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2012年9月22日土曜日

博士課程修了者の大学教員就職率

 8月30日の記事でみたように,大学院博士課程修了生の中には無業や進路不明という状態になってしまう者が多いのですが,その一方で,修了(満期退学)と同時に,大学教員のポストをゲットできる幸運な輩もいます。

 文科省の『学校基本調査(高等教育機関編)』では,博士課程修了者の進路が明らかにされているのですが,そこにて,就職者がどのような職業に就いたのかも知ることができます。2011年度の資料によると,同年3月の修了生数(満期退学含む)は15,892人で,そのうち大学教員に就職した者は2,369人と報告されています。よって,この年の大学教員就職率は14.9%となります,7人に1人です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001037176&cycode=0

 これは,有期の特任助教のような非正規採用も含む率です。まあ,こんなものかな,という気はします。これは現在値ですが,以前に比してどう変わったのかに興味が持たれます。1980年(昭和55年)以降の推移を,10年刻みでたどってみました。修了生全体に加えて,文系の3専攻系列の動向にも目配りしましょう。


 まず全体からみると,大学教員就職率は,この30年間で30.5%から14.9%へと半減しました。とくに1990年代の減少が著しく,この期間中に値が10ポイントも落ちています。この時期に大学院重点化政策が実施され,博士課程院生が激増したのですが,そのことの影響もあるでしょう。

 近年,やや盛り返していますが,これは,特任の助教・講師などの非正規採用の増加で賄われたものではないかしらん。

 専攻系列別にみても,率は下がってきています。とりわけ,社会科学系での低下が顕著です。社会科学系の場合,1980年当時では,修了者の半分近くがストレートで大学教員になれていたのですね。しかし今では,ストレート就職率は2割を切っています。

 私が出た教育系は比較的数字が安定しており,現在でも,28.2%が修了(退学)と同時に大学教員の職にありついています。まあ,非正規も含む数値ですので,こんなものでしょうか。近年は,学校教員の採用増を見越して,教育系学部の新設が相次いでいますが,そのことも寄与しているのではないでしょうか。

 次に,性別による違いを観察してみましょう。以前は,男子のほうが圧倒的に有利でした。とある先生に聞いたところによると,女子が博士課程進学を希望しようものなら,「バカなことを考えないで,さっさと結婚しろ」などと,平然とたしなめられたそうな。1980年代の初頭あたりの話です。

 しかし,今では状況が真逆になっています。研究者の女性比率を増やそうという政策があって,「女性の応募歓迎」,「業績が同等なら女性を採用」という気風がとみに強まっています。

 はて,博士課程修了者のうちの大学教員就職率の性差は,どう変化してきたのでしょう。私は,上表の4つの時点について,修了生全体と3専攻系列の男女別就職率を計算しました。下図は,横軸に女子,縦軸に男子の大学教員就職率をとった座標上に,各グループの4時点の数値を位置づけ,線でつないだものです。


 点線の斜線は均等線です。この線よりも下方に位置する場合,男子よりも女子の就職率が高いことを意味します。まず,青色の修了生全体の線をたどると,1980年から90年にかけて性差が縮まり,2000年以降は女子の率が男子を凌駕しています。人文科学系では,この傾向がもっと強く,2011年現在では,女子の就職率(23.9%)が男子(13.8%)を10ポイントも上回っています。

 社会科学系はというと,今でも男子の優位が保たれています。しかるに,1980年当時の大きな差が縮小していることに注意しましょう。教育系の場合,男女にバラすと数が少なくなることもあって,傾向が安定しません。こちらは,参考程度ということで。

 博士課程修了生の大学教員就職率は下がっていること,女子の優位性が時代とともに強まっているこを知りました。わが国の研究者の女性比率は国際的にみて最低水準ですので,後者の傾向は好ましいことだと思います。しかし,前者は・・・。

 回を改めて,理系の専攻も交えた分析も行うつもりです。その場合,大学教員だけでなく,科学研究者への就職者数も考慮に入れなくてはなりますまい。後の課題とします。