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2012年12月2日日曜日

東京の年収地図

 総務省は,5年おきに『住宅・土地統計調査』を実施しています。住宅の種類別数や土地の広さなど,住宅・土地に関する基礎統計ですが,調査対象世帯の年収分布も明らかにされています。
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2008/index.htm

 すごいことに,それを全県内の市区町村別に知ることができます。これを使えば,各市区町村の世帯の平均年収を計算することが可能です。細かい地域別の平均年収を出せる資料などないと思っていましたが,探せば出てくるものですね。シノドス・ジャーナルに寄稿した文章にも書きましたが,わが国はまさに「統計大国」です。
http://synodos.livedoor.biz/archives/1990703.html

 この資料を用いて,東京都内の市区町村別の平均年収を計算してみました。今回は,その結果をご覧に入れようと思います。

 『住宅・土地統計』の対象は,単身世帯等も含む全世帯です。調査対象の世帯に尋ねている年収の意味ですが,用語解説によると,「世帯全員の1年間の収入の合計」だそうです。ボーナスや財産収入等も,軒並み含むとのこと。各世帯の年収額が正確に把握されているといえるでしょう。
 
 最新の2008年調査のサンプルをもとにすると,私が住んでいる多摩市の世帯の年収分布は,以下のようになると推計されます。年収が分からない世帯を除いた,52,640世帯の年収分布です。


 年収300万円台の世帯が最も多くなっています。非就労世帯や単身世帯等も含む分布ですから,こんなものでしょう。200万未満の貧困世帯は14.6%,1,000万以上の富裕世帯は11.1%です。ちなみに私の年収は・・・。まあ,最頻値(Mode)の近辺の階級に含まれるとでも申しておきましょう。

 では,この分布を使って,年収の平均値(average)を出してみましょう。各階級に含まれる世帯の年収は,一律に中間の値(階級値)で代表させます。100万円台の5,110世帯の年収は,一律に150万円であるとみなします。200万円台の階級は,250万円です。上限がない1,500万円以上の階級については,ひとまず2,000万円としておきましょう。

 このような仮定を置くと,多摩市の世帯の平均年収は,次のようにして算出されます。全世帯数を100とした,相対度数を使ったほうが計算が楽です。

[(50万円×4.8世帯)+(150万円×9.7)+・・・(2,000万円×2.6)]/100.0 = 552.2万円

 多摩市の平均世帯年収は552万円なり。働き盛りの世帯に限定すればもっと値は高くなるでしょうが,あらゆる世帯をシャッフルした結果ですので,まあ,この辺りでしょう。

 同じようにして,都内51市区町の平均世帯年収を出してみました。下の地図は,50万円の区切りを設けて,それぞれの地域を塗り分けたものです。東京の年収地図とでも呼んでおきましょう。


 同じ都内でも,年収の水準には相当の地域差がみられます。最高は千代田区の783.5万円,最低は武蔵村山市の438.0万円です。この両端では,300万円以上もの開きがあります。おそらく住民の年齢構成の違いを反映したものでしょうが,これほどまでの差があるとは。

 黒色は,世帯の平均年収が600万円を超える地域です。ほとんどが都心部に位置しています。都内の富裕地域です,一応,名前を挙げておきましょう。千代田区,中央区,港区,文京区,目黒区,世田谷区,渋谷区,そして稲城市です。

 上記の地図はおそらく,子どもの学力地図と模様が似通っていることと思います。富裕地域ほど子どもの学力が高いという傾向は,よく指摘されるところです。上の地図を,さまざまな教育指標の地図と照らし合わせることで,教育現象の社会的規定性を明らかにすることができるでしょう。この年収地図を,せいぜい活用したいと思います。

 本記事をご覧になっているあなた。『住宅・土地統計』のデータにあたって,ご自身の県の年収地図をつくってみられたらいかがでしょう。統計の授業では,学生さんにこういう作業をやらせようかしらん。度数分布から代表値を出すやり方の一貫としてです。興味を持ってもらえるのではないかなあ。

 私の郷里は鹿児島ですが,同県内の市町村を東京と同じ基準で塗り分けたら,真っ白になったりして。鹿児島は所得水準が低いですから。各県の年収地図は,さぞバラティに富んだものになるでしょう。