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2012年9月13日木曜日

職業別の年収と労働時間

 前回は,『国勢調査』のデータをもとに,232の職業について,就業者の女性比率と非正規率と明らかにしました。

 これは,それぞれの職業従事者の属性分析ですが,各職業の年収や労働時間というような待遇面はどうか,という関心をお持ちの方が多いと思います。事実,職業別の年収ランキングというような類の週刊誌記事が,世間の耳目を集めることがしばしばです。

 この問題については,昨年の9月21日の記事でも扱いましたが,そこにおいては,性別や年齢といった要因を統制していません。前回の記事でみたように,職業によって女性比率は大きく違いますし,年齢構成も異なります。たとえば,大学教授などは多くが男性で,大半が40歳以上です。

 今回は,性別と年齢を揃えた比較を行うこととします。また,先の記事では,それぞれの職業の月収に注目したのですが,ここでは,賞与などの諸手当をも含んだ「年収」を出してみようと思います。上記リンク先の記事と今回の記事の違いは,このようなものです。

 依拠する資料は,2011年の厚労省『賃金構造基本統計調査』です。この資料から,自分が属する30代後半の男性について,118の職業の年収と月あたりの労働時間を明らかにしました。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chingin_zenkoku.html

 本資料によると,2011年の30代後半男性の高校教員の所定内月収は41.6万円です。同年中の賞与等の平均額は169.6万円。よって,この職業の年収は,(41.6×12か月)+169.6 ≒ 669.0万円と算出されます。ほう。自分と同年齢の高校の先生は,700万円近く稼いでいるのだなあ。顔が浮かぶのが何人かいます。イイナ。

 次に,もう一つの勤務条件指標である所定内労働時間はというと,月あたり170時間。月20日勤務とすると,1日あたり8.5時間という計算になります。多忙な先生方からすると,リアリティのかけらもない数字に思えるでしょうが,所定内実労働時間(総実労働時間数から超過実労働時間数を差し引いた時間数)は,このようになっています。

 では,他の職業についても,同じ数字をみていただきましょう。118の職業の数値をベタな一覧表で示すというのは芸がないので,前回と同様,2指標のマトリクス上に各職業を位置づけてみます。横軸は労働時間,縦軸は年収です。点線は,118職業の平均値を意味します。


 予想通りといいますか,年収のトップは医師です。30代後半にして,年収1,112万円なり。次が歯科医師(865万円),大学教授(860万円),記者(844万円),弁護士(799万円),という具合です。なお,これらの年収ベスト5のうち,弁護士だけは,労働時間が平均よりもかなり長くなっています。

 赤字のドットは教員の位置を示唆します。大学の先生は,給与が高い上に,労働時間も短くていいなあ,と思われるかもしれませんが,そう単純な話ではありません。大学教員は,週3~4日出校というのが相場ですが,大学に行かない日だって,自宅で原稿を書いたり,各種の雑務をしたりしています。大学教員にとっては,本を読んで知識を吸収することも,見方によっては,研究という名の「労働」といえるでしょう。こういうことを勘案すると,大学教員のドットは,図の右側に大きくシフトします。まあ,他の専門職でも同じでしょうが。

 今回は,30代後半男性のデータをみましたが,もっと年齢を上がれば,労働時間や年収の分布幅はもっと広がることと思います。たとえば,50代後半男性の医師の年収を同じやり方で推し量ると1,669万円にもなります。高校教員は933万円。30代後半時点よりも,差が開いています。

 また,女性でみるとどうか,という関心もあるでしょう。30代後半女性の高校教員の年収は589万円であり,先ほどみた男性の額(669万円)とかなりの差がありま。給与の男女差が大きい職業を探り当てるのも,また一興です。後の課題として,取っておきましょう。