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2020年9月2日水曜日

賃貸共同住宅の空き部屋率

  日本は人口減少の局面に入っており,これからどんどん萎んできます。1年間の人口減少は50万人ほどで,あともうちょっとしたら1年で100万人減る時代になります。毎年,千葉市くらいの政令市がごっそり消えるのです。

 その一方で,人を入れるハコ(住宅)は増え続けています。私は夕刻,ウォーキングをするのですが,建設中の住宅をちらほら見かけます。海沿いに3軒並んで一戸建てを建てているのですが,津波が来たら一発じゃないですかね…。

 日本人の新築嗜好は強し。数か月前,あるファミリー(父母,子3人)が,マイホームを建てて,隣のアパートを出ていきました。先日,ママさんと会って立ち話をしたのですが,「アパーの家賃の3倍のローン(12万円)を毎月払わねばならず,死ぬ思いです」と言ってました。

 見た所,結構大きな家なんで3000万円くらいでしょうか。月12万返済だと,20年かかる計算ですね。お金の面でがんじがらめにされるだけではなく,転居も制約されます。私のように気が移ろいやすく,かつ色々トラブルを起こす人間には,家を建てるというのはマイナスでしかありません。そもそもお金もないですけど。

 人口減少の時代だというのに,新しい住宅が雨後の筍のように建つ。その様をデータで可視化すると,以下のようになります。住宅数は『住宅土地統計』でしか分かりませんので,この調査の実施年(5年おき)のデータを拾っています。

 戦後初期の1953年からの推移です。人口は増え続けますが,2008年をピークにもう減少の局面に入っています。

 住宅数はというと,戦後にかけて人口を上回る速度で増加しています。戦争で多数の家が焼かれてしまいましたので,「住」の供給は政府にとって至上命題でしたからね。しかし,人口が減り始めた最近でも増え続けています。2008年は5759万,2013年は6063万,2018年は6241万と,過去最高です。

 2008年から2018年の10年間で,人口は1.3%減りましたが,住宅は8.4%増加です(右欄の指数)。今後,この乖離はますます大きくなるでしょう。

 なぜこうなっているか。新築嗜好は昔も同じだったはずで,人口減少時代での住宅増加を上手く説明できません。考えられる要因は一つ,そう賃貸住宅(アパート,マンション)の増加です。家族サイズの縮小(単身化)もあり,1ルームのような狭小物件への需要が増していますし,土地の相続税対策としてアパートを建てる地主も増えていると聞きます。

 しかし,そもそも借り手となる人間の数が減ってますので,賃貸経営も楽ではない。この辺のアパートも空き部屋が多く,何とか埋めようと家賃を下げまくっています。部屋2つ,風呂・トイレセパレートで5万未満の物件がゴロゴロあります。交通の便が悪いのが原因ですが,私のような自宅仕事の自営業にはありがたい限りです。とはいえ勤め人にはキツイのか,なかなか借り手がつかない。

 賃貸アパートやマンションの空き部屋率,どれくらいなのでしょう。そこらの不動産屋がやった調査データは色々あるんでしょうが,官庁統計でカッシリした数値を出したい。

 『住宅土地統計』の時系列統計(上記リンク先)に,共同住宅の借家数(a)と,賃貸用共同住宅の空き家数(b)が出ています。aは,居住世帯がある共同住宅借家です。両者の合算が賃貸の共同住宅の数で,これに占めるbの割合が,賃貸の共同住宅(アパート・マンション)の空き部屋率になります。

 以下の表は,双方のデータがとれる1998年からの推移です。


 ここ20年間の傾向ですが,両方とも増え続けています。aは1ルーム等に住まう単身世帯の増加,bは節税目的でのアパートの建てすぎによるのではないでしょうか。賃貸共同住宅の空き部屋数は,この20年間で275万から378万と,100万以上も増えています。

 右端の空き部屋率をみると,大よそ2割弱で動いてきています。空き部屋は増えていますが,賃貸共同住宅全体(分母)も同じくらいのペースで増えてますので,率に変化はないみたいです。

 賃貸アパート・マンションの部屋の2割が空き部屋。これは全国値で,地域による違いもあります。同じやり方で47都道府県の賃貸住宅の空き部屋率を計算し,高い順に並べると以下のようになります。1998年と2008年のランキングの対比です。


 この20年間の空き部屋率は,全国値では17.3%から18.5%の微増にとどまりますが,都道府県別にみると状況の深刻化がみてとれます。

 5%刻みで色分けしてますが,不穏な色が垂れてきています。2018年では25の府県で20%,8の県で25%を超えています。最近の栃木や山梨では,賃貸部屋の3分の1が埋まっていないと。厳しいですね。私が住んでいるエリアでも,こんな感じかなと思います。もっと降りて市区町村レベルでみると,4割,5割という数値が出てくるかもしれません。

 東京のような大都市はまだマシですが,地方での賃貸経営は厳しい。しかし,さら地の土地は地方に多く,これだと税金をガッポリとられるので,アパートを建てよう。業者にそそのかされ,こういう考えに傾いてしまう地主が多し。某県の田舎で,レオパレスのあの無機質なアパートが次々と建つ「レオパレス銀座」がテレビでやってましたが,あんな感じです。

 空き部屋でも,業者が一括で借り上げてくれるサブリース契約なるものもありますが,空きの期間が長くなると,「家賃下げます」と言われます。拒否すると,「じゃあ契約打ち切りです」と言われ,手元には借金だけが残る。よく言われる,賃貸オーナーの悲惨な末路です。

 需要もないのに,アパートなんかを建てるのは,①自然破壊,②景観悪化,③犯罪の温床になる,という実害が生じます。こんな行動に地主を掻き立てるなら,さら地から高い税金をとるなんて,いっそ止めたほうがいい。ないしは税金免除の対象を,子どもの遊び場や保育所など,社会性のある用途への土地供与に限るといい。

 2番目の表によると,既に378万もの賃貸アパート・マンションの空き部屋があります。横浜市の人口と同じくらいです。その一方で,住居に困っている人は数多くいます。コロナの影響で失職し,家賃を払えなくなり,「住」を失った人もいます。行政が家賃を補助する形で,使われないでいる378万もの空き部屋(住資源)を活用すべし。家主にとっても生活困窮者にとってもメリットありです。社会全体にしても,路上生活者の増加によるデメリットを補って余りありです。

 これから先は,人口減少時代です。こういう時代にあって,住宅の乱築などはしないほうがよろしい。なすべきは,既存のハコの活用です。うまくデータベース化し,供給と需要をリンクさせれば,「住」に困る人なんていなくなるはずです。前にニューズウィーク記事でも書きましたが,空き家が増えすぎて,「タダでいいから,ハウスキーパーとして住んでくれ」と頼まれる時代が来ると私は見込んでいます。