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2021年1月31日日曜日

予備校生数の変化,性別構成

  1月も今日でおしまいです。月末恒例の教員不祥事報道の整理かなと思われるでしょうが,教員不祥事報道整理は,しばらく休止させていただきます。

 教員がわいせつをしただの,体罰をしただの,こういう記事ばかり集めていると,気が滅入ってきます。「教員 逮捕」といった語で頻繁に検索しているので,私のPCの検索エンジンには犯罪関係の記事ばかり出てくるようになり,気分が悪くなってきます。

 こういうわけで,長らく続けてきた教員不祥事報道整理は休止させていただこうと思った次第です。「研修の資料作りの参考になります」と言って下さった教育委員会の関係者もおられますが,どうかご寛恕ください。気が向いたら,また再開するかもしれませぬ。

 さて,ツイッターでこぼしていますが,独り身が辛くなってきました。とくに夜です。寂しさを紛らわせようと,今月14日,横須賀中央のヤマダ電機で液晶テレビを買いました。NHKを流して,賑やかさを醸し出しています。NHKの受信契約もちゃんとしました。地上波オンリーなので,1日40円ほどです。

 昨日の夜,試験の歴史についてやっていました。80年代の予備校講師の年収は1000万円超がザラだったそうです。受験競争が激しく,需要があったからでしょう。対して今はどうかというと,「個人教師,塾・予備校講師」の推定平均年収は394万円(2019年,『賃金構造基本統計』)。いやはや,変わったものです。

 少子化で顧客が減っているためです。予備校は淘汰されていて,その様は予備校の生徒数の推移で可視化できます。資料は文科省『学校基本調査』です。予備校は学校制度の上では,専修学校ないしは各種学校に属します。受験・補習を行う専修学校と,学科分類が予備校という各種学校の生徒数を合算した数を,予備校の生徒数とみなします。

 1990年から2020年現在までの30年間の推移は以下のごとし。変化の性格を捉えるため,18歳人口と4年制大学入学者数の推移も添えます。3つの指標は値の水準が違うので,1990年の数を100とした指数でみます。


 青色は予備校生数の指数カーブですが,急坂を転げ落ちるように減っています。実数でいうと,1990年は19万5060人でしたが,2000年には10万人を割り,2020年現在では3万4682人にまで減じています。この30年間で8割減ったことになりますね。

 少子化で顧客が減っているためですが,緑色の18歳人口の減少よりも,予備校の生徒数の減少スピードは速くなっています。大学進学率の上昇により,大学入学者数は増えていることを思うと,大学受験を志す生徒の予備校利用率も下がっているとみられます。

 1990年と2020年の予備校生徒数と,大学入学者数を対比してみましょう。

(a)予備校生徒数:
 1990年=19万5060人
 2020年=3万4682人

(b)大学入学者数:
 1990年=49万2340人
 2020年=63万5003人

 aをbで割った数が,大学受験生の予備校利用率に類する指標ととれます。割り算をすると,1990年は0.396,2020年は0.055となります。ざっくり言うと,受験生の予備校利用率は1990年では4割でしたが,2020年は5.5%であると。5人に2人から,18人に1人に変わったと。

 予備校淘汰の原因は,少子化による顧客減はもちろんですが,受験生の予備校離れもあるようです。大学受験競争も緩和されてきていますしね。AOや推薦入試の比重も増しています。ちなみに大学入学者の現役生比率は,1990年が63.4%,2014年が83.9%となっています。浪人経由者は減っています。関係者には酷ですが,予備校離れを支持する事実は数多し。

 失職した予備校講師の中には,教員免許を取りに大学に入り直し,教員採用試験に挑む人もいると聞きます。授業技術に長けた専門人材は,採用側にしても歓迎したいところです。いつでも学び直し,方向転換をすることができる…。コロナ禍で失職する人が増えている今,こういう社会の実現が望まれると強く思います。

 日本の公務員比率は低いので,「公」の世界が受け皿になるべきでしょう。何度も言いますが,成熟社会では「公」の仕事の比重が増してきます。

 あと一点,予備校生徒の性別構成に触れておきます。上述のように,1990年の予備校生徒は19万5060人,2020年は3万4682人です。これを性別に分けてグラフにすると,以下のようになります。


