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2012年12月29日土曜日

嫌われる学歴回答

 『国勢調査』の結果が続々と公表されていますが,最新の2010年調査の目玉は,国民の学歴が調査されていることです。この変数をコアにして,さまざまな分析を手掛けている社会学の研究者も多いと思います。私も,その端くれの一人です。

 ところで,学歴の調査結果をみていて気になることがあります。学歴不詳というカテゴリーに含まれる人間の多さです。2010年調査でいうと,在学者や未就学者を除く学校卒業人口は1億244万人ですが,そのうち,1,338万人が学歴不詳と報告されています。額面通りにとると,学校卒業者の学歴不詳率は13.1%ということになります。

 自分の最終学歴を知らないという者はほぼ皆無でしょう。考えられ得る理由は,回答漏れか回答拒否のいずれかですが,おそらくは大半が後者であると思われます。

 人間誰しも,突っ込んだことを聞かれるのには抵抗を感じるものです。「こんなこと,答えにゃいかんのか」。怒りにも似た思いを抱いて,学歴欄はどの選択肢にもマークしないで調査票を出す。こういう人もおられると思います。

 学歴不詳率が13%にもなると,国民の学歴分布を正確に把握するのは難しくなります。しかるに,この値を細かい地域別に計算すると,とてつもない値が次から次へと出てきます。2010年の『国勢調査』結果をもとに,首都圏(1都3県)の243区市町村の学歴不詳率地図をつくってみました。MANDARAは便利。この手の地図の作成もらくらくです。
http://ktgis.net/mandara/


 黒色は,25%(4人に1人)を超える地域ですが,東京の23区のほとんどが黒く染まっています。単身の若者が多いためでしょう。

 豊島区の場合,学校卒業人口23万9千人のうち,10万2千人が学歴不詳となっています。当該区の学歴不詳率は42.9%です。ここまでくると,住民の学歴構成を知るための資料としては使えません。

 他にも,学歴不詳率が高い地域は数多し。こうなると,地域単位の統計を使って,社会階層と子どもの教育達成の関連を分析するというような研究はできなくなります。学術研究のみならず,各種の企画・政策立案等にも支障が出てくることでしょう。

 『国勢調査』において,学歴不詳率が高まってきたのは,つい最近のことです。1990年は1.6%,2000年は3.8%であったのが,2010年になって13.1%にまで急上昇しています。

 2003年の個人情報保護法制定に象徴されるように,今世紀以降,われわれは個人情報にピリピリするようになっています。自分の回答が変なことに使われるのではないか・・・。『国勢調査』は記名式ですので,そういう警戒心が生まれるのも無理からぬことです。

 ですが,公的な基幹統計調査にあっては,情報漏洩の心配はありません。きちんと回答し,正確な統計資料が作成されることに貢献したいものです。

 なお,『国勢調査』のような基幹統計調査への回答は法で義務づけられており,それを拒むことはできません(統計法第13条)。この義務の履行を怠った場合,50万円以下の罰金刑が科されることになっています(第61条)。
http://www.stat.go.jp/index/seido/houbun2n.htm

 こうした法規定をもっと厳格に適用していく必要があるかもしれません。と同時に,社会調査全般への不信を増長させてしまうような,安易な調査の実施は慎まねばなりますまい。あと一点。われわれは個人情報にいささか過敏になり過ぎている向きがあるので,個人情報保護法の規定を正確に知らしめる啓発活動も重要といえましょう。