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2012年7月13日金曜日

老後の生活設計の悩み

前々回の記事では,20歳以上の国民のうち,悩みや不安を持つ者がどれほどいるかを明らかにしました。資料は,内閣府の『国民生活に関する世論調査』です。

 1990年代以降の日本社会の雲行きの怪しさを象徴するがごとく,悩みや不安を抱く人間が増えてきています。その比率は,1990年では51.0%でしたが,2010年現在では68.4%,7割に迫る勢いです。とりわけ,50代のあたりに暗雲が立ち込めていることを,例の社会地図図式で確認しました。

 しかるに,悩みや不安といっても,その内実は多様です。今回から数回かけて,主な事由を取り上げ,当該事由に関する悩み・不安を持っている者の比率をみていこうと思います。今回取り上げる事由は,「老後の生活設計」です。

 上記の世論調査では,悩みや不安があると答えた者に対し,その事由を複数回答で尋ねています。2010年調査では,先ほど述べたように,悩みや不安がある者は全体の68.4%です。このうち,「老後の生活設計」という事由に○をつけたのは52.4%です。
http://www8.cao.go.jp/survey/index-ko.html

 したがって,老後の生活設計で悩んでいる者の比率を,調査対象者ベースで出すと,以下のようになります。「全体の68.4%のうちの52.4%」です。
 68.4 × 0.01 × 52.4 ≒ 35.8%

 ほう。現在では,20歳以上の国民の4割弱が老後のことで悩んでいるのですね。この比率は,1990年では16.7%,2001年では30.7%でした。数値が上昇してきていることが知られます。

 まあ,高齢層が増えているのですから,当然といえば当然です。では,数値の変化を年齢層別に観察してみましょう。おおよそ隔年のデータで,90年代以降の変化を俯瞰してみます。例の社会地図の登場です。老後の生活設計のことで悩んでいる者の比率を,色の違いから読み取ってください。


 10%刻みでラフに塗り分けましたが,高率ゾーン(膿)がどこにあるかが一目瞭然です。ズバリ,最近の50代です。黒色は,老後の生活のことで悩み,不安を抱いている者の比率が50%超(半分以上)であることを示唆します。

 リタイヤが間近な50代の数値が高いのは頷けますが,近年の増加傾向には目を見張るものがあります。1990年では20%台,世紀初頭の2001年では40%台になり,2008年に50%台にのっています。年金崩壊などがいわれる最近の情勢と,気持ち悪いくらい歩調が合っています。

 なお,若年層でも,老後の不安はじわじわと広がってきています。私の属する30代後半でいうと,90年は15.8%,01年は26.0%,08年には36.6%にまで比率が高まりました。08年の高騰は,リーマンショックの影響でしょう。10年はやや落ち着いて27.7%に下がりましたが,私の年齢層でも,4人に1人が老後のことで悩んでいるのです。

 これは,制度(年金等)の不備の問題という側面を強く持っていますが,若者当人の意識の問題ともいえます。20代や30代のうちから,必死に電卓をたたいて,老後にもらえる年金額を推計する・・・。こんなことは,私はしたくないな,と思います。

 まあ,このご時世ですから,常に先のことを考えて行動しなければならないのは確かですが,「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」。「今を一生懸命生きる」という考えも,併せ持とうではありませんか。

 だいぶ先のことなんて,分かりはしません。おそらく,年金制度も現行のものとはガラリと変わっていることでしょう。天変地異(首都圏地震)によって,社会制度が総「白紙化」してしまうかもしれません。これまでの年金記録,オール消失。⇒70歳以上の国民の年金額は,全員一律**円など。

 確か,諸冨祥彦教授の『とりあえず,5年の生き方』(実務教育出版,2010年)に,こういうことが書いてあったような気がします。
http://jitsumu.hondana.jp/book/b80863.html

 「あと5年で死ぬかもしれない」と,とりあえず仮定する。多くの人がこれを実践すれば,上図の模様はガラリと変わることでしょう。そういう社会を,「トンデモ」社会と決めつけることができるでしょうか。

 次回は,自分の生活(進学,結婚,就職など)に関する悩み・不安の量を,同じやり方で俯瞰してみようと思います。予想がつくでしょうが,膿の部分が今回の図とは違っています。