 予備校生の激減は知ってましたが,生徒の性別構成がこんなに偏っているとは初めて知りました。女子比は1990年が18.5%,2020年が28.0%です。

 女子が圧倒的に少ないのは,「女子は浪人させられない,婚期が遅れる」といった親の思い故かもしれません。女子はリスクをおかして,高い所を目指させてもらえない。ライフチャンスの性差,中西祐子教授がいう「ジェンダー・トラック」は,予備校生の組成からも透けて見えるようです。

2021年1月21日木曜日

年収が増えた職業,減った職業

  社会は,その成員が一定の役割を果たすことで成り立っています。具体的にいうと,職業に就いて仕事をすることです。

 職業は無数にありますが,その重要度,遂行の困難性,また当該職業に就くのに必要な金銭的・時間的コストなどに基づき,収入に傾斜がつけられています。お給料が高い仕事もあれば,そうでない仕事もあると。「どうでもいいクソ仕事(ブルシットジョブ)」の給料が高く,社会に必要不可欠なエッセンシャルワークの給料が低いという理不尽な現実もありますが,それは置いておきます。

 職業別の収入は色々な官庁統計で明らかにできますが,最も細かい職業分類のデータを得るなら,厚労省の『賃金構造基本統計』です。10人以上の事業所に勤める一般労働者の月収,年間賞与額を129の職業別に知れます。

 先日,2010年と2019年の推定年収の比較をもとに,年収が上がった職業と下がった職業のリストを作成しました。ツイッターで発信したらウケましたので,より詳しい情報も添えて,ブログにも載せておくことにします。

 上記の資料から年収を出す場合,「きまって支給する月収」を12倍した額に,年間賞与額を足して算出します。2019年の保育士だと,月収は24.45万円,年間賞与額は70.06万円ですので,推定年収は363.5万円となる次第です。

 私はこのやり方で,129の職業の推定年収を,2010年と2019年のデータで計算しました。2019年の年収が2010年の何倍になったか。この倍率が上位20位の職業を掲げると,以下のようです。


 年収が増えた職業のリストです。この10年ほどの伸び率の首位は,パイロットです。1136万円から1695万円へと,およそ1.5倍の増加です。ただでさえ年収が多い職業ですが,近年の伸びも大きく,他の職業を引き離しています。今年はコロナの影響で,高級業界が大打撃を被ってますので,落ち込んでいると思われますが…。

 全体的にみて,現業系,ガテン系の仕事の給料が上がっています。建築や解体の需要の高まりで,これらの仕事の職人が重宝されるようになっているのでしょう。高齢者の足としてのニーズが増しているのか,タクシー運転手の給料も増えています。

 出版不況の時代ですが,記者の稼ぎも増えているのですね。一見信じがたいですが,弱小出版社が淘汰されて,稼ぎのいい大手だけが生き残っているためでしょうか。『国勢調査』の詳細職業集計によると,記者・編集者の数は,2010年の8万5050人から,2015年の7万8730人へと減っています。

 次に,右端の増加率が低い20の職業です。いずれも1.0未満,すなわちこの10年ほどで稼ぎが減じた職業です。


 大学経営が厳しさを増しているためか,大学教授と講師の年収はちょっと下がっています。ここでは示しませんが,規模別にみると差があって,従業員数が少ない小規模大学ほど,教授の年収の減少率が高くなっています。大学格差も進行しているようです。
https://twitter.com/tmaita77/status/1350272444913774592

 今やコンビニより多いといわれる歯科医師も,需要以上の量産のツケか,年収が下がっています。

 注目は一番下で,この10年間の年収の減りが最も大きい3つの職業は,見事に「士業」で占められています。公認会計士,社会保険労務士,そして弁護士です。弁護士は1271万円から729万円,4割以上の減です。何とも笑えない現実で,ツイッターでこれをみた弁護士さんからは落胆の声も聞かれました。

 以上は,「2019年/2010年」の倍率が上位20位,下位20位の職業ですが,他も含めた129職業の布置図も掲げておきます。横軸に2019年の年収,縦軸に「2019年/2010年」の倍率をとった二次元座標に,各職業のドットを配置した図です。


 縦軸によると,この10年間で年収が増えた職業が大半です(1.0以上)。エッセンシャルワークでありながら薄給といわれる保育士や介護福祉士も若干増えています。2019年の年収は保育士が363万円,福祉施設介助員が347万円。「こんなに高い?」と思われるかもしれませんが,公立の園や施設を含むからでしょう。

 悲しいかな,弁護士は縦軸の上では最も下にあります。2010年から19年にかけて年収は4割減,最も収入が減った職業です。ツイッターで現役の弁護士さんが口をそろえて言ってますが,背景には,弁護士が増えすぎていることがあるようです。あちこちに法科大学院ができていますしね。

 日弁連HPの統計資料から,弁護士の数の長期推移を描くと以下のようになります。


 1990年代初頭の大学院重点化政策により,行き場のない博士が増えたのは知られていますが,法曹の世界では,2002年に「法曹3000人計画」というのが策定されたそうです。このおかげで弁護士をはじめとした法曹が増え始め,質の低下や就職難が起きていると。

 なるほど,グラフをみると2002年以後,増加の速度が上がっているように見えます。この記事では2010年と2019年の年収比較をしたのですが,この期間にかけて,弁護士は2万8789人から4万1118人と,1.5倍ほどに増えています。こうした量的変化が稼ぎに影響していることは,想像に容易いです。

 ただ今の時代,弁護士さんの力を必要としている人は多いはずで,たとえば生活保護の申請同行などは,これから爆発的に需要が増えるでしょう。ネット誹謗中傷が社会問題化していますが,発信者情報開示請求なんかも然り。こういう業務を安価でやってくれる弁護士さんが増えてくれると,市民としても助かります。

 あとは高齢化の進行による,終活関連の業務です(財産管理,遺言,相続…)。東京の大手法律事務所から,弁護士が一人もいない過疎地に転居し,この手の業務をこなし,住民から愛されている若手弁護士のニュースがあります。
https://www.ktv.jp/news/feature/20201216-2/ 

 「一人ぼっちの人の力になりたい」。いいこと言いますね。私もぼっちですが,こうやって寄り添ってくれる弁護士さんの存在は心強いです。こういう思いの人は,田舎にはたくさんいるでしょう。

 しかし弁護士は都会に多く,田舎には少ないのが現実。『国勢調査』から,各都道府県に住んでいる法曹の数が分かりますが,全国値を100とした%にして,高い順に並べると以下のようになります。


 法曹の3割近くは東京の居住者で,赤字の上位5位の都府県で全体の56%が占められています。人口当たりの数にすると,東京は10万人あたり62人ですが,高知はたった3人です。うーん,住民の高齢化率を考えると,上述の「終活」関連業務は地方のほうがニーズありそうな感じもしますが…。

 住んでみるところを変えるだけで,自身の存在意義の感じ方が大きく変わるかもしれません。過疎地に移住した,上記の若手弁護士さんが好例です。コロナ禍の今,弁護士さんも東京脱出,地方移住の波に乗ってみてはいかがでしょうか。

2021年1月17日日曜日

九州の高学歴女性

  未婚化が進んでいますが,どういう人が未婚の状態にとどまっているかを知らないといけません。

 身も蓋もない言い方ですが,男性の場合は,低学歴・低収入といった不利な属性の人です。この2つはきれいに相関するというのではなく,私みたいに学歴は博士卒,しかし収入は並以下という,ちぐはぐな人もいます。後者が仇となってか,私は44歳の今でも未婚です。定職に就いてない,多額の借金(奨学金)がある,という要素もありますが。

 しかし女性にあっては,この定理は当てはまりません。30~40代の男女有業者を学歴別に分け,未婚者のパーセンテージを計算し,折れ線グラフにすると以下のようになります。2017年の『就業構造基本調査』のデータを加工して作成しました。


 男性は低学歴層が高い傾向です。中卒は34.4%,高卒は32.2%,大卒は27.5%となります。院卒になるとちょっと上がりますが,私のような高学歴ワーキングプアが多くなるからでしょうか。

 対して女性は反対で,学歴が上がるほど未婚率が高くなります。高卒は21.2%,大卒は24.5%,院卒は37.3%,4割近くです。①学のある女性は敬遠される,②相手の男性への要求水準が高くなる,③結婚で失うものが多くなる,という事情が考えられます。

 ③については聞いたことがありますね。大学院博士課程を終え,大学の専任教員のポストを得た女性研究者が,結婚相手の実家に挨拶に行ったところ,「仕事を止めることを視野に入れてほしい」と言われたそうです。研究者のポストを得るのに,どれほど苦労したと心得ているのか…。アメリカだったら裁判を起こされるのではないでしょうか。

 できる女性の未婚率は高くなる。今となってはよく知られていますが,地域による違いもあります。30~40代女性全体の未婚率と,同年齢の大学・大学院卒の女性の未婚率を,東京と鹿児島について出すと以下のようです。やや古いですが,2010年の『国勢調査』によります。配偶関係不詳は分母から除いて計算した数値です。

 ①:30~40代女性全体の未婚率
  東京=29.4% 鹿児島=21.5%

 ②:30~40代の大学・大学院卒女性の未婚率
  東京=30.7% 鹿児島=30.3%

 東京でも鹿児島でも,高学歴女性の未婚率のほうが高くなっています。しかしその差は鹿児島で大きく,東京では1.3ポイントですが,鹿児島では8.7ポイントもの開きがあります。

 そういえば中学のとき,いましたねえ。数学がバリバリできる女子生徒で,教師から「お前,嫁のもらい手が無くなるぞ」とからかわれていました。郷里のことを悪く言うのではないですが,土地柄のようなものもあるかもしれません。

 上記の①と②を,47都道府県すべてについて出してみました。結果を視覚的なグラフで表しましょう。横軸に②,縦軸に②と①の差分をとった座標上に,47の都道府県を配置しました。前者は高学歴女性の未婚率の絶対水準,縦軸は全女性と比した相対水準です。


 どうでしょう。右上は,大卒女性の未婚率が高く,かつ全女性との差も大きい県です。なんとなんと,沖縄を筆頭に,九州の全県がこのゾーンに位置しています。九州では,高学歴女性は結婚しにくい。こんなことが言えそうです。

 学のある女性への眼差しの地域性といいますか,疎まれる,失うものが多い…。こういうことを意識して,都会の大学をでた女性が郷里に戻ってこないとしたら,大きな損失です。前に,若年女性の回復率という指標を県別に計算しました。同一コーホートの10代前半と20代後半の女性人口の対比です。九州の県でこの値が軒並み低い傾向はありませんでしたが,高学歴女性に限ると,話は違うかもしれません。

 ちなみに上図の縦軸,すなわち大卒女性の結婚のしにくさは,各県の女子生徒の大学進学率と相関しています。どういう傾向かは察しがつくかと存じます。下図は,今年春の女子の4年制大学進学率(18歳人口ベース,浪人込み)との相関図です。大学進学率の計算方法については,こちらの記事をご覧ください。


 横軸は,大学・大学院卒女性の未婚率が,全女性より何ポイント高いかです(30~40代のデータ)。すなわち,高学歴女性の結婚のしにくさの指標です。図をみると,この数値が高い県ほど,女子の大学進学率が低い傾向にあります。相関係数は-0.648で,統計的に有意です。

 右下は,大卒女性の未婚率が相対的に高く,かつ18歳女子の大学進学率が低い県ですが,福岡を除く九州の県が見事に固まっています。横軸は今から10年以上前のデータでタイムラグがあるとはいえ,偶然にしてはできすぎています。

 高学歴女性への偏狭な眼差し…。地域に漂うこうしたクライメイトを意識し,女子生徒の進路展望から大学進学が外れているとしたら,問題であるといえましょう。2015年でしたか,鹿児島県の知事が「三角関数を女子に教えて何になる」と発言し,猛バッシングを浴びました。あれから5年以上経過しましたが,状況が変わっていることを切に願うばかりです。

 昨年(2020年)の『国勢調査』では,学歴も調査項目に入れられ,大学と大学院は分けてきかれました。大学院卒の女性に限ったら,ここでみた傾向はもっとクリアーかもしれません。いや,そんなことがあってはなりません。

 先日,「高学歴Uターン女子が田舎で経験した男尊女卑」という記事を見かけました。ズバリ,結論部で次のように言われています。「なぜ若者が東京や大阪に出たっきり帰らないか,女は子どもを産む道具だくらいに考えている経営者がたくさんいるからですよ」。

 ここで出したデータの背景が垣間見られます。女子,とりわけ高学歴女子のUターンを阻んでいるのは,仕事がないという事情だけでなく,地域の偏狭な文化である可能性も否定できないのです。それが地域の存続を脅かしていることは,言うまでもありません。

 こうした問題が,特定の地方に集中しているのではないか。データを添えて,注意を喚起しておこうと思った次第です。

2021年1月10日日曜日

15~64歳の何%が学生か?

  ある社会において,教育がどれほど普及しているかは,国民の在学率で計測されます。学校で学んでいる人のパーセンテージです。

 今の日本は高校進学率95%超,大学進学率50%超の社会ですので,世界でもトップレベルでしょう。「日本は教育大国」という評価も定着しています。

 しかしこれは,20代前半くらいまでの子ども・若者を切り取った話であって,もっと広い年齢のスパンでみたら,全く違った様相が浮かびあがってきます。ツイッターにて,15~64歳人口のうち,学校で学んでいる学生は何%かを国別に出し,ランキングにした表を発信しました。「目から鱗!」と,注目を集めています。「どうやって計算したのですか?」という質問がきましたので,ここにて回答をいたしましょう。

 まず日本の数値は,2017年の『就業構造基本調査』から計算しました。リンク先の「表00201」に,年齢層別の人口と在学者数が出ています。15~64歳人口を5つの層に分け,ベース人口と在学者数を整理すると,以下のようになります。年齢階層の区分は,後で使う国際統計に揃えています。


 10代後半をみると,599万人のうち545万人(91.1%)が学生です。高校,大学,専修学校等で学んでいる人たちでしょう。20代前半の学生比率は4割弱。しかしその後ガクンと落ち,20代後半では2.7%,30代では0.6%,40~64歳では0.1%と,地を這う形になります。

 5つの年齢層の人口と在学者を合算し,15~64歳人口の在学者率を出すと,赤字の通り10.8%となる次第です。

 次に,日本以外の国の数値です。OECDの「Education at a Glance 2020」という資料に,上表の年齢層ごとの在学者比率が出ています(2018年,表B1-1)。これを同年の各年齢層人口にかけて,学生数を算出しました。2018年の年齢層別人口は,国際連合の人口推計資料から得ました。

 以下は,アメリカとスウェーデンのデータです。


 日本と違って,25歳以降でも学生割合が高いですね。30代の学生比率をみると,日本ではわずか0.6%ですが,アメリカでは6.6%,スウェーデンでは16.4%です。北欧のスウェーデンでは,30代でも2割弱が学生であると。生涯学習の先進国,さもありなんです。

 人口に在学率をかけ,各年齢層の学生数を出し合算すると,アメリカは3403万人,スウェーデンは129万人となります。15~64歳人口に占める割合は,前者が15.9%,後者が20.8%です(赤字)。

 両国とも,先ほどはじき出した日本の10.8%より高くなっています。子ども期に限ると日本のほうが高いのですが,成人期以降だと日本は地を這う推移になり,大きく水を開けられるためです。

 もっと国を増やした中で,日本の数値を位置付けるとどうなるか。日本以外の国については,上記のアメリカ・スウェーデンと同じやり方にて,15~64歳の学生比率を計算しました。データが得られた37か国を高い順に並べると、以下のようになります。昨日,ツイッターで発信した表です。


 23.2%から9.4%までの分布幅ですが,日本の10.8%は下から3番目となっています。成人期までを射程に入れると,日本は教育大国でないことが知られます。教育機会が人生初期(子供期・青年期)に集中していて,それ以後,学校に戻って学ぶのが難しいからです。

 最初の2つの表から,学生の25歳以上比率を計算すると,以下のようになります。

 日本= 32/817 =3.9%
 アメリカ= 802/403 =23.6%
 スウェーデン= 56/129 =43.2%

 日本はたった3.9%ですが,アメリカは23.6%,スウェーデンは43.2%にもなります。国民の年齢構成をみると,日本が最も高齢化が進んでいるにもかかわらず,学校で学んでいる人の大半は子ども・若者です。これはいかにもおかしい。

 「子供期 → 教育期 → 引退期」という直線的なライフコースが支配的で,厄介なことに,3つのステージにふさわしい年齢幅も固定されています。社会の変化が速く,大人といえど学び直しを迫られ,かつ少子高齢化が進む中,これではいけないことは明白です。高齢期を「引退期」としてだけ過ごすのは,経済的にも心理的にも不可能です。

 大学のキャンパスの中は,社会全体の縮図にならないといけません。リカレント教育を推進しないといけません。

2021年1月5日火曜日

孤独者1000万人?

  私は単身者で会社勤めでもなく,地域づきあいもしませんので,生活のほぼ全部を1人で過ごしています。家族,職場,地域という縁から隔絶されているわけです。会話の仕方も忘れそうです。

 若い頃は平気でしたが,40代半ばにさしかかり,こういう状況がキツくなっていることはツイッターでつぶやき,昨年の総括記事でも書きました。これではいけない,まずは地域での人間関係をちょっとでも築こうという意図から,夕刻のウォーキングでは自分から挨拶をする頻度を増やし,市のウォーキングクラブの行事にも参加しようと思っています。

 孤独というのは,物理的に1人でいる「孤立」とは区別されます。独り身であっても,人間関係が豊かで「自分は独りぼっちではない」と思っている人は孤独ではありません。孤独とは,あらゆる人間関係の縁から隔絶されていて,「自分は独りだ」と自覚を持っていることでしょう。これはヤバい状態で,英国では孤独対策の省も設けられています。

 孤独な人はどれほどいるか。これを測るのは容易でないですが,内閣府の『満足度・生活の質に関する調査』(2020年)の調査票を眺めてみると,問19にて,「困った時,頼れる家族や友人がいない」という項目に当てはまるか否かを訊いています。「困っても頼れる人はいない,やはり自分は独りだ」と思っていることになりますので,この項目に当てはまる人のパーセンテージに注目するのもいいでしょう。

 調査対象15歳以上の国民1万5574人で,サンプル数は十分です。この人たちを男女,10歳刻みの年齢層に分け,「困った時,頼れる家族や友人がいない」という人の率を計算しました(個票データの加工による)。以下の図は,結果をグラフにしたものです。


 どの年齢層でも,女性より男性で高くなっています。男性は,加齢とともに上昇し,40代で14.9%,50代で16.7%とピークを迎えます。50代の男性では,6人に1人が孤独に近い状態にあると。

 うーん,自殺率や餓死率のピークと一致していますね。自殺とは孤独の病とは,よく言ったものです。飽食の国・ニッポンにおいて,餓死に追い込まれるというのも,社会関係資本が乏しいからに他なりません。

 仕事一辺倒の中高年男性の居場所は会社。ひとたびそこを切られると,途端にあらゆる関係から隔絶されます。「金の切れ目が縁の切れ目」ってことで家族を失い,地域に人間関係もないので,孤独のリスクが非常に高くなる。ワークライフバランスが歪であるのは,危ういことだと思います。

 上記のパーセンテージを使って,各年齢層の孤独者数の近似値を出してみましょうか。2020年10月時点の各年齢層の人口に,上図の比率をかけてみます。さあ,どうなるか。


 男性の40代は137万人,50代は139万人と,100万人越です。男女の全年齢層を合算すると985万人,およそ1000万人です。本記事のタイトルのごとく,頼れる人がいない孤独者1000万人?です。人口の1割弱,スゴイですね。

 家族や友人に頼れる人がいない,しからば第三者が手を差し伸べなければならず,今後はそういうサービスへの需要が増すでしょう。たとえば,賃貸契約の緊急連絡先代行です。最近は,連帯保証人は立てなくてもいいと言われますが,緊急連絡先は必須です。それを代行する会社もあるようで,私も近い将来,お世話になるかもしれません。

 日本はこれまで,助け合いは「私」依存でしたが,「公」の比重も高めていかないとなりますまい。

2021年1月1日金曜日

韓国の高齢者の自殺率

 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

 昨年は,自殺統計を頻繁にいじった年でした。コロナ禍の影響を可視化するためです。性別・年齢層別の分析をすることにより,コロナが社会のどの層に影を落としているのかも見て取れました。

 日本だけではなく他国はどうかも見たいのですが,国際統計の場合,月別の細かいデータは得られません。公表されているのは年単位のデータです。WHOサイトにデータベースがあるのですが,久々にのぞいてみたらリニューアルされていました。以前よりも使い勝手がよくなっています。

 「World Health Data Platform」というもので,代表的な統計指標がアルファベット順に掲げられています。自殺率は,suicide rateです。各国の年齢構成を影響を除いた自殺率は,頭に「Age-standardized」がつきます。

 年明けから物騒ですが,自殺率の国際比較をやってみましょうか。年齢調整自殺率の最新年次は国によって違いますが,2015年だと,多くの国のデータがとれます(183か国)。この年の自殺者数が,国民10万人あたりでみて何人かです。日本だと,2015年の年齢調整自殺率は15.1となっています。15年前の2000年は18.8でしたので,3.7ポイントの減です。世紀の変わり目は,平成不況のどん底で大変でしたからね。私の世代は,この時期に大学を卒業したロスジェネです。

 183か国のデータがありますので,それを視覚的に表現してみます。2015年の自殺率はいくらか,2000~15年にかけて何ポイント伸びたか,でみてみます。前者は近年の絶対水準,後者は過去と比した相対水準(伸び幅)です。横軸に前者,縦軸に後者をとった座標上に,各国を配置すると以下のようになります。


 横軸をみると,2015年の自殺率は南半球の発展途上国やいくつかの旧共産圏で高くなっています。日本は183か国中26位で高い部類です。欧米の主要国よりも自殺率が高し。

 縦軸によると,今世紀になってからの15年間で自殺率が低下した国が多くを占めます(138か国)。しかし上がっている国もあり,アメリカは3.2ポイント,お隣の韓国は7.2ポイントの伸びです。韓国の2015年の自殺率は21.4で,183か国中9位,過去15年間の伸び幅は最も大きくなっています。

 最近,「ヘル朝鮮」という言葉をよく聞きますが,韓国は大変な状況になっているようです。よく言われるのは若者の就職難で,国内の一流企業に就職するには,一流大学卒で海外留学経験が必須であるとのこと。日本なんかを鼻で笑う,超競争社会です。

 しからば韓国の自殺率を年齢層別にみた時,若者の自殺率が高いのでしょうか。上記のWHOデータベースから,各国の年齢層別の自殺率も呼び出せます。男女で分けることも可能です。日本を含む主要7か国の自殺率の年齢カーブを描くと,以下のようになります。


 韓国のピンク色の折れ線をみると「!」ですね。この国では,高齢男性の自殺率がべらぼうに高くなっています。韓国の高齢層の自殺率が高いのは知っていましたが,性差が非常に大きいのは発見です。

 儒教社会の韓国では,子が老親の面倒をみるという慣行が続いてきましたが,近年,それが急速に崩れつつあります。その一方で,年金等の社会保障は未整備で,生活苦にあえぐ高齢者が多くなっています。前にニューズウィーク記事で書きましたが,韓国の高齢者の貧困率はダントツで高くなっています。男性の場合,さらに孤独という要因が加わりがちです。

 高齢者を家族が養うべきという意識が韓国社会で弱まっていることは,データで示せます。先ほど取り上げた7か国の国民に,「高齢者の世話は誰がすべきか」を問うてみると,以下の図のような回答分布になります。


 日本を含め,「家族がすべし」という回答が幅をきかせています。北欧のスウェーデンでは,84.1%の人が「国がすべし」と答えています。さすがは福祉国家ですが,注目なのは,この回答比率が次に大きいのは韓国なのです(54.1%)。

 変わっている国民の意識と,現実の社会保障制度の落差。上記は2012年の意識調査ですが,最近では,意識と制度のラグがもっと開いている可能性もあります。韓国の高齢層の苦悩の源泉が垣間見られます。最初のグラフで,韓国の自殺率は主要国でトップで,過去からの伸び幅も大きいことを知りましたが,その原因は,高齢層の生活状況悪化にあるとみられます。

 海を隔てた異国の話と,他人事のように思ってはいけないでしょう。日本でも,高齢者福祉の「公」志向は強まることはあれ,その逆はないはず。何度も言っていますが,成熟社会では「公」の仕事の比重が増してきます。それに携わる公務員を増員し,きたる超高齢社会に備えないとなりますまい。労働者の公務員比率は,北欧では半分近くですが,日本では1割ほど。変革の余地は多分にあると,前から思っています。

 今の韓国の状況は,我が国の近未来への警告と取るべきかと思います。