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2020年9月18日金曜日

奨学金利用増と未婚化

 歯止めがかからない未婚化ですが,その一因として,奨学金の利用増加があるのではないか。私は前からこう思っていて,ツイッターでそれをつぶやいたらバズリました。同じ思いの人は多いんだなと。

 突拍子もない仮説に思えるかもしれませんが,借金のある人との結婚には,誰しも及び腰になるでしょう。

 「新婚早々,夫が消費者金融で200万円の借金を抱えていることが判明した。離婚できるか?」。こんな相談事例が弁護士ドットコムの記事で紹介されていますが,消費者金融を「日本学生支援機構」に変えてみたらどうでしょう。「新婚早々,夫が奨学金200万円借りていることが判明した」。今時,こんなのはザラにあると思いますが,いかがでしょうか。それくらい,奨学金という名の借金を抱えている若者が多くなっているのです。

 ツイッターでは,当てずっぽうの奨学金利用率のグラフを出しましたが,きちんと当局の統計に当たって,奨学金利用率をより正確に出してみましょう。文科省のHPに,奨学金の貸与を受けている高等教育機関の学生数が出ています。高等教育機関の全学生数は,同省の『学校基本調査』で分かります。

 1998年と2017年について,高等教育機関の学生数と,そのうち奨学金を貸与されている学生数を表にすると以下のようです。高等教育機関とは,大学,短大,高専,専修学校専門課程をいいます。


 学生数は390万人から373万人に減っています。「?」と思われるかもしれませんが,これは,短大生と専修学校生が減っているからです。4大生に限ったら,進学率の上昇により増えています。

 奨学金の利用者数はといえば,1998年の50万人から2017年の134万人に膨れ上がっています。全学生数に占める割合(利用率)は,1998年が12.8%,2017年が35.9%です。無利子(1種)と有利子(2種)の構成も変わっていて,以前は無利子が多かったのですが,今では逆転しています。

 私の頃は,奨学金利用率は1割ちょいで,多くが無利子だったのですが,今では学生の3人に1人が奨学金を借りていて,その6割が有利子であると。いやはや,この20年間で変わったものです。奨学金の利用は増えていて,よくないことに有利子化も進んでいます。

 しかるに,あくまで学生の中での話であって,同世代全体でみたら奨学金という借金をする子はそれほどの量にならないのでは? こんな疑問もあるかと思います。ですがね,今となっては,同世代の多くが高校より上の高等教育機関に進学します。18歳人口ベースの高等教育進学率(浪人込み)は,1998年にして68.3%で,2017年では80.3%にもなります(文科省『学校基本調査』)。

 同世代ベースの奨学金利用率も出してみましょう。1998年だと,同世代中の68.3%が高等教育機関の学生ですので,上記の表の数値を使うと,以下のようになります。

 無利子 = 68.3 ×(39/390)= 6.8%
 有利子 = 68.3 ×(11/390)= 1.9%

 なるほど,微々たるものといえるかもしれません。しかし2017年では様相が変わっています。以下の図は,同世代中の学生比率,奨学金利用者率を面積グラフで視覚化したものです。


 どうでしょう。2017年では,同世代の8割が学生で,29.1%が奨学金を借り,17.8%が有利子のローンまがいの借金をしていることが分かります。

 同世代ベースの奨学金利用率は29.1%,およそ3人に1人。在学中の借入額で多いのは,200~300万円ほど。結婚しようという相手が多額の借金を抱えていることなんて,珍しくも何ともないのです。

 当の若者をそれを知ってか,婚活イベントでは,「奨学金,いくら借りてます?」が定番の質問なのだそうです。正直に話すと婚姻に至らないので,借金を隠し,後でそれが発覚する。「新婚早々,夫が奨学金200万円借りていることが判明した」。繰り返しますが,こんなのはザラのはず。

 若者の未来を広げるはずの奨学金が,実際は彼らをがんじがらめにし,果ては未婚化・少子化にもつながっているとしたら,何とも皮肉なことですよね。上のグラフのとおり,同世代ベースで見ても,奨学金を借りている者の率は高いのです。若者の3人に1人が数百万円の借金(有利子)を背負っている。これが,結婚の足かせにならないなどと考えられるでしょうか。

 高等教育の機会を多くの若者に開くのはよいですが,当人に借金を負わせること(私費負担)でそれを進めると,当人の人生を狂わせると同時に,社会全体にとっても逆機能となります。残念ですが,今の日本は,こういう病に陥っていると診断せざるを得ません。私費依存の教育拡張の逆機能です。

 教育を受けることは権利であり,機会の均等を保障する術の中核は奨学金。この原点に立ち返り,真の給付型の奨学金(スカラシップ)を増設すべきです。それができないというなら,現行の貸与型奨学金は素直に「学生ローン」と名乗るべし。この点については,ニューズウィーク記事でも書きました。

 今は3人に1人ですが,若者が4割,いや半分が数百万円の借金を負って社会に出るのが当たり前になったりしたら,大変なことです。未婚化はますます進み,経済的徴兵なども蔓延るようになるでしょう。既にその兆候は出ていて,近年,「**すれば奨学金返済免除」という類の政策をよく聞きます。

 教育は当人や国の可能性を開くものですが,現状では,その逆に機能している。社会病理学を専攻する者の端くれとして,こういう診断結果をお出ししておこうと存じます。