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2011年4月2日土曜日

失業率が上がると…

 震災の爪跡が深刻な状況ですが,昨日,全国の各地で入社式が行われたことと思います。晴れて就職し,社会人生活のスタートを切った方々は,さぞ希望に満ち溢れていることでしょう。

 その一方で,3月末で雇い止めにされ,無職状態になり,今後どうしたものかと途方に暮れている方もいることでしょう。「非正規」,「任期付き」という言葉に象徴される不安定雇用がはびこっている今日,その量的規模は決して少なくはないと思います。

 社会病理学を専攻する私としては,どうしても,後者の「おめでたくない」方々の話をしたくなります。こうした方々の多くは,就業の意志があり,これから求職活動をされるでしょうから,統計上は,完全失業者として括られます。働きたくても働けない…この種の人間がこれからどんどん増えて,完全失業率が上昇すると,どういう事態になるでしょうか。

 最も懸念されるのは,自殺の増加です。失業→生活困窮,自己アイデンティティの喪失→自殺,という連鎖は,よく指摘されるところです。事実,完全失業率と自殺率の時系列曲線は,かなり似通っています。下図をみてください。失業率は,総務省『労働力調査』から計算しました。自殺率は,厚労省『人口動態統計』から得ました。


 1980年代末のバブル経済の時期に下がり,それが崩壊した1990年代以降,急上昇している点もそっくりです。このおよそ40年間の数字から,両指標の相関係数を出すと0.904にもなります。大変高い値です。

 ここまで強く相関していると,失業率が分かれば,自殺率もだいたい言い当てることができます。今,1968年から2009年までのデータを使って,両指標の関係を定式化すると,次のようになります。Y=2.3757X+12.489です。Yは自殺率,Xは完全失業率です。

 2009年の失業率は5.1%ですが,この値を代入して,2009年の自殺率の理論値を求めると,2.3757×5.1+12.489≒24.6となります。これは,この年の自殺率の実値(24.1)と近い数字です。上記の関係式の予測精度は,かなりのものとみてよいでしょう。

 仮に,失業率が現在の倍の10%になったら,自殺率は,上記の式から36.2になることが予測されます。今から10年後の2020年にこういう事態になったとすると,この年の人口は約122,74万人ほどですので,実数にして,4万5千人ほどの自殺者が出ることが見込まれます。2009年の3万人の1.5倍です。

 国際比較をしたわけではありませんが,わが国は,失業(unemployment)という事態の重みがことのほか大きい社会であると思われます。今後,孤族化が進行し,頼れる親族がいない一人ぼっちの人間が増えるなか,「失業=生活崩壊」という図式は,ますます濃厚になっていくでしょう。それだけに,雇用対策の重要性が高まってきます。

 私見を申しますと,わが国の自殺対策は,個々人の心のケアというような,心理的側面にやや偏しているように思います。しかるに,失職状態が長引き,鬱になり,精神科を訪れる患者の多くは,「薬はよいから仕事をくれ」と思っているのではないでしょうか。社会的な側面からのアプローチがなされることも,希望いたします。