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2011年9月7日水曜日

自殺者の男性比

 フーテンの寅さんではないですが,「男はつらいよ」を実感させる統計があります。自殺者に占める男性の比率です。日本社会には,男女が半々ほどいますので,両性とも等しい確率で自殺をするならば,自殺者の組成は,50%:50%(1:1)になるはずです。

 ですが,現実はそうではないことはよく知られています。最近発表された,2010年の厚労省『人口動態統計』の結果によると,2010年中の自殺者数は29,554人だったそうです。性別にみると,男性が21,028人,女性が8,526人です。男性が71.2%を占めています。

 当然,人口あたりの自殺率も,男性のほうが格段に高くなっています。下図は,性別の自殺率と,自殺者中の男性比の長期的な推移をとったものです。自殺率は,ベースの人口10万人あたりです。


 自殺率のカーブについては,よく知られたことですので,ここではコメントを添えません。自殺者に占める男性の比率(緑色の棒グラフ)に注視すると,戦前期はだいたい6割ほどで推移していました。しかし,戦争が終わって,高度経済成長期に入ると,男性比は減少し,1969年の55.5%まで低下します。この時期に,両性の自殺率がかなり接近していることも明らかです。

 自殺者中の男性比は,70年代半ばから上昇に転じ,80年代後半のバブル期に下降します。ですが,その後の90年代以降,男性比は大きく上昇します。90年では61.3%であったのが,2000年では71.6%まで増えます。10年間で,10ポイントの伸びです。

 わが国の自殺率は,90年代の後半にかけて激増しましたが,その増分の多くは,男性によって担われていました。この時期の自殺率の伸び幅が,両性で大きく異なることは,図からも明白です。

 以上は人口全体の傾向ですが,年齢層別にみるとどうでしょうか。2010年の統計でみると,自殺者中の男性比が最も高いのは,55~59歳で78.4%となっています。この年齢層では,自殺者のほぼ8割が男性です。私の年齢層(30代後半)だと,男性比は73.3%です。

 年齢層別の様相を,過去と比べてみましょう。私は,1950年以降の5年刻みで,自殺者の男性比を年齢層別に出し,その結果を上から俯瞰できる図をつくりました。下図がそれです。


 それぞれの年における,各年齢層の男性比の値に基づいて,色をつけています。これによると,1995年以降,20代後半から60代前半のゾーンが,紫色で染まっています。男性比が7割を超える,ということです。2005年の45~54歳では,8割を超えています(黒色)。

 働き盛りの年齢層では,自殺者の7割以上が男性ということです。こうした傾向は,最近になって出てきたものであることも知られます。不況による自殺者増がいわれますけれども,その多くは男性によるものなのですねえ。

 ジェンダー(Gender)とは,社会的・文化的につくられた性のことですが,「一家を養うべきは男性,責任を取るべきは男性」という役割規範も,一種のジェンダーでしょう。こうした(悪しき)規範の相対化を目指した,ジェンダー・フリーの取組も進展してほしいものです。

 昨年の12月に策定された,第3次・男女共同参画基本計画は,「2020年に指導的地位に占める女性の割合を少なくとも30%程度にする」という数値目標を掲げています。http://www.gender.go.jp/kihon-keikaku/3rd/index.html

 その伝でいうなら,「自殺者に占める男性の比率を55%程度にする」という目標も考えられたりして…。女性の自殺者を増やすのではなく,男性の自殺者を減らすことによってです。

 でも,自殺者の多くが男性であるというのは,わが国に限ったことではないようです。WHOの統計から,2005年の数字を引くと,自殺者中の男性比は,アメリカは79.4%,フランスは73.6%,ドイツは73.3%,イギリスは75.5%,です。同年のわが国の値(72.8%)を凌駕しています。
http://apps.who.int/whosis/database/mort/table1.cfm

 ジェンダー規範の相対化が,多面的な角度からもっと徹底されなければならないのは,わが国だけではないようです。