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自己紹介文

 以下の文章は,『週刊読書人』2011年2月18日号に書かせていただいたものです。だいぶ前のものですが,自己紹介の文章ということで,ここに掲載いたします。

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 私は,教育学を勉強している一学徒です。大学院博士課程を修了後,いくつかの私立大学で非常勤講師をしています。その傍らで,いろいろな研究(文筆)活動を独自に行っています。この欄に登場するのは,文学や芸術等の分野で大なり小なり名を挙げた,私と同世代くらいの方が多いようですが,私にはそういう功績はございません。今やっていることの話でもしようかと思います。

 私は,教育学を勉強しているのですが,書物の山に埋もれて,「教育はかくあるべし」というようなことを考えているのではありません(少しはしますが)。かといって,学校などに積極的に出向いて,現場に立脚したアクション・リサーチをやっているのでもありません。私がしていることは,統計を使って,さまざまな教育現実を冷徹に記述することです。子どもの学力が地域間でどう違うか,どういう階層から非行少年が多く出ているかなどを,既存統計を使って,できるだけ精密に明らかにすることを試みています。

 最近,『47都道府県の子どもたち』,『47都道府県の青年たち』という書物を武蔵野大学出版会より出しました。私は地方出身だからよく分かるのですが,子どもや青年の状況は県によって異なります。そうした地域的差異を明らかにし,各県の政策立案に役立てていただこう,という意図を持った仕事です。統計をとってみると,肥満や近視など,子どもの発育に問題がみられる県,非行や不登校などの逸脱行動が多発している県,過労や失業など,青年の職場環境の歪みが顕著である県など,さまざまなタイプが明らかになりました。

 これらの書物は,全国の多くの図書館に所蔵されています。昨年の12月にはブログ「データえっせい」を開設し,独自に明らかにした統計的事象を発信していく活動も始めました。本稿を書かせていただく機会を得たのも,このブログを編集の方が見て下さったことによります。やってみてよかったな,と思っています。

 これらの仕事に必要な元手(資本)は,机とパソコンだけです。現在,さまざまな統計資料を各省庁のホームページなどから無償でダウンロードできます。それをエクセルで加工して,グラフ化するのも,もちろんタダ。自分の作品をブログで公開・発信するのも当然タダ。「ないない尽くし」ではなく,「タダタダ尽くし」です。現代は,余暇社会・生涯学習社会です。自分の全身全霊を込めた創作活動をしたい,という方も少なくないことでしょう。そういう方は,自分の周りを冷静に見渡してみてください。資本はいくらでも転がっています。

 何やら,社会とどうつながるかも分からないような,オタク染みたことをやっている奴だな,と思われたかもしれません。ごもっともなのですが,私なりに考えていることはあります。自分の使命は何か,ということです。

 私は,2人の西村さんをすごいな,と思っています。一人は,作家の西村滋さん(1925年生まれ)です。若き頃(当時は終戦直後の混乱期),戦争孤児について語り継ぐという使命を自覚し,その後,関連する作品を数多く公にされています。私は,その中の『お菓子放浪記』が大好きで,何度も繰り返し読んでいます。もう一人は,こちらも作家で,今回芥川賞を受賞した西村賢太さん(1967年生まれ)です。破滅的な生を描く私小説を世に出し,「自分よりもだめな奴がいると思ってもらえたらうれしい。それで自分が社会にいる資格がある」と語られています。受賞作の『苦役列車』を読み,確かにそういう気持ちにさせられました。この両人に比べると,今の自分のしていることなんて,本当にスケールが小さいな,と思ってしまいます。

 私は,人の役に立つことをあまりしていません。自分がしていることは社会とどうつながるのか,自分が社会に対してできることは何かを常に意識しながら,少しずつ精進してゆきたいと思っております。