地方にとって,都会に出た若者のどれほどが帰ってくるかは重大な関心事です。
しかるに,そういう統計はありません。地方創生に関わる重要な資料だと思うのですが,現実を明らかにできず,前からもどかしい思いでいます。ですが,『国勢調査』の人口移動統計を丹念に眺めていたら,大よその近似値をはじき出せることを知りました。試算の結果をご覧に入れようと思います。
青森県の男性を例に,計算方法を説明します。2010年の『国勢調査』によると,同年10月時点の20歳の東京都民(男性)のうち,5年前の15歳時に青森県に住んでいたという人は397人です。青森から上京してきた人です。
この世代は5年後の2015年に25歳となります。2015年の25歳の青森県民(男性)で,5年前の20歳時に東京に住んでいたという人は126人。この数は,東京から戻ってきた人の近似数と読めます(東京からのIターン,Jターンは非常に少ないと仮定します)。
20歳と25歳の時点の統計を手掛かりにすると,1990年生まれの青森出身の男性で上京した人は397人,うち郷里に戻った人は126人と見積もられます。よってUターン率は,後者を前者で割って31.7%となる次第です。およそ3人に1人ですね。
これは青森県の男性の試算値ですが,同じやり方にて,東北6県の上京者のUターン率を出すと,以下のようになります。ジェンダー差もみるため,男女で分けます。aは上京者,bはUターン者の仮定値です。
どうでしょう。2~3割という数値が並んでますが,東北から上京した人のUターン率の見積もり値です。宮城の男性は半分が帰ってくるみたいですが,地方中枢県のため,雇用が比較的多いからでしょうか。
しかし女子になると,仙台市を擁する宮城といえど,Uターン率は34.0%までダウンします。男性との差は16.1ポイントにもなります。表によると,東北の6県は全て,東京に出た若者のUターン率は,「男子>女子」であるようです。
他の地方県はどうでしょう。以下の表は,同じやり方で出した,39道県の上京者のUターン率です。埼玉,千葉,神奈川,愛知,京都,大阪,兵庫の7府県は,東京からのI・Jターン者が多いとみられるので,分析対象から除いてます。
最高値に黄色,最低値に青色マークを付しました。
最も高いのは,滋賀で男性は89.4%,女性は67.4%にもなります。にわかに信じがたいですが,分子に東京からのI・Jターン者が多く含まれている可能性があります。この県も除くべきだったかもしれません。
最も低いのは,男性は秋田,女性は福井です。秋田の男性は25.4%,福井の女性は17.1%しか戻ってきません。子どもの学力上位の常連県ですが,上京した子は,東京で高度専門職に就き,そのまま帰らないのでしょうか。地元には,自分の能力を活かせそうな仕事も少ないし…と。
性差をみると,最初にみた東北6県と同じく,男性が女性より高い県が大半です。都会に出た若者のUターン率は,女子より男子で高い,男子のほうが戻ってくる。これは,ある程度の普遍則といえそうですね。
この点については,思い当たるところがあります。大学に出入りしていた頃,「都会の大学でジェンダーを学んだ女子学生は,田舎に帰るのを嫌がる」という話を,ある先生から聞きました。「初年次教育でジェンダー論を必修にしたら,学生のUターン率下がるんじゃないですか」と笑い合いました。
悪い冗談のように思えますが,こういう現実もあるかもしれないです。生まれ育った地で,親や周囲から言い聞かされたことは間違いだったのではないか。大学の授業で開眼した女子が,偏狭な文化が残る地元に帰るのをためらうのは分かります。
治部れんげ氏も,ヤフー個人ニュースの記事にて,地元に戻ってくる者の率のジェンダー差を問題にされています。若者回復率(20代の転入超過数/10代の転出超過数)の性差に危機感を持ち,ジェンダーギャップの解消に取り組み始めた,兵庫県豊岡市の例が紹介されています。
最後の方で「若者回復率を性別で見るべし,男性は戻っているのに女性は戻ってないとしたら,その数字を正面から見据えよ」と書かれてますが,私も同じことを申したいと思います。
子を産む女性が戻ってこないのは,地域の存続にも関わること。それをもたらしているのは,仕事がないとか,娯楽がないとかではなく,地域のジェンダー文化である可能性も否定できないのです。とくに女子にあっては。
しかし,10代の転出と20代の転入を照らし合わせる「若者回復率」っていう指標は初耳です。これは,市町村レベルで出せそうです。後で,出してみようと思います。