ページ

2021年2月8日月曜日

自尊心のジェンダー差

  やっと寒さの峠を越えてきました。いかがお過ごしでしょうか。

 コロナ禍で辛い思いをしている人が多いですが,日本人は他人に助けを求めるのが苦手です。経済停止により失業者や自殺者が増えているにもかかわらず,生活保護受給者はフラットのまま。ツイッターで繰り返し流していますが,こんなグラフができるのは日本だけではないでしょうか。

 前の記事で書きましたが,日本人は「他人に迷惑をかけるな」と言い聞かされて育っています。私も,子どもの頃,親や教師から繰り返し言われた覚えがあり,道徳の副教材にもこういうことが書いてあったと記憶します。もっともらしいことですが,他国ではそうじゃないのですよね。

 ある方がツイッターで言われてますが,「他人に迷惑をかけるな」と言われて育つと,自分を大切にできなくなります。なるほど,日本人の自尊心が低いのはよく知られていますが,背景要因として,こういうことがあるのかもしれないな,と思いました。

 子どもの自尊心のデータは,これまでいじり尽くしてきました。たとえば,「今の自分が好きだ」という子の割合は,学年を上がるにつれ減少してきます。国立青少年教育振興機構の『青少年の体験活動調査』(2016年)によると,小4では62.0%ですが,高2では38.0%まで下がります。

 小さい頃は,これまでできなかったことができるようになり,褒められることが多いのですが,学年を上がると,学業成績の細かな序列の中に組み込まれるからでしょう。親からも,小言を言われる頻度が増してきます。親から褒められる頻度も,学年進行とともに下がってきます。

 これは今まで何度も書いてきたことですが,ジェンダーの視点を据えると,新たな見方も出てきます。男子と女子に分けて,「今の自分が好きだ」の肯定率の学年変化をグラフにすると,以下のようになります。


 男子も女子も,学年を上がるにつれ自尊心が下がってきますが,そのスピードは女子の方が大きくなっています。小4ではわずかに「男子<女子」だったのが,小5から逆転し,中2では12.1ポイント,高2では8.4ポイント男子のほうが高くなります。

 上述の「他人に迷惑をかけるな」もそうですが,女子は男子にも増していろいろ「枠づけ」も多く,周囲からの期待と現実の自分のギャップを意識し,自尊心を砕かれる度合いが高いのかもしれません。

 10代の自尊心が「男子>女子」であるのは,普遍的ではないようです。以下は,国立青少年教育振興機構『高校生の心と体の健康の意識調査』の国際比較データです。言い回しがちょっと違いますが,「自分は価値のある人間だ」の肯定率です(高校生)。


 どの国も男子が女子より高いですが,10ポイントという明瞭な差が出ているのは日本だけですね。男女を問わず,日本の生徒の自尊心が他国より段違いに低いのも問題ですが,世間からの眼差し(期待)の性差が日本では大きいのではないか,という懸念も持たれます。

 世間からの期待の中には,いわゆる容姿に関わるものもあるでしょう。何が美とされるかは時代によって違い,ふっくらが美とされた時代もありましたが,今の日本では「ほっそり(痩せ)」が美とみなされています。思春期の女子はこれを意識し,無理なダイエットなどに走り,度を過ぎた痩せ(痩身)に陥ってしまう子も多し。

 データで見ても,日本の女子生徒は体格を気にしているようです。高校生女子の51.9%が「自分は太っている方だ」と思い,76.8%が「体格に不満だ」と答えています(国立青少年教育振興機構,前掲調査)。この数値は他国と比して高いのです。


 調査の元資料をみれば分かりますが,体重の上では,日本の女子生徒が最も痩せています。45.3%が体重50キロ未満です(米国は17.1%)。身長も考慮したBMIでみても,日本の生徒が痩せているのは明らか。

 自尊心の性差がから話を始めましたが,日本の女子青年が,社会からの(要らぬ)眼差しを意識して辛い思いをしているのではないか,ということが示唆されます。

 詳細は,ニューズウィーク記事に書きました。国際比較をすると,さもありなんと日頃思っていることが,正当性を欠く「呪縛」のように見えてくることがしばしばです。