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2014年6月12日木曜日

10代の悩みの階層差

 多感な10代(ティーン)は,各種の悩みがついて回る時期です。しかるに,10代は一枚岩の存在ではありません。教育社会学ではこれまで,性や学識地位(学生か勤労青年か…)による違いが分析されてきましたが,社会階層という変数を入れてみるとどうでしょう。

 「またか」と顔をしかめられた方もおられると思いますが,こういうことを明らかにするのが私の商売ですので,ご容赦ください。今回は,10代の悩みの階層差を分析してみようと思います。

 用いるデータは,内閣府の『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』(2013年度版)です。本調査では,対象の青年層に対し,父母の最終学歴を尋ねています。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/pdf_index.html

 日本の13~19歳の対象者(以下,10代)は349人です。前回と同様,父母とも大卒の者を「上層」,父母とも非大卒の者を「下層」と括ることにしましょう。ローデータが手元にありますので,こうしたオリジナルな操作も可能です。これによると,上層は103人,下層は246人という構成になります。

 サンプルをこのように仕分けた上で,心配事に関する設問への回答結果をみてみようと思います。本調査の問5では,14の項目を提示して,それぞれについてどれほど心配かを問うてています。選択肢は,①心配,②どちらかといえば心配,③どちらかといえば心配でない,④心配でない,の4つです。

 ここでは,最も強い肯定の回答(①)の比率を拾うことにしましょう。下の図は,上層と下層のお悩みプロフィール図です。


 どの項目でも,下層の肯定率が高くなっています。勉強や進学の悩みは,上層の少年のほうが多いかと思っていましたが,さにあらず。

 ★は10ポイント以上の差がある項目ですが,まあ,お金の悩みに階層差があるのは頷けます。しかし,健康,容姿,体力のような身体面の悩みにも明瞭な階層差があるのですね。1月28日の記事では,子どもの体力の社会的規定性をみたのですが,その知見とつながっています。

 学力だけでなく,体力も「おカネ」で決まる時代。都市化により,子どもの遊び場が少なくなってきていますが,こういう状況下では,(有償の)スポーツクラブに通えるか否かが重要になってくるでしょう。

 しかるに私が注視したいのは,将来展望の階層差です。「将来が心配である」の肯定率の差は18ポイントもあり,お金の心配に次いで開きが大きくなっています。前回は,青年期における希望格差拡大現象をみたのですが,前途あるティーンの将来展望が,「生まれ」によって規定されるというのは問題であると考えます。

 ちなみに,ティーンの将来不安の階層差は,わが国に特徴的な現象ともいえます。7か国について,将来が不安だと答えた10代の比率をグラフにすると下図のごとし。


 率の水準が最高なのは韓国ですが,階層差が最も大きいのは日本のティーンです。イギリスでは上層の将来不安が大きくなっていますが,階層下降に対する恐れでしょうか。

 わが国では,階層による貧富の差は諸外国に比して小さいといわれますが,希望の階層差は,もしかすると世界で最高のレベルなのではないでしょうか。日本の青年の希望閉塞は,最近の状況を思うとさもありなんですが,そのしわ寄せを食っているのが下層の青年であることには,十分な注意が向けられるべきです。

 このことは,教育機会に階層差が厳として存在することも反映ではないでしょうか。たとえば,大学まで進学できる展望のある者とそうでない者との差です。よく言われるように,わが国の大学の学費はメチャ高ですしね。*お隣の韓国も。

 今回みたような病理現象を治療するに際しては,教育機会の均等化策が大きな位置を占めると考えます。2010年度より,高等学校の就学支援金制度が導入されましたが,一段上の高等教育段階でも,段階的な施行が望まれるでしょう。

 前途ある青年層が将来に希望を持てない,しかもその程度に階層差がある。先進国・日本の,「見えざる」負の側面がここに見出されます。