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2013年2月19日火曜日

20代の展望不良

 前回は,内閣府の「少子化に関する国際意識調査」(2011年3月)の結果を用いて,未婚率・恋人なし率の学歴差が,国によってどう違うかを明らかにしました。
http://www8.cao.go.jp/shoushi/cyousa/cyousa22/kokusai/mokuji-pdf.html

 本調査には,興味深い設問が多く盛られていますが,最後の問46において,「あなたの生活は,これから先,どうなっていくと思うか」と尋ねています。いわゆる将来展望です。人間は,他の動物と違って,今だけを考えて生きているのではありません。いつだって,後々のことを展望しています。

 たとえ,今の状況が思わしくなくとも,「これから先はよくなっていく」という展望が開けているなら,そのことはさほど苦にならないものです。若者にあっては,こういう心理状態の者が多いことでしょう。
 
 20代の若者は,上記の問いに対し,どういう回答を寄せているのでしょう。日本を含む5つの社会の回答分布を比べてみました。(   )内の数字はサンプル数です。


 日本だけが特異な回答分布になっていますね。他の社会では,20代の8割ほどが「これら先,生活はよくなっていく」と答えていますが,日本では,そういう良好な展望を持っている者は半分もいません。最も多いのは,今後も変化はあるまい,という回答です。

 非正規化,ワープア化という言葉に象徴されるように,今の日本の若者の状況は芳しいものではありません。しかるに当の若者の半分は,こういう状態がこれからずっと続くだろう,という見通しを持っています。もっと悪くなるだろうという,悲観的な展望を持っている者も6%ほどいます。

 「少子化に関する国際意識調査」というタイトルからうかがわれるように,本調査は,少子化と関連するとみられる人々の意識を明らかにすることを目的としたものですが,若者の将来展望がこれでは少子化も進むだろうな,という感じを持ちます。

 日本は,若者の閉塞感が強い社会であるようですが,このことは,彼らの逸脱行動とも関連していると思われます。実は,内閣府の『国民生活に関する世論調査』でも同じ設問が設けられており,回答の変化を時系列でたどることができます。
 http://www8.cao.go.jp/survey/index-ko.html

 私は,20代の回答変化のトレンドが,同年齢層の自殺率とどういう相関関係にあるかを調べました。自殺率とは,当該年齢層の自殺者数を,同年齢層の人口で除した値です。分子の自殺者数は厚労省『人口動態統計』,分母の人口は総務省『人口推計年報』から得て計算しました。

 下図は,横軸に「これから先,生活が悪くなっていく」と答えた者の比率,縦軸に自殺率をとった座標上に,1980年から2011年までの30の年次のデータを位置づけたものです。内閣府の上記世論調査が実施されていない,1998年と2000年は除きます。今世紀以降の年のドットは赤色にしています。


 いかがでしょう。この30年間の統計でみると,若者にあっては,展望不良の者が多い年ほど自殺率が高い傾向が明瞭です。両指標の相関係数は+0.777であり,1%水準で有意です。

  前途ある若者にあっては,将来展望如何は「生」にも影響することが知られます。ちなみに20代のデータでは,上図の展望不良率は,失業率や離婚率のような生活不安指標よりも,自殺率と強く相関しています。こうした傾向は,若者に固有のものであることも付記しておきましょう。詳細は,下記拙稿をご覧いただけますと幸いです。
http://ci.nii.ac.jp/naid/40016941572

 若いのですから,給料が安いとか,贅沢ができないとかいうのは仕方ありません。でも,そういう状態がずっと続くと思わされることは,彼らにとって多大な苦痛の源泉となるでしょう。

 高度経済成長期のような頃とは違って,現在は「先行き不透明」な時代です。こういう状況を,意識の上において深刻に受け止める度合いが高いのは,若年層であるとみられます。自らを殺めるほどまでにです。

 「展望不良」。「非正規化」や「ワープア化」というような語に比べると注目度は低いですが,現代の若者の危機を解釈する上において,最も重要なキーワードであると私は考えています。