者が大きいのでは,という思いすら抱きます。
これから先,女性の高学歴化がますます進みます。高学歴女性が生きにくい,戻ってきにくい地域は,衰退するほかありません